フランスの哲学者,社会学者。1902-27年パリ大学で現代哲学史を担当した。哲学畑ではライプニッツ,F.H.ヤコビ,コント研究などを残したが,のちÉ.デュルケームの社会学的立場に共鳴し,《道徳と習俗学》(1903)では社会的事実としての道徳・習俗の実証的研究を主張した。これを転回点として後半生を費やして成ったのが,西洋文明社会の合理的思考と対比的な〈未開心性mentalité primitive〉の提唱だった。《下級社会における心的機能》(1910。邦訳名《未開社会の思惟》)以降の六つの大著では広範囲の民族誌資料によって,神秘的かつ前論理的思考様式の存在を立証しようとした。矛盾律に無関心なこの心性は,〈融即の法則loi de participation〉に従う点で西洋的思考とは異なったタイプに属するとみたのである。晩年はこの二分法を和らげ,死後発表された《手帳》では二つの心性の併存を普遍的に認める立場をとった。賛否いずれにせよ,未開心性の提唱にこめられた異文化理解の課題は民族学に大きな影響を与えた。
執筆者:関 一敏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…宗教と呪術の区別とその進化論的図式化は西欧文化中心主義的な考え方の産物ともいえる。また,呪術をまちがった因果律に基づくとする考え方はレビ・ブリュールに受け継がれ,未開人の心性は前論理的で〈融即の法則loi de participation〉に支配されていると主張されたが,このような見方に対しても,未開人も文明人と同じく論理的,合理的に考える,という批判がある。いかなる民族も環境を論理的,合理的に把握することができなかったら生きていくことはできず,たとえば狩猟民サンの自然に対する認識はきわめて深いことはよく知られている。…
※「レビブリュール」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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