翻訳|enterprise
生産活動を継続して営む経済単位を企業という。国民経済は,この企業とともに家計・財政という個別経済によって構成されている。家計は消費生活を営む経済単位であり,財政は行政目的を実現するために消費活動を営む経済単位である。企業は,この家計や財政にとって必要なものを生産,販売し,それに伴う諸活動を行って,社会の需要を充足し,収益を獲得している。この収益から費用を差し引いた剰余が利潤であり,企業の発展の基礎となるものである。企業は一般に最大利潤の獲得を目的とするといわれているが,企業の究極の目的は,社会の需要を充足することにある。利潤は,この目的達成に対する社会から企業へ与えられる報酬である。企業が利潤の拡大を求めるのは,企業がその存続・維持・発展を図るための手段として必要だからである。
企業は〈人・もの・かね〉という生産諸要素を合理的・効率的に活用して,生産活動を営むことによって,経済価値を生み出しており,それが国民経済の源泉となっている。さらに国民経済が発展していくためには,その個別経済である企業が存続・発展していくことが必要不可欠であり,そのためにもイノベーションを実現し,拡大再生産を図らねばならないとともに,費用を上回る収益の獲得が必要である。企業は,この収支の均衡を図るための収支計算だけでなく,投下した資本に対して利潤がどの程度獲得されたかを明らかにする資本計算を行う。そして,この資本に対する利潤率が最大になるように行動するのである。
手内職や家内工業をはじめ,零細な小売業や農林漁業などのように,生産活動が家計の中で行われ,家計の消費活動に従属し,家計の一部として収支計算が行われているものを生業という。企業は資本の単位であり,この資本を基礎に生産活動を行い,資本計算を行うのに対し,生業は生活のために生産活動を行い,家計と資本計算が分離されていない。したがって,生業は企業以前のものであり,国民経済の一部を構成しているが,現代では,企業が国民経済を発展させる原動力となっている。
企業は,その資本を提供する出資者(所有者)とその目的によって,私企業と公企業と協同組合に分けられる。
(1)私企業 図のように私企業は三つの形態に大別できる。個人企業は,個人が出資し,すべての債務に対して無限の責任を負う個人所有の形態である。個人企業が成長するには,資本の集積と集中の二つの方法がある。資本の集積とは,個別資本がみずから獲得した利潤を蓄積して規模を拡大していく方法で,この場合,企業形態としては別に変化は生じないが,その拡大には限界がある。資本の集中とは,集積の限界をこえる方法であり,他の個別資本と結合して規模を拡大していく方法である。集中による場合には,種々の企業形態に分かれる。すなわち合名会社,合資会社,株式会社であり,特殊な形態として有限会社,相互会社がある。
企業は,みずから大規模化するばかりでなく,相互に結合して規模の拡大を図ることがある。これが企業集中である。これは集中の方法によって以下の三つの形態に分けられる。(a)企業連合は,二つ以上の独立企業が協定によって相互に結合する形態で,市場統制の目的をもって形成される企業連合がカルテルである。(b)企業合同は,各企業が独立性を放棄して,完全に一体となって結合する形態で,市場統制を目的として形成される企業合同がトラストである。(c)コンツェルンは,独立したいくつかの企業が資本的に強く結合している企業集中の形態である。さらに企業集中が進むと,その形態も発展し,企業グループがさまざまな形をとって多角的に形成されるようになる。企業集中が技術革新との関係において展開したのがコンビナートである。コンビナートは,独立企業が技術的合理化を目的として地域的・多角的に結合した形態である。また,大企業を中心に継続的な取引関係によって,中小企業を垂直的に結合している形態を企業系列という。それが単なる下請関係や販売代理関係を脱して,技術的・戦略的な意味合いが強くなると,企業グループとして統一的な経営を進める必要性が高くなる。さらに,共通目的の達成のために,複数の事業体がそれぞれの経営的独立性を維持しながら,共同で資金・設備・労働・技術等の経営資源を出し合い,特定事業を遂行するために,ジョイント・ベンチャーjoint ventureが設立される(建設会社間で組織される共同企業体JVは一例)。これはとくに技術革新とのからみで用いられ,技術導入,研究開発,新規事業の開拓などがその主目的である。
