改訂新版 世界大百科事典 「化学感覚」の意味・わかりやすい解説
化学感覚 (かがくかんかく)
chemical sense
嗅覚や味覚のように物質の化学作用が刺激となって生じる感覚で,一般に脊椎動物では味覚と嗅覚がこれに含まれる。陸生の動物のうち,無脊椎動物には脊椎動物の味覚器や嗅覚器に直接対応する感覚器がないが,これらの動物でも,刺激源から刺激物質の分子が空中を伝播(でんぱ)してきて動物に応答を起こさせる遠隔化学感覚を嗅覚,刺激物が直接動物に接触したときに動物に応答を起こさせる接触化学感覚のうち摂食に関係するものを味覚と定義できる。水生の動物ではこの定義は無意味となるが,魚類や両生類では陸生の動物との相同性から,鼻を経由して生じる感覚を嗅覚,口や口の周りのものを味覚と区別できる。しかし,水生の無脊椎動物になると,味覚と嗅覚の区別は全く不可能になることが多く,これらの動物では物質の化学作用による感覚はまさに化学感覚と呼ぶほかない。また,昆虫などでは産卵管に接触化学感覚があるものがあるが,これは明らかに味覚とは別の化学感覚である。
化学感覚には,このほかに,濃い酸などの刺激性物質が皮膚に作用したときなどに生じる傷害性の感覚があり,これは刺激の質を弁別できないので共通化学感覚と呼ばれる。この感覚は味覚や嗅覚はもちろん,触覚や痛覚ともはっきり異なるものであることが明らかになっており,脊椎動物では脳神経や脊髄神経の自由神経終末に発する独特な感覚種と考えられている。一部には味覚や嗅覚が共通化学感覚から分化したと考える説もあるが,詳細は不明である。
執筆者:立田 栄光
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報