マリ(民族)(読み)まり(英語表記)Mari

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マリ(民族)」の意味・わかりやすい解説

マリ(民族)
まり
Mari

ロシアに住むウラル系少数民族の一つで、ボルガ川中流のロシア連邦マリ・エル共和国の主要な住民である。チェレミス人Cheremisともよばれていた。周りのロシア語とはまったく別なボルガ・フィン語派のマリ(チェレミス)語を使用していて、隣接する同連邦内のモルドビンモルドバ)共和国のモルドビン(モルドバ)人に近く、6世紀中ごろの東ゴート王国の年代記に出てくるスレムニスカンが彼らのことであるといわれている。その居住地域によって「山地」「草地」「東」などに分けられるが、農民として「山地」住民が比較的裕福なのに比べて、「草地」の人々はボルガ川北岸の低湿地帯に長く恵まれない状態で置かれたまま今日に至っている。「東」は、帝政時代に過酷な税から逃れて移住した人々の子孫が住み着いた場所であるという。自然の採集法で知られる蜂蜜(はちみつ)や蜜蝋(みつろう)は19世紀初めごろまでは重要な交易物資であり、また貢納品でもあった。最近では森林地帯での製材パルプ工業に従事する人々が多く、女性の間では伝統的な装飾品に飾られた衣装が伝えられ、音楽ではバグパイプ、チター属の半円型弦楽器、白樺(しらかば)の皮でつくった笛などの民族楽器が知られている。恵まれた口承文芸からは民族文学も生まれている。現在では2種類の文章語による新聞が発行されていて、首都ヨシカル・オラの民族科学研究所からは歴史、経済、民俗学などの研究成果が刊行されている。最近は、旧ソ連内の同系族であるエストニアなどとの交流が盛んである。

菊川 丞]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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