日本大百科全書(ニッポニカ) 「ペンギン・ブックス」の意味・わかりやすい解説
ペンギン・ブックス
ぺんぎんぶっくす
Penguin Books
イギリスのアレン・レーンSir Allen Lane(1902―70)が1935年に発刊した世界的に著名なペーパーバック・シリーズ。まず、ヘミングウェイ著『武器よさらば』など10点、各2万部ずつが、1部6ペンスという低価格で発売された。書店だけでなく、新聞売店、小売チェーン店、百貨店といった非書籍販売組織を利用して売り出され、内容の質の高さや簡潔で上品な表紙デザインが人気をよび、好調な売上げを達成した。その後ノン・フィクションを主とするペリカン・ブックスPelican Booksをはじめとして、数多くの姉妹シリーズが刊行されるに至っている。アメリカではペンギン・ブックスの成功にヒントを得て、1939年にマス・ペーパーバック・シリーズ、ポケット・ブックスPocket Booksが1部25セントで発刊されるなど、世界的な「ペーパーバック革命」の推進、普及役として多大の貢献を果たしている。
[金平聖之助]
ペンギン社
1935年、アレン・レーンによって設立されたイギリスの出版社。社名の名付け親はアレン・レーンの秘書で、ペンギンのシンボル・マークは製作担当のヤングEdward Youngがデザインした。ペンギン社はD・H・ローレンスの『チャタレイ夫人の恋人』無削除版を1960年に出版し、発禁処分にあったが、裁判で争った末に無罪を勝ち取り、イギリスの出版界に新しい時代をもたらした。70年、レーンがこの世を去った翌日、ペンギン社はイギリス最大の出版グループの一つであるピアソンPearson PLCの傘下に入った。ペンギン社は創業以来、質量ともにイギリス最大のペーパーバック出版社の地位を保っているだけでなく、傘下のハードカバー出版社アレン・レーン・プレスAllen Lane Pressも健在である。1980年代に入ってからも、ペンギン社はイギリスの老舗(しにせ)出版社フレデリック・ウォーンFrederick Warne、マイケル・ジョゼフMichael Joseph、ハミッシュ・ハミルトンHamish Hamiltonなどを傘下に収め、一大文芸出版社グループを構築している。1990年代以降は、ペンギン・オーディオ・ブックス、パフィン・オーディオ・ブックスを立ち上げ、マルチメディア出版にも進出。また、アメリカでも活発な活動を展開し、ペンギンUSAは娯楽大衆小説の大手プトナム・バークレーPutnam Berkleyを買収、1996年にペンギン・プトナム社Penguin Putnam Inc.を設立し、英文一般書籍の出版グループとしては世界有数の規模を誇るまでになっている。1999年、財政破綻(はたん)に瀕(ひん)したドーリング・キンダースレーDorling Kindersleyを買収して話題をさらった。ペンギン・グループの2000年の売上高は7億5500万ポンド。同年の売上げの約70%は北アメリカ市場が占める。
[青木日出夫]
『J・E・モーパーゴ著、行方昭夫訳『ペンギンブックス――文庫の帝王A・レイン』(中公文庫)』▽『P・スフリューデルス著、渡辺洋一訳『ペーパーバック大全 USA 1939‐1959』(1992・晶文社)』