ホラガイ(読み)ほらがい(英語表記)trumpet shell

改訂新版 世界大百科事典 「ホラガイ」の意味・わかりやすい解説

ホラガイ (法螺貝)
trumpet triton
Charonia tritonis

フジツガイ科の日本最大型の巻貝。殻の高さ43cm,幅22cmに達する。卵円錐形で螺塔は高く10層余になる。殻頂部は赤みを帯びる。螺層は低くて太い螺肋(らろく)をめぐらし,黄褐色の地に多くの暗褐色の半月形の斑紋が成長脈に沿ってあるが,これはヤマドリの羽の模様に似ている。幼貝は細く高いが,成貝では最後の体層が丸くよく膨らむ。殻口は大きく,外縁は丸く湾曲し,外側へ広がり厚くなる。殻口内は紅橙色。水管溝は太くて短い。ふたは楕円形で角質で厚く,黒褐色。紀伊半島以南のインド・太平洋に広く分布し,潮間帯下より水深20mの岩礁底にすむ。乳頭状の卵囊を多数かためて産む。肉食性でウニ,ヒトデなどの棘皮(きよくひ)動物を好んで食べるので,サンゴ礁を害するオニヒトデ天敵として注目されている。肉は食用にし,殻は殻頂を切って歌口をつくり楽器として吹き鳴らす。

 修験道の法具として山伏が用いたほか,時報としても吹かれた。軍陣では号令合図に用いられたので陣貝ともいわれ,貝役は主将について軍の進退を知らせた。池田輝政が岐阜城を攻めたとき,貝吹弥左衛門が機を逸せず貝を吹き立て勝利に導いたが,そのときの法螺貝が池田家の家宝になっているという。大きい音を出すことから,事実よりおおげさにいうのを〈法螺を吹く〉という。
執筆者: 法螺貝は修験者には不可欠の法具である。山岳修行,法会などで読経,合図,指令に用いられ,出寺,入宿,案内,応答,駈相,説法など吹く場合によって吹き方や回数が異なる。法螺の音は,獅子吼釈迦の説法)にたとえられるが,悪霊や猛獣を退ける呪力をもつとともに,神霊を驚愕させて奮い立たせる力があるといわれ,結界や勧請にも使用する。法螺には,螺緒(かいのお)というひもがついており,命綱ともなるが,これは修行者の臍(へそ)の緒に擬せられる。また法螺貝は,メラネシアなどでは漁労の合図用に,インドのヒンドゥー教では儀礼用に用いられ,その使用範囲は日本に限らない。
執筆者:


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ホラガイ」の意味・わかりやすい解説

ホラガイ
ほらがい / 法螺貝
trumpet shell
[学] Charonia tritonis

軟体動物門腹足綱フジツガイ科の巻き貝。大形種で、紀伊半島以南の熱帯西太平洋からインド洋にかけて分布し、サンゴ礁の潮間帯下にすむ。殻高は40センチメートルを超え、殻径も19センチメートルに達し、日本では巻き貝中の最大種である。殻は厚く堅く重く、螺層(らそう)は10階以上あり、上方の螺層はやや細いが、体層はとくに大きく丸く膨らむ。螺層上には低くて丸みのある太い螺肋(らろく)があり、その上には褐色、紅色、白色などの半月形の斑紋(はんもん)が交互に現れて、ヤマドリの羽状の文様を表す。ところどころに縦張肋がある。殻口は広く、外唇は丸く湾曲して縁はすこし反り返っている。外唇縁に沿って黒と白のひだ状の畝(うね)が並んでいる。軸唇は黒褐色で、この上に多数の白いひだが並び、しわ状。殻口の内部は橙紅(とうこう)色である。蓋(ふた)は革質で楕円(だえん)形。核は中央より下方に偏っている。軟体部は、ややくすんだ紅色斑が網目状に組み合って配置している。触角には黒色帯がある。

 ホラガイはヒトデ類を好み、毒棘(きょく)をもつオニヒトデも食べる。ホラガイの肉は地方によっては食用にされるばかりでなく、殻は大きく、器や工芸用、観賞用などに利用されるため、多く採取される。日本の戦国時代の陣貝や、現在でも山伏が用いる法螺(ほら)は、本種の殻の殻頂を切り取り吹き口をつけたものである。このような吹奏用としての用途は、熱帯太平洋でも広くみられ、島嶼(とうしょ)の原住民の間で合図の道具や楽器として利用されてきた。

 本種とよく似たボウシュウボラC. sauliaeは、殻高が本種の半分ぐらいで、房総半島から沖縄まで分布する。軟体のようすもよく似ていて、やはりヒトデ類を好む。

[奥谷喬司]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ホラガイ」の意味・わかりやすい解説

ホラガイ
Charonia tritonis; trumpet shell

軟体動物門腹足綱フジツガイ科。殻高 40cm,殻径 19cmに達する大型巻貝。殻は卵円錐形,螺塔は高く,体層は大きく丸くふくらむ。殻表には太く低い螺肋があり,その上に紅,白,褐色などの三日月状斑が交互に多数現れ,ヤマドリの羽のような模様になる。螺層上に 240°ごとに休止の縦肋を生じる。殻口は大きく,外唇は丸く,縁は外方へ広がる。殻口内は紅色。ふたは卵形,革質で厚く,黒褐色。軟体は淡黄色地に褐色の小斑を散らす。また触角は黄色と黒褐色の帯が交互に取巻く。紀伊半島以南,太平洋,インド洋に広く分布し,潮間帯下の岩礁やサンゴ礁にすみ,ヒトデ類を好んで食べている。肉は食用。殻は先端を切って吹くと大きな音が出るので,南洋などでは楽器として使われる。なお山岳仏教では修験道の山伏の携帯品となり,法螺として吹鳴らす。また時報にも用い,その昔戦陣の合図にしたので陣貝ともいう。

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世界大百科事典(旧版)内のホラガイの言及

【貝】より

… このほか,ヤップ島ではクロチョウガイを磨いて穴をあけた貝貨や,シロチョウガイを短冊形にした貝貨が使われ,アメリカインディアン(西海岸)ではツノガイをひもで通して貝貨とした。
[信仰,俗信]
 ホラガイの殻の細くなった先に歌口をつけて吹くと,殻内で共鳴して大きい音が出るので,戦陣での号令,時報などに使われ,また山岳宗教では修験者(山伏)の携帯具となっている。字も法螺貝と仏教に関係深い。…

【山伏】より

…山岳で修行することによって超自然的な力を体得し,その力を用いて呪術宗教的な活動を行うことを旨とする修験道の宗教的指導者。山に伏して修行することから山伏と呼ばれた。山臥とも書く。また験を修めた者という意味で修験者,一宗一派にかたよらず諸山を歴訪するところから客僧ともいわれる。 日本では古来山岳は霊地としてあがめられていたが,奈良時代以降仏教や道教の影響で山岳で修行し,験力をえて呪術を行う者があらわれてきた。…

※「ホラガイ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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