ワイル病(レプトスピラ病)は病原性レプトスピラの感染により起こる
病原性レプトスピラは、ドブネズミなどの保菌動物の腎臓に保菌され、尿中に排泄されます。ヒトには、保菌動物の尿で汚染された水や土壌から経皮的、経口的に感染します。ヒトからヒトへの感染はありません。
1915年に稲田龍吉、井戸泰両博士により、世界で初めて病原体が発見されました。日本では、
国外では、現在でも全世界的にレプトスピラ病が流行しており、ブラジル、ニカラグアなどの中南米や、フィリピン、タイなどの東南アジアなど、熱帯、亜熱帯の国々での大流行があげられます。
病原性レプトスピラの種類によって、症状は軽症から重症までさまざまです。急性発熱性の病気で、軽症型ではかぜのような症状だけで軽快します。
重症型の代表であるワイル病の主症状は、発熱、
症状だけで診断することは難しいのですが、症状と保菌動物の尿に汚染された水への接触、感染の流行地への旅行歴などが診断の助けとなります。発病初期から、蛋白尿、白血球増多、CRP陽性などがみられます。
確定診断には、血液、
抗生剤による治療が行われます。感染早期ではペニシリン系、テトラサイクリン系など多くの抗生剤の効果が認められますが、ストレプトマイシンが最も有効です。
レプトスピラ病の経過は極めて速く、ワイル病では治療開始時期が遅れるとしばしば重症化します。第2病日までに的確な治療を開始することが重要で、遅くとも第4病日までに治療を開始します。
感染の機会があり、ふくらはぎの筋肉痛や、眼球結膜の充血を伴う発熱が現れた場合には、早急に感染症内科のある医療機関を受診します。
東南アジアなどのレプトスピラ病の流行地域へ旅行した場合には、不用意に水のなかに入らないことが予防に重要です。海外ではトライアスロンなどのウォータースポーツによる集団発生が報告されています。水田作業、土木工事、野外調査などを目的に流行地域へ行く場合、可能ならワクチンを接種します。また薬物による予防として、ドキシサイクリンの効果が報告されています。
A型急性肝炎、B型急性肝炎、劇症肝炎、薬物性肝障害、胆道感染症
葛西 眞一, 紀野 修一
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
レプトスピラによる感染症。1886年ドイツのワイルAdolf Weil(1848-1916)が初めて本病の4例を記載したため,〈ワイル病〉と呼ばれているが,学術的には,本病の病原体発見者稲田竜吉(いなだりようきち),井戸泰(いどゆたか)の命名に従って,〈黄疸出血性レプトスピラ病〉と呼ぶのが正しい。病原体は1915年稲田と井戸によって発見され,現在はLeptospira interrogans subvar.icterohaemorrhagiaeと呼ばれるが,それと抗原構造が少し異なるsubvar.copenhageniによるものもある。病原レプトスピラはドブネズミなどが保有し,それらの尿中に排出されるので,それによって汚染された田,池,川などに入って経皮感染することが多い。汚染された食物により経口感染することもある。
潜伏期は約1週間。経過は3期に分けられ,第1病週を第1期(発熱期),第2病週を第2期(発黄期),第3病週以後を第3期(回復期)という。初発症状は,悪寒,発熱,頭痛,高度の全身倦怠,眼球結膜の充血,筋痛,関節痛,腰痛など。これらのうち,眼球結膜の充血は早期診断にとくに重要な症状である。第4~5病日になると,黄疸,出血傾向が現れ,第2病週に顕著となる。黄疸,出血,タンパク尿を本病の3主要徴候という。発病初期からみられる重要な臨床検査所見は,タンパク尿,赤血球沈降速度の促進,白血球増加などである。
経過がきわめて速やかなため,できるだけ早期に治療を開始することがたいせつである。薬剤としては,ストレプトマイシンが最も有効である。その他のアミノグリコシド系,テトラサイクリン系,マクロライド系,セファロスポリン系,ペニシリン系抗生物質も有効である。第5病日までに適正な治療を開始した場合の致死率は10%以下であるが,それ以後では20~30%におよぶ。
執筆者:小林 譲
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「黄疸出血性レプトスピラ病」のページをご覧ください。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…青山胤通に師事,ドイツに留学,京都帝大福岡医科大学(現,九州大学医学部)教授。1915年井戸泰(いどゆたか)とともに黄疸出血性レプトスピラ病(ワイル病)の病原体を発見。さらに同病の治療・予防にも論及した。…
…ただしそれも北宋時代に校勘作業を受けているから,現行本にも唐代のものとのあいだに多少の違いのある可能性があり,巻によって内容量が大きく違っているから,完本でないことも明らかである。傷寒は急性の熱病で,発疹チフスとかワイル病などを含めた複数の病気の総称であろう。《傷寒論》は傷寒の発病から死亡までの全経過を6段階に分け,各段階のさまざまの病状を記述し,それぞれに応じた治療法を指示したものである。…
※「ワイル病」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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