(2)公企業 資本主義経済のもとでの公企業は,国または地方自治体のさまざまな目的で設立される。(a)国または地方自治体の財政的必要の調達目的(専売事業),(b)公益事業の分野,(c)経済政策や政治的・文化的・軍事的目的(原子力産業),(d)社会政策上の目的(住宅建設)などである。公企業は,経営の自主性の程度により,種々の形態をとる。官公庁企業は,国有国営または公有公営で,経営の自主性のない行政組織の一部である。法人体企業は,国や地方自治体の全額出資であるが,経営の自主性の高い形態であり,公共企業体と会社形態とがある。会社形態は株式会社形態を取り入れたものであり,さらに民間資本を導入したものが公私混合企業である。公共企業体としては,民営化前の日本国有鉄道や,公団,営団,金庫等がある。
(3)協同組合 協同組合は,組合員の相互扶助を目的とし,任意加入・脱退が認められ,出資額に関係なく議決権は平等であり,利益が生じたときは利用度に応じて分配される。生産協同組合は,各業種の小生産者によって,販売・購買・利用・信用・生産の各組合がつくられる。そのほかに企業組合や商工組合がある。消費協同組合は,組合員の消費生活の向上を目的として,生活物資の共同購入やそのための商業施設,医療施設,住宅などを共同で設立し,利用する。また組合員の資金により融資活動を行う。
→会社
執筆者:二宮 豊志
企業の社会的責任とは,抽象的には社会の目的・価値に照らして企業が望ましい政策をたてて行動する義務を意味するが,具体的にどのようなものをさすのか,となると大きく二つに意見が分かれる。
伝統的な考え方として,利潤追求こそが企業の社会的責任であるとし,企業本来の活動である財貨・サービスの生産・分配という経済的役割の効率化にウェイトを置く意見がある。しかしながら,現代のように企業規模が増大してくると,一企業の活動が経済的領域をはるかにこえて社会に大きな影響力をもってくることは否めない。このような現実を反映して,企業は独善的な行動が許されなくなるばかりでなく,社会に対して一定の義務を果たすべきだとする意見が出てきた。現在,企業の社会的責任という場合に問題とされるのはもっぱら後者の意見に関してであり,その内容は,社会性・公共性・公益性に分かれる。社会性とは企業の生産活動の効率的遂行を意味し,公共性は企業行動の道徳性・倫理性を意味し,公益性は諸利害者集団すべてに対する奉仕を意味する。買占めや売惜しみは社会性に反し,詐欺行為・虚偽表示・誇大広告は公共性に反し,便乗値上げなどは公益性に反するものとなる。公害(をひきおこすこと)は三つすべてにかかわるものであるといえる。
最近コーポレート・アイデンティティ(CI)という経営戦略がにわかに台頭してきているが,これは主として視覚的手段を用いて経営理念を関係者に訴え,よりよい企業イメージを形成させるようにする戦略を意味している。商品イメージではなく企業イメージを形成するという点で広告・宣伝と異なるわけだが,これは本来的意味でのパブリック・リレーションズ(PR)に等しい。日本でCIの導入が積極化してきたのは,1978年秋の石油危機以降の企業の力が弱まりだしてきてからのことで,環境の急激な変化に対応していくための企業の位置づけをどうすべきかという問題意識がきっかけになった。そしてCIが経営戦略として顕在化した背景には,(1)企業の主体性の確認の必要性,(2)企業間における製品の品質格差が小さくなり,消費者のイメージ依存型の購買が出現してきたこと,(3)企業内の活性化と人材確保の必要性,(4)顧客志向のマーケティングの必要性,などがあげられる。
執筆者:辻村 宏和
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
