日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
人間機械論(ラ・メトリの著書)
にんげんきかいろん
L'hommemachine
フランスの医師・哲学者ラ・メトリの主著。1748年刊(1747年末にライデンで極少部数が刊行されたが、一般的には1748年刊行のベルリン版が流布本とされている)。「人間は機械である。また全世界には種々雑多に様態化された一つの物質が存在するのみである」。これが本書の基本的主張である。人間の本質の探究の確実な案内者は「観察と経験」であり、「人間と動物の内臓を開いてみる」なら、両者の区別は程度の差にすぎないことがわかる。したがって人間は動物つまり「感覚をもつ物質」であり、また魂のすべての能力は脳の組織に依存するから、思考は「物質の一属性」にほかならない。さらに「物質はひとりでに動くもの」であるから、デカルトのいうように動物が機械であるなら、人間は「自ら発条(はつじょう)を巻く機械」である。人間を動物から区別するものは、脳の微細な構造に生来する想像力とことばの使用に基づく教育である。つまり「人間とは経験を積んだ機械である」とした。
このように自然のあらゆる運動が物質の各部分のもつ原動力の活動によって生ずるなら、もはや人間の霊魂と同様に神も不用であろう。本書は物質それ自体に「運動の原理」を認め、生命のある物体に「感覚能力」を付与することによって唯物論を一段と発展させ、ドルバックやディドロに大きな影響を及ぼした。
[坂井昭宏]
『杉捷夫訳『人間機械論』(岩波文庫)』