前庭動眼反射 (ぜんていどうがんはんしゃ)
vestibulo-ocular reflex
前庭眼反射ともいう。頭が動いたときにこれと反対方向に眼球を動かして網膜に映る外界の像のぶれを防ぎ,頭が動いているときにものが見えにくくならぬように働く一種の反射である。内耳中の前庭器官が頭の動きを検出して神経信号を発射すると,これが前庭神経を介して延髄に送られ,前庭核で中継された後,眼球を動かす外眼筋の運動ニューロンへと伝えられる。前庭核内の中継ニューロンには興奮性と抑制性の2種類があり,一つの筋肉が収縮すると同時にこれと拮抗する筋肉が弛緩して眼球が一方向に動く仕組みになっている。前庭器官内の三半規官が検出した頭の動きの加速度と,耳石器が重力によって検出した頭の相対位置のずれとの二つの成分から,前庭動眼反射が駆動される。前庭動眼反射の出力(視野のぶれ)から入力(頭の動き)へフィードバックがかからず,典型的な前向き制御系の例である。小脳の片葉の支配下にあり,片葉はこの反射が頭の動きを正確に代償するよう常時調節しているものと考えられる。
執筆者:伊藤 正男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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世界大百科事典(旧版)内の前庭動眼反射の言及
【橋】より
…第3は眼球を動かす筋肉を支配する神経核(動眼神経核,滑車神経核,外転神経核)と複雑な結合をする経路である。このようにして,身体の動きに合わせて,眼球の運動を反射的に調節している([前庭動眼反射])。その結果,頭が動いているときでも,映像のぶれを生ずることなく外界の物体を注視したり,動いている外界の物体を追跡して見つづけることができる。…
【反射】より
…延髄には,目の角膜を機械的に刺激すると目を閉じる瞬目反射,鼻梁(びりよう)をたたくとやはり目を閉じる鼻梁叩打(こうだ)反射,せき,くしゃみ,嚥下(えんげ)運動などを起こす反射中枢がある。延髄から中脳にかけて反射中枢のあるものとしては,頭が動いたときこれと反対方向に目を動かす前庭動眼反射や,視野の動きにつれて目を動かす視機性眼球運動がある。延髄から脊髄にかけて中枢のある反射としてよく知られているものに,緊張性迷路反射と緊張性頸反射がある。…
【平衡機能検査】より
…たとえば内耳に障害が起こると,その情報の一つは内耳神経を伝わって脳(とくに脳幹や小脳)に入り,眼を動かす神経に行く。この反射系路を医学的に前庭動眼反射と呼び,現象的には眼球振盪(しんとう)([眼振]という)となって,異常な眼の動きとしてあらわれてくる。これは,正常健康人にはみられない眼の動きで,めまいのある人にはよくみられる現象である。…
※「前庭動眼反射」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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