人工降雨(読み)ジンコウコウウ

デジタル大辞泉 「人工降雨」の意味・読み・例文・類語

じんこう‐こうう〔‐カウウ〕【人工降雨】

発達した雲の上から、氷晶核となるドライアイス小片沃化銀ようかぎん微粒子をまき、人工的に雨を降らすこと。
[補説]水不足時のダム増水などに活用される。また、ある特定の日を晴天にするために、前日までに雨雲を消しておくのにも利用され、そのような場合は人工消雨ともいう。

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精選版 日本国語大辞典 「人工降雨」の意味・読み・例文・類語

じんこう‐こうう‥カウウ【人工降雨】

  1. 〘 名詞 〙 飛行機山越えの気流などを使って過冷却の雲(零度以下になっても氷にならないで水滴のままで存在する雲)の中にドライアイス、ヨウ化銀、水などをまき、雨を降らせること。また、その雨。
    1. [初出の実例]「今や人工降雨術の発明あり」(出典:風俗画報‐二五五号(1902)人事門)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「人工降雨」の意味・わかりやすい解説

人工降雨
じんこうこうう

雲に種まきをする方法などによって人工的に雨(または雪)を降らすこと。干魃(かんばつ)のときなどに雨を降らせようとして火を燃やしたり、雲の中に大砲を打ち込む試みは古くから行われてきたが、これらの方法は、雲の中で雨のできる仕組みがわかっていない時代のものであった。1933年にスウェーデンのベルシェロンT. Bergeronが、雲の中で雨や雪のできる仕組みについて有名な氷晶説を発表し、1938年にはドイツのフィンダイゼンW. Findeisenが、氷晶説に基づいて人工的に氷晶核を雲の中にまくと雨や雪を降らせることができることを予言した。またさらに1946年になってアメリカのシェーファーV. J. Schaeferは、過冷却した霧でいっぱいになっている冷蔵庫の中にドライアイスの破片を落としたところ、たくさんの氷晶が発生することをみいだした。この実験はフィンダイゼンの考えを初めてテストして実現したこととなった。同年にアメリカのボンネガットB. Vonnegutは、ヨウ化銀を燃やしたときにできる微細な結晶が零下50℃以下で氷晶核として有効に作用することを発見した。これらの研究に基づいてアメリカのゼネラル・エレクトリック研究所の科学者らは、飛行機の上からドライアイスの細片を雲の上に落としたり、ヨウ化銀をしみ込ませた石炭を燃やしながら雲の上に落とす実験を行い、過冷却した自然の雲を氷晶の雲に変えることに成功した。これが現代の人工降雨に関する自然を相手とした最初の試みであった。それ以来ドライアイスやヨウ化銀を用いた人工降雨に関する実験は、日本を含め世界各国で数多く行われてきた。

 いままでに世界各国で行われてきた人工降雨のおもな技術的方法と、その成果をまとめてみると次のとおりである。

(1)ドライアイス法 ドライアイス数キログラムを直径約1センチメートルの小片に砕いて飛行機から雲の上にまく。このとき雲頂の温度が零下7℃以下で、過冷却した雲の層の厚さが約1500メートル以上の場合には、高い確率で雨が降る。

(2)ヨウ化銀法 アセトンに溶かし、これを燃やしてヨウ化銀の煙を出す。飛行機または地上で発煙する。またヨウ化銀を火薬と混ぜて雲の中に打ち込み爆発させる方法もある。これは旧ソ連で採用されたもので、ヨウ化銀1グラムから1014個程度の莫大(ばくだい)な数の微粒子ができるので、1回の実験でヨウ化銀10グラム程度用いるだけでよいとされている。

 これらの方法による人工降雨はダムの増水(水力発電用、各種用水など)などに利用されてきた。およそ10~20%増雨(雪)があると信じられている。

[大田正次]

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改訂新版 世界大百科事典 「人工降雨」の意味・わかりやすい解説

