昆虫綱半翅目Hemipteraに属する節足動物の総称。翅の質から同翅類Homopteraと異翅類Heteropteraとに分けられる。同翅類は翅が一様に同質の膜質であるのに対し,異翅類は翅の基部が革質で厚く,先端部は膜質的である。多くの異翅半翅類と一部の同翅半翅類の前翅は,革質化した基部と膜質の先端部とよりなっているところから半翅鞘(しよう)と呼ばれる。これが半翅類の名の由来である。学名も英名のhalf-wingedもまったく同じ意味である。この類のもっとも著しい特徴は吸収のために特殊化した口器の構造で,数節よりなる下唇の背面につくられた溝に,針状に変化した大顎と小顎が収められて,口吻(こうふん)をつくっている。このため有吻類という名が使われたことがある。
変態は漸進的で,幼虫と成虫の形態が似たものが多い。幼虫の翅芽(ふつう第3齢期から現れる)の発達に伴って,胸部の変化が起こり,最後の脱皮とともに翅,生殖器の完成,跗節(ふせつ)数の成虫化が起こる。ほとんどのものにさなぎの時期は見られないが,カイガラムシの雄には蛹期(ようき)があり,コナジラミの4齢幼虫はさなぎに近い。幼虫期,成虫期を通じ,同じ環境に生活し,同じ食性をもっているので,群生する場合は直接,間接(病毒伝播(でんぱ)など)に植物に大害を与える。ヨコバイ,ウンカ,アブラムシ,カイガラムシの類に例が多い。また,イネ,ワタその他に被害を与えるカメムシ類もある。
異翅半翅類の著しい特徴の一つは悪臭を出すものが多いことである。成虫には後胸腺,幼虫には腹背腺と呼ばれる臭腺があって,それぞれ後胸板あるいは腹背板の境界部に開口する。腹背腺は1~3個(対になる場合もある)あって,第3~4,第4~5,第5~6腹背板の境界部の中央,または左右対になって開口する。これらの状態は分類に重要である。においは防御に役だつが,群れをつくる場合のフェロモンとしても意味をもつと思われる。雄の成虫だけに後胸腺のあるタガメのようなものもある。メミズムシの幼虫の背面に多数の単細胞皮膚腺があるが,これはにおいに関係なく,その分泌液は泥を背負うのに役だてられている。
同翅半翅類では皮膚に蠟腺が発達している。ふつう単細胞腺で,単独または集まって開いている。クワキジラミ,ワタアブラムシ,カイガラムシ類などでとくに発達している。
異翅半翅類はほとんどが卵生で,日本ではヒメヒラタカメムシの1種だけに卵胎生が認められるが,同翅半翅類ではアブラムシ類と一部のカイガラムシ類が卵胎生する。多くのカメムシ型類,その他のカメムシ類の一部,カイガラムシ類などには産卵管がなく,卵を植物やその他の物の上,また地表に産下する。多くの同翅半翅類や一部の異翅半翅類には産卵管が発達していて,たいていのものは植物組織内に産卵する。
卵殻の構造,とくに受精,孵化(ふか)時の破砕,呼吸などに関連した構造は科や科群,またさらに上の分類段階を考えるのに役だつ。カメムシ科の卵殻の一端には多くの微小突起が環状に並び,タイコウチ科では糸状の長い呼吸突起があること,また幼虫脱出の際卵蓋(らんがい)がきれいに離れるもの,まるく裂けるが卵殻構造と一致しないもの,あるいは縦に裂けるものなどがある。同翅半翅類の卵についての研究はまだ十分には行われていない。発音活動はセミを筆頭にかなり多くのもので調査されているが,摩擦発音器の存在はカメムシ類に例が多い。
(1)異翅半翅類 カメムシの類で,前翅は半翅鞘である。生活環境,形態,食性などもっとも変化に富んだ類である。陸生のカメムシ型類とトコジラミ型類,半水生のアメンボ型類,水生のタイコウチ型類に大別されるが,最近トコジラミ型類からサシガメ類,ミズギワカメムシ類,その他を対等の別群として分ける傾向になってきた。(2)同翅半翅類 たいてい前・後翅とも膜質,すべて草食性の類である。この類は頸吻(けいふん)群(セミ,ヨコバイ,ウンカの類)と腹吻群に分けられ,後者はさらにキジラミ類,コナジラミ類,アブラムシ類,カイガラムシ類の4類に分類される。いずれも特殊な性質をもった類であるが,とくにアブラムシ類の生活は複雑である。
執筆者:宮本 正一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
昆虫綱半翅目Hemipteraに含まれる昆虫の総称。準新翅群に属し、不完全変態をする。昆虫のなかでも大きな群の一つで、地球上の生物圏のあらゆる環境に広く生息する。形態上のもっとも大きな特徴は、口器が細長い管状をした口吻(こうふん)となり、そのなかに細い口針が収まることである。この口器は、口針を食物の生物体に刺し込んで、相手の体液を吸収するのに適している。
異翅類(異翅亜目)Heteropteraは、同翅類とともに、半翅類を二分する大きな群で、カメムシ類に代表される。前ばねの基部が厚い革質、先端部は薄い膜質である。陸生のカメムシ科、ヘリカメムシ科、ナガカメムシ科などの種類は植物体から吸汁するので、農作物の重要な害虫とされることがある。サシガメ科などの種類は他の昆虫を捕食するものが多く、天敵昆虫とされる。また、トコジラミ科のトコジラミ(ナンキンムシ)はヒトから吸血する。水生のコオイムシ科、タイコウチ科などの種類は水中で生活し、他の動物を捕食している。半水生のアメンボ科の種類は、水面上で活動し、落下した昆虫などを捕食している。
同翅類(同翅亜目)Homopteraは、前ばねが同質で膜質なのが特徴である。口吻が頭部後方下面から出ている頸吻(けいふん)群と、前脚の基節間から出ている腹吻群に分けられる。頸吻群にはセミ科、アワフキムシ科、ヨコバイ科、ウンカ科などが属し、いずれも植物体に寄生し吸汁するので、農作物の害虫とされることがある。腹吻群は、カイガラムシ科、キジラミ科、コナジラミ科、アブラムシ科に代表される。植物に寄生し植物ウイルスを媒介する種もあり、作物や園芸の重要害虫とされるものが多い。
[立川周二]
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