気象が不良であったり,病害虫で作物がよく実らぬこと,実りの悪いことを凶作といい,そういう年を凶年といっているが,厳密な定義はない。農林水産省は平年収量(〈平年作〉の項目を参照)を100とし,作況指数(〈作況予報〉の項目を参照)が98~95の場合を〈やや不良〉,94以下の場合を〈不良〉として,毎年,公表しているが,凶作という官庁用語はない。従来の新聞,雑誌,放送などジャーナリズムの報道経験からいえば,98以下の場合を凶作(並の凶作ともいう),94以下の場合を大凶作としている。なお飢饉という用語があるが,飢饉の飢は穀物の実らぬこと,饉は蔬菜の熟さぬことで,本来,凶作と同義である。交通,備蓄制度,共済制度などが未発達の時代にあっては,凶作がそのまま食を得るに苦しむということになった。今日でも,凶作,戦乱が原因となって極度に食糧が不足し,栄養失調者,餓死者がでたり,人口移動をすることがあって,このような現象を広く飢饉といっている。
凶作をもたらす自然的要因は,作物に大被害をもたらす病原菌・害虫の大発生,冷温・干ばつ・台風・大雨・大雪などの襲来である。316年より約1500年の間に,日本のどこかに起こった凶作の数は507回で,約3年に1回の割合になる。〈この年,京畿旱(ひでり)す〉〈この秋,諸国大風す〉〈人相食(あいは)む〉という記録も残っており,百姓一揆が起こったり,餓死者が出たことが物語られている。江戸時代の享保・天明・天保の〈三大飢饉〉は著名である。東北地方の農村部を訪れると,各飢饉当時の餓死者の供養塔を今日でも各地にみることができる。水稲作についてみると,1878年から1941年に至る64年間には29回の凶作があり,2年強に1回の割合となっている。第2次世界大戦後の冷害などによる凶作は11回にも及び,約3年に1回の凶作ということになる。昭和初期の水稲冷害による凶作時には,東北地方では人身売買に近いことが行われた。近年では1980年,81年,82年の冷害などによる北海道・東北・関東地方の3年つづきの凶作が注目された。世界的にみると,17世紀から19世紀前半に至る,スコットランド,イングランド,フランスなどに起こった凶作やサマラ飢饉は有名である。最近の中国,インドにおける干ばつ,洪水による凶作,さらに1972年のインド,バングラデシュ,西アフリカ,ソ連における干ばつに基づく凶作は,穀物をめぐっての国際的問題を提起し,穀物は戦略物資とまでいわれるに至った。
凶作に対する方策は,時代に応じて種々とられてきた。奈良時代から平安時代初期における穀物備蓄用の義倉,江戸時代の貯穀制度の発達はよく知られている。国,自治体,地元農家などの努力による大規模灌漑工事は,日本の干ばつによる凶作をほとんど消滅させた。また国の補助と農家の掛金による各種農作物の共済制度は,世界が注目しており,凶作による農家の痛手を著しく軽減している。さらに異常気象の襲来時においても,平年作あるいは平年作に近い収穫をあげている農家があることは見落とせない。たとえば,冷害の場合についてみると,(1)適地の耐冷性品種を選択し,適地でない銘柄品種(価格は高い)や増収品種を作付けないこと,(2)十分な選種をして同一品種でも充実した〈たね〉を選ぶこと,稚苗,中苗を問わず育苗には注意し健苗を育成すること(最近では中苗が稚苗よりよいとされている),できるかぎり田植は早くすること,深水灌漑,昼停夜灌など水管理に心がけること,病害虫とくにいもち病防除には留意すること,除草はできるだけ早く終えること,(3)化学肥料とくに窒素質肥料の施用量,施用法に注意し多肥は避けること,(4)水田は乾田とし,深耕を行い,堆肥を十分いれて,土壌環境を良好とすること,(5)冷涼な風が吹く地域では防風林,防風ネットを設けることなど,一連の技術体系を偏りなく行うことが肝要である。一言にしていえば,無理のない,至極当然な基本技術がとられていれば,今日,襲来してくる冷温で被害を受けることは少ない。基本技術がとられず,無理な稲作を行った農家が,はなはだしい被害を受けている。世界的にみると,凶作発生地域,国に対して,国連,国際赤十字などを通しての救済活動が行われているが,その効果は必ずしも十分とはいえない。
→飢饉
執筆者:川田 信一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
穀物をはじめ作物が著しく不作で収穫できなかったり、収量が極端に減ることをいう。なかでも米の凶作は昔から大きな社会的政治的動揺を引き起こし、多くの犠牲者を出した。凶作は気象的あるいは人為的な災害によっておこる。東北地方での過去の大凶作の原因はすべて冷害によるもので、太平洋沿岸地方で海から吹き込む冷たい風「やませ」によってもたらされる。低温のためイネの生育が遅れ、出穂は秋になり、実らないうちに冬を迎える。また、穂が形成されるイネのもっとも敏感な時期に低温にあい、花が障害を受けて稔実(ねんじつ)できないこともある。イネ以外の穀物ではキビやダイズなどが冷害を受けやすく、野菜や果樹も生育が悪く、凶作の被害は広範囲に及ぶ。西日本での凶作の原因のおもなものは干害(干魃(かんばつ))と風水害である。田植前後や出穂前後の干害はとくにイネの被害を大きくする。最近では土木水利事業や栽培法の改良により、水稲の干害による大被害は減少した。しかし、畑作物や果樹ではしばしば干害を受けている。風水害はとくに台風によっておこり、なかでもイネの出穂期の被害は大きい。現在では台風の襲来時期より前に出穂させる早期栽培が普及して、被害を軽減させている。
昔は、凶作時には食糧不足から野生の動植物などを食べて飢えをしのいだが、ヒガンバナの鱗茎(りんけい)とかソテツの実など、普段は食用としない有毒なものまでも毒抜きをして食べた。しかし、歴史に残っている大凶作では何万という餓死者が出て悲惨な事態となった。そこで凶作に備えた作物も栽培された。これを救荒作物という。救荒作物は主食の代用となり、気象災害に強く、栽培に手のかからない作物が選ばれた。代表的なものにヒエ、サツマイモなどがある。
[星川清親]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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