人工降雨 (じんこうこうう)
artificial precipitation

過冷却雲が存在するときに,ヨウ化銀など人工の氷晶核(氷晶)を散布し,あるいはドライアイスを散布して雲粒を凍結させて氷晶核を発生させ,雨または雪を降らせること。雲粒の中に氷晶ができると,氷と水の飽和蒸気圧の差によって,氷晶は水蒸気をもらい,どんどん成長して雪の結晶となり雲内を落下する。途中で結晶どうしが付着しあって雪片となったり,また雲粒つき結晶となってさらに落下し,下部にこれを融解させる層があれば雨となって地上に到達する。科学的な人工降雨の最初の実験は1946年アメリカのゼネラル・エレクトリック社のI.ラングミュアとシェーファーV.J.Schaeferによって行われ,過冷却の高積雲に航空機からドライアイスを散布し雪を降らせた。その後各国で実用化にむけ実験が続けられた。しかし,この方法は原理的には正しいものの,増雨効果があまり明確ではない。たとえばアメリカで78-80年に行われた実験では,増雨効果は5%と報告されている。このためアメリカで商業的に行われている例はあるものの,70年代以降基礎研究を除き低調である。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「人工降雨」の意味・わかりやすい解説

人工降雨
じんこうこうう
artificial precipitation

人工的に制御された降水現象。まったく雲のない空に雲をつくりそれを雨とするのではなく,自然の雲に対して降雨のきっかけを与えたり自然降雨の量をさらに増加させたりするもの。雲粒は氷点以下であっても凝結核がないときは氷晶にならず,過冷却の水滴として浮かんでいる場合がかなり多い。そのような状態のときにドライアイスを航空散布すると,それに触れた空気が冷やされ,過冷却の水滴が氷結して無数の氷晶ができる。またヨウ化銀を燃焼させ地上あるいは飛行機から散布すると,その微粒子が氷結核となって大きな氷晶となり,雨や雪のもとになる。氷点下に過冷却した雲があれば,自然のままでは雨や雪が降らずにいる場合にも,人工的に降りやすくさせることができる。しかし,多くの試験の結果 5%程度の増加しか期待できないとされている。はっきりと断定できない理由は,自然の降水の時間,空間の変動度が大きいこと,雨の核となるものを散布するときとしないときとを同じ条件で比較することができないことなどにある。そのため近年はあまり実験されていない。

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百科事典マイペディア 「人工降雨」の意味・わかりやすい解説

人工降雨【じんこうこうう】

成雨機構の研究の成果をもとにして,雲の中の成雨過程に刺激を与えて降雨に導くこと。氷晶説による〈冷たい雨〉の人工降雨は,過冷却の雲粒からできている雲の中に人工的に氷晶を作って行われる。これにはドライアイスを飛行機からまいて雲中の空気の一部を極端に冷やして氷晶を作る方法と,氷晶核をまく方法がある。氷晶核は水蒸気が氷晶に昇華する時にその核となるもので,氷の分子の構造によく似た物質が適当であり,ヨウ化銀を煙にして雲に送りこむ方法が多く用いられた。これらは過冷却雲粒の多量に存在する雲を選んで行わないと効果がない。0℃以上の雲頂をもつ雲から降る雨は〈暖かい雨〉と呼ばれるが(スコール),その成雨機構は雲粒同士の衝突合併による成長と考えられている。このような雨の降雨を促進するには雲の中に雲粒より大きな水粒を飛行機から噴霧する方法がある。人工降雨の効果の判定はむずかしいが,これを常時行うと年間降水量の5〜20%程度の増大が得られるという。

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知恵蔵 「人工降雨」の解説

人工降雨

雲粒が成長して雨や雪などの降水現象が起きるには、いくつかの条件を同時に満たす必要があるが、その条件の一部が欠けている場合、それを補って降水現象を起こすこと。雲のない所に雨を降らせるのではないので、事実上は人工増雨。小さな氷の粒が不足している場合は、雲の中に氷の結晶をつくる核に適したヨウ化銀(結晶格子の分子配列の形や間隔が雪の結晶に似ている)を飛行機でまいたり、ロケットや大砲で打ち上げたり、地上で燃やして煙を雲の中に入れたり、あるいは、飛行機でドライアイスをまいて温度を下げ、雲粒を氷にしてしまうなどの方法がある。米国でのアーヴィング・ラングミュア(Irving Langmuir)が創案し、1946年に初の実験が行われて以来、世界各国で試みられている。対象の場所に雨を降らせるだけでなく、ロシアなどではひょうを降らせる雲で人工降雨を行い、ひょうが成長する前に降らせて被害を軽減させている。また、大きなイベント当日の晴天を確保するため雨雲が流れてくる前に人工降雨で雨を降らせる計画や、山岳部にできるだけ多く雪を降らせて春先に雪解け水を農業用水に使うということも行われている。

(饒村曜 和歌山気象台長 / 2008年)

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