市場経済のなかで財・サービスの生産という社会的機能を担う経済単位、より一般的には経済的効用の創出を遂行する協働システムないし組織体を、企業とよぶ。企業は家計、政府と並ぶ経済単位であるが、これら両者は消費単位である点で、企業とは異なっている。
企業は、その環境から諸種の経営資源を調達してその生産過程に投入(インプット)し、生産の成果である産出(アウトプット)を環境に送り出す、投入・産出システムである。すなわち企業はまず、各種の環境主体(ステイクホルダー、利害関係者)から必要な経営資源を調達する。具体的にいえば、出資者から資本を、労働者から労働力を、取引企業から原材料等の資材を、金融機関から資金や信用を、行政機関から指導・規制・社会資本を、地域社会から理解と支持を、それぞれ貢献してもらい、顧客の需要・好意(グッドウィル)とあわせて生産過程に投入する。産出はこれらの貢献を行った環境主体に分配される。すなわち、出資者には配当や株価収益を、労働者には賃金・雇用と自己発現の機会・福利厚生を、取引企業には代金を、金融機関には利子・好意を、行政機関には租税・協力を、地域社会にはよい環境・寄付等を、そして顧客には良質・廉価な製品・サービスを、それぞれ提供する。
企業は、このような各種の貢献と分配のバランスないし均衡によって存続が可能になる。そのため企業維持の基本は、各種貢献者に対する分配が公正になるよう調整することと、分配の前提になる生産の成果を増大させることに求められる。すなわち、生産性の増大と生産成果の分配の公正が、企業経営の基本原理になる。従来、企業経営の原理は利益の獲得にあると一義的かつ単純に考えられてきたが、それは出資者の期待を満たすにすぎず、甚だしい場合には、その他の環境主体の利害がそのために犠牲にされることもありうる。これでは現代の企業は成立しない。利害関係者が多様化して、社会性・公共性・公益性(みんなの利益)の高まった現代の企業には、最大利益の追求はなじまず、資本に対する適正報酬としての長期安定的な適正利益が求められることになる。このことは、収益性がなお経営原理に含まれるとしても、資本以外のほかの利害を満たす諸目的と並立させるべきことを示している。企業の社会的責任が求められるゆえんである。
[森本三男]
企業は、その出資・所有・支配の態様によって、諸種の企業形態に分けられる。それはまず法によって規定され、企業は法定企業形態のいずれかを選択して、それをいわば外衣としてまとうことになる。法的企業形態は、その出資=所有の態様から、私企業、公企業、公私合同(混合)企業に3大分される。私企業は、個人形態、組合形態、および会社形態からなるが、中心は会社形態である。会社は株式会社と持分(もちぶん)会社に分かれ、後者はさらに合名、合資、合同の各会社に分かれる。このほか、保険業に特有の相互会社(実態は組合)、法改正に伴う過渡的存在としての有限会社(株式会社とみなされる)がある。
公企業には現業(生産)を営む特殊行政法人(国立印刷局など)、特殊形態(各種の「機構」)、国(政府)が出資=所有する特殊会社形態(株式会社日本政策金融公庫など)がある。公私合同企業は、出資=所有の混合が普通であるが(例、日本銀行=政府出資55%・民間出資45%)、理論的には民有公営や公有民営のような出資=所有と経営の混合もありうる。
法的形態は企業の形式的側面であって、企業の実態をかならずしも的確に反映しない。巨大株式会社と零細株式会社は、法的には同じでも実態はまったく異なっている。そこで実態を発展的に把握し整理することによって、より現実的に企業の特質を反映させようとする試みが現れる。これを企業形態と区別して企業体制とよぶ。私企業の場合、個人形態に多い家計(生活)と生産の未分離の段階を企業以前の生業または家業という。家計と生産を分離した生産組織体であっても、合名会社や合資会社に多い同族的結合を中心にするものを、人的私企業とよぶ。合同会社や中小株式会社のような、物的利害による資本的結合と出資者による直接支配によって経営されている企業は、資本的私企業とよばれ、収益性の追求がその中心的行動原理となっている。伝統的企業のイメージは、これに由来する。出資者の多数化と経営の専門化により出資(所有)と経営の分離が進み、利害関係者の多様化によって企業の社会性が高まると、企業は独自の生活を営む継続的組織体となり、制度的私企業とよばれる。私企業は一般に、以上のような経過で発展し、高度化する。
