インド系の仏教守護神である大黒天・毘沙門天や弁財天、海運守護神とされる恵比須は、それまでも個々に信仰を集めてきたが、商業・経済の発展にともない、上方の町衆に福徳授与神への信仰が広まり、特に恵比須・大黒の二神併祀の習俗が流行した。それらを軸として、禅画に描かれた布袋和尚や、道教由来の福祿寿・寿老人など、中国系の福神を組み合わせることで成立したと考えられる。近世に入ると広く庶民の信仰を集め、「七福神詣」「宝船」などさまざまな習俗を生む。
福徳をもたらす神として信仰される7神。えびす(夷,恵比須),大黒天,毘沙門天(びしやもんてん),布袋(ほてい),福禄寿,寿老人,弁財天の7神をいうが,近世には福禄寿と寿老人が同一神とされ,吉祥天もしくは猩々(しようじよう)が加えられていたこともある。福徳授与の信仰は,狂言の《夷大黒》《夷毘沙門》などにもみられ,室町時代にはすでに都市や商業の発展にともなって広まっていたものと思われる。また,複数の神仏への巡拝も古くから行われていたが,〈竹林の七賢人〉などになぞらえて,七福神として描かれ,信仰されるようになった。福禄寿,寿老人は南極星の精であるとされ,中国の道教に由来する。また,弁財天はインドの水の女神で,音楽と弁舌の神であり,吉祥天女とも混同された。同じくインドの神に由来するのが,毘沙門天と大黒天で,ともに仏法守護の神である。大黒天は厨(くりや)の神として大きな袋を持つ姿から,大国主神とも習合し,農業神として広く民間に受容された。布袋は後梁の実在の禅僧契此(かいし)であるが,福徳円満の姿から福神に加えられたのであろう。えびす神は西宮の主神で事代主(ことしろぬし)神ともされ,あるいは蛭子(ひるこ)が海から漂着してまつられたものともされる。海辺漁民の信仰から,海運守護もしくは商業神としてまつられるようになった。この中で,えびす・大黒の2神併祀の風が広まり,さらに他の神々を加えて,七福神信仰が起こったものである。また,それにともない荒々しい姿のえびす,大黒,毘沙門なども柔和で円満な姿で描かれるようになった。江戸では,正月に七福神詣をしたり,宝船に乗った七福神の絵が初夢を吉夢にするために枕の下に敷かれたりした。また,各地に七福神を歌いこんだ民謡が残され,あるいは芸能にも残されている。福島県本宮市の旧白沢村では,正月7日に稲荷神に導かれた七福神が家々を訪れ,養蚕の守護を祈願する行事などもある。
→福神信仰
執筆者:紙谷 威廣
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福徳の神として信仰される7神の組合せ。大黒天、恵比須(えびす)(夷、蛭子)、毘沙門天(びしゃもんてん)、弁才天(べんざいてん)(弁天)、布袋(ほてい)、福禄寿(ふくろくじゅ)、寿老人(じゅろうじん)をいうが、寿老人は、福禄寿と同体異名として除き、吉祥天(きっしょうてん)を加えることもある。大黒天はインドの神(摩訶迦羅(まかから))で大自在天の化身(眷属(けんぞく)ともいう)、毘沙門天は四天王の一つで北方守護の神、ともに仏法の守護神で福財招福の神ともされた。弁才天も同じくインドの天部の神で音曲、知恵、福財をつかさどる。恵比須神は海の幸をもたらす「寄神(よりがみ)」で海辺の民間信仰に根ざすものらしいが、「大黒=大国」の相通(そうつう)からか大黒天が大国主命(おおくにぬしのみこと)に習合されると、事代主命(ことしろぬしのみこと)に比当されるようになった。ともに平安期以来個別に福神として信仰を集めてきた神々である。しかし布袋(後梁(こうりょう)の禅僧契此(かいし))、福禄寿、寿老人は中国の福徳神で、禅宗渡来後水墨画の好画題として移入されたものらしく、福神信仰としては独自に定着しなかった。これら雑多な福徳の神を「七」の聖数にあてて組み合わせたのが七福神だが、すでに室町初期にはできあがっていて、1420年(応永27)に七福神の風流行列が京都で行われたり、文明(ぶんめい)年間(1469~87)には七福神を装った盗賊が出没し、これを福神の来訪としてむしろ歓待したという記録などが残っている。ともかく中世商人社会で福徳施与の神として流行的に信仰され、近世以後にも及んだ。七福神は瑞祥(ずいしょう)の象徴として絵画・彫刻の好題材となり、またその影像を家に飾って拝礼し、あるいは七福神詣(もう)でや初夢の宝船などの信仰習俗を広く生じ、一方、七福神舞などの芸能もできて現在まで伝わっている。
[竹内利美]
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…また正月2日の夜,社寺から授与された宝船の図を枕の下に入れて寝ると吉夢を見て,幸運を招来するという。この宝船にはよく近世の流行神(はやりがみ)の典型である七福神をのせているが,それは幸は海上の彼方からやってくるという海上他界の観念に基づくものである。11月酉(とり)の日,東京の鷲(おおとり)神社の酉の市で売られる熊手は,穀物をかき寄せるものであるが,穀霊を人間の霊魂と一体化して考え,霊(たま)をかき寄せ人間の再生をもたらし幸運を得る縁起物とされたのである。…
…7にも聖数と忌数の両方の性質があり,とくに人生儀礼では生と死,此の世と異界などの移行の儀礼の際に重視されている。7は七福神,七賢人,七珍万宝,七支刀,七曜剣などという反面で,七難八苦,七転八倒,七去,七曲,七化(ななばけ),七変化(しちへんげ),七里結界(けつぱい),七不思議,七人ミサキなどということばがある。また七草,七所祝い,お七夜,初七日,七五三,七つ祝い,七庚申,七墓詣など民俗儀礼ではたいせつな数とされている。…
…また,長頭短身で杖をつき鶴を伴った福禄寿という神も考え出された。この福禄寿は南極星の化身ともいわれ,また,寿老人と同一視される場合もあり,日本では七福神の一つに数えられている。【砂山 稔】。…
※「七福神」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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