生物個体の発生過程で,特定の器官に発生するように運命(決定)づけられた胚の部域(胚域)。両生類をはじめ一般に動物の胚の各胚域は発生の初期ほど,それが将来どんな器官を作りうるかという形成可能性の幅が広く,いわゆる未決定の状態にある。これら未決定な胚域の形成可能性は胚の発生が進むにつれて,ある特定の器官しか形成しないように運命づけられる。このように発生運命が決まることを決定determinationと呼ぶが,この決定づけられた胚域をそれが将来形づくる器官の原基という。胚が正常に発生するかぎり,未決定状態の胚域もそれらが胚内で占める位置に応じて,いずれそれぞれから形成されるべき器官に発生する。しかし,決定づけられていない胚域のそのような形成可能性はあくまで予定されたものであって,かりにその胚域を胚の他の部位に移すと,別の異なった器官を形成するようになる。このような意味で,発生が正常に進行すればある特定の器官を形成する〈未決定〉な胚域を予定原基と呼び,たとえば予定眼原基というように,形成されるべき器官名に〈予定presumptive〉という言葉を付加する。正常発生の場合には,各予定原基の配置は一定しているはずなので,それを示すものを原基分布図fate-mapといい,さまざまな脊椎動物についてそれが作られている。
予定原基を原基へと決定づけるしくみは,発生学上の重要課題として久しく研究されてきた。実験発生学では,決定過程に関与する機構として胚域相互間にみられる誘導現象がことに重要視され,その成立のしくみが盛んに研究されたが,今日に至るも決定過程の調節機構を物質的基礎に立って説明することはできていない。個体の発生過程における器官原基の決定機構は,細胞分化における決定の問題とともに現代発生学の最重要課題の一つとなっている。
→発生
執筆者:江口 吾朗
維管束植物の胚発生の過程でも,胚軸,幼根,子葉といった器官の原基がまずつくられ,それからこれらの器官が形成される。これは動物の場合とよく似た現象であるが,動物の場合と違って決定の問題は介在しない。維管束植物では,胚が分化を終えてからも,茎頂と根端には胚的性質が残されており,これらの部位で器官が分裂組織から分化してくるので,こちらも原基と呼ばれる。花原基は茎頂の先端に,葉原基は生長点の頂端から少し下がったところにつくられ