他方、公企業については、行政組織で生産を行う現業(官業)に始まる。その組織面を行政組織としたまま財務・計算面を財政と分離して独立採算にすると、非従属的公企業になる(例、自治体による水道・交通)。さらに進んで公社や「機構」のように組織面も独立させたものは、独立公企業とよばれる。政治・行政・財政と経営を分離し、それらの制約のほとんどない状態に達すれば、自主公企業とよばれる。公企業は一般に、以上のような経過で発展し、自主化する。
高度に発展した企業では、経営の自主性の高い社会的制度という共通の性格をもつようになり、公私という所有形式は意義が薄れ、両者は内容的に接近する。このように発達した現代企業は、継続企業の前提(ゴーイング・コンサーン)に基づいた事業活動を行う。それは、企業を構成している人間および形式的所有者とは別個の生命と意思をもつ組織体を形成し、社会経済のなかで一定の機能を担う制度と化し、それ自体の理念と戦略によって維持・成長の自己充実活動を営んでいる状態である。
[森本三男]
『丸山啓輔著『現代企業の経営原理――企業の維持・発展の条件』(1998・同友館)』▽『増地昭男・佐々木弘編著『最新・現代企業論』(2001・八千代出版)』▽『水村典弘著『現代企業とステークホルダー――ステークホルダー型企業モデルの新構想』(2004・文眞堂)』▽『菊池敏夫・平田光弘・厚東偉介編著『企業の責任・統治・再生――国際比較の視点』(2008・文眞堂)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…また,封筒はりなどの賃仕事・手内職も商法の適用をうけない。ところで,営業に類似する語に企業があるが,商法学上この両者の関係は次のように理解されている。学説では商法(商法典にこだわらず体系的・理論的に構成される実質的意義における商法)は一般に企業に関する法として把握されている(商法=企業法説)。…
…この点を少し詳しくみておこう。
[家計と企業]
ここで対象とする社会の経済的意思決定主体は家計と企業に大別される。家計は,消費に関する意思決定の主体であると同時に,労働力,資本,土地という生産要素の所有者として,それら生産要素のサービス(以下では単に生産要素と略記)をどれだけ供給すべきかを決定する主体でもある。…
…社会への影響力を強めつつある企業の行動を研究対象とする学問分野。資本主義経済のもとでの一般的な企業は,私的営利を目的として経済活動を営む組織体であるが,経営学はその企業行動を組織体の活動として分析するところに,その認識上の特徴がある。…
…職場,事業所,企業,産業,全国といった各レベルの種々な意思決定や諸活動に対し,労働者またはその代表組織が伝統的に存在していた範域を超えて,より直接的に関与する傾向が生じたことは,1970年以降の先進的資本主義社会の労使関係システムにおいて顕著に目立つ新しい変化である。それらのうち産業レベル,全国レベルなどセミ・マクロおよびマクロレベルでの労働者参加は,とくに欧米の産業社会の場合,第2次大戦後は産業別組合や全国組合の組織が相当強大に発達していたこと,およびポリティカル・エコノミーの枠組みが混合経済的ないし福祉国家的な性格をかなりに強めたことから,比較的初期から相当に進行していた。…
※「企業」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
米テスラと低価格EVでシェアを広げる中国大手、比亜迪(BYD)が激しいトップ争いを繰り広げている。英調査会社グローバルデータによると、2023年の世界販売台数は約978万7千台。ガソリン車などを含む...
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加