大学事典 「世界大学ランキング」の解説
世界大学ランキング
せかいだいがくランキング
世界の1万数千の大学のうちの上位数百校について,とくに教員の研究業績を基準に,大学やマスコミの機関が実施する順位づけ作業と結果の公表をいう。
[二つの大学ランキング]
最初の体系的なランキングは,自国と世界水準の大学との比較を目的に中国の上海交通大学(中国)が準備し,2003年,上位500校名を公表した世界大学学術ランキング(ARWU)であった。ARWUは大学の質を,卒業生とスタッフ中のノーベル賞とフィールズ賞の受賞者数,教員・研究者の専門誌での被引用回数,『Nature』と『Science』誌掲載の論文数,「拡張版科学索引誌」と「社会科学索引誌」掲載の論文数,教員・研究者一人当たりの学術生産性という指標の総計により判定する。この年の上位101校は国別に,アメリカ合衆国が58校,イギリス9校,日本,ドイツ5校,カナダ4校と続き,最上位を含め合衆国が他を圧した。
ARWUに対抗するように翌2004年,イギリスのタイムズ誌大学ランキングが高等教育ランキング(THE)を公表した。方法上では,学者・企業人が抱く大学の評判に判定根拠の半分,学生・教員比率,教員の論文被引用の平数,学生・教員中の外国人の割合を残り半分に充てた。結果は,最上位の9校は順位を除きARWUと同一であったが,上位101校中合衆国の大学が35校へと激減した。下落した23校に交替したのは,イギリスの新たな5校,オーストラリアの9校,香港の3校,シンガポールの2校,インド,マレーシア,ニュージーランドの各1校で,大部分がイギリス連邦国の大学であった。THEがイギリスの教育文化的伝統,利害を強く反映したことがわかる。
[ランキングの偏り]
しかし,ARWUとTHEに共通の偏りも目立つ。1989年,アメリカのグールマン・レポート(第5版)は,世界の上位100校中に,旧ソヴィエト連邦の20大学をランク・インさせていた。この間ソヴィエト連邦が消滅したとはいえ,2003年のARWUは500位以内に2校,THEも92位にモスクワ大学(ロシア)を入れただけであった。ARWUとTHEの英語圏への傾斜には,疑問の余地がない。ちなみに,2009年にロシアが公表したReitorランキングでは,モスクワ大学がMIT等に次いで5位,他のロシア大学も「躍進」している。
ARWUとTHEはともに小規模大学の貢献を軽視している。教育の質の指標として,前者は卒業生中のノーベル賞・フィールズ賞受賞者数を,後者は学生・教員比率を選択した。これらの指標を重視したのであれば,ARWUとTHEは合衆国のリベラルアーツ・カレッジの最上位校に注目したであろう。卒業生数の規模を考慮に入れて,ノーベル賞受賞者の割合を計算すると,ARWUでの合衆国の最上位33校のうち,スワスモア大学(アメリカ)とアムハースト大学(アメリカ)の両リベラルアーツ・カレッジを凌ぐのは,カリフォルニア工科大学1校のみで,スタンフォードを含む24校は両カレッジの5分の1から数十分の1の割合でしか受賞者を育てていない。しかし,両カレッジはARWUでは500位から完全に排除された。同様にTHEも質の高い教育に十分配慮していない。スワスモアやアムハーストは,学生・教員比率でも8対1で,ハーヴァードやイェールに並び,しかも学士課程の教育に専念する大学なのである。
[世界大学ランキングの功罪と将来]
2016年現在,主要な世界大学ランキングは十数件を超える。ドイツのCHEシステムでは,入学志願者と大学側の諸条件とを照合しつつ,ドイツ語圏から志願者に最適の大学をランク形式で紹介する。台湾のHEEACTやオランダのLeidenランキングは,研究活動の水準のみに照準を合わせ,専門の科学者向けに大学評価を提供する。大学ランキングは,各国の為政者・大学行政者に対しては,高水準の大学を維持・発展させる方策の策定に関して,強力で有用な指針を与えている。
しかし,マイナス面も指摘される。理工・医学の研究成果を過大評価する結果,順位づけが大規模な研究大学のみに集中し,世界の99%の大学には無関係となる。社会科学を駆使した国家建設への貢献や,各地の多様な文化に潜在する創造性の活性化に努める大学の意義が省みられず,世界の大学がアングロ・サクソン・モデルへと収斂して行くのを助長する。実際,アフリカでは地域内の大学の協力関係が薄れ,多くが合衆国の大学との提携に邁進するようになっている。何よりも大学ランキングは,自国による自国の大学の商品価値の宣伝に陥りがちで,批判的な精神に依拠する大学には自家撞着とさえいえる。にもかかわらず,欧米の大学は,高品質の教育と高度な研究活動とを伴って,はじめて優れた社会貢献を果たしてきた。将来のランキングは,そうした大学の重層的な機能を評価し,世界の大多数の機関にも有意義な順位づけへ進化せねばならないだろう。
著者: 立川明
参考文献: P.T.M. Marope et al.(eds.), Rankings and Accountability in Higher Education, UNESCO, 2013.
参考文献: A. Rauhvargers, Global University Rankings and Their Impact, I & II, European University Association, 2011, 2013.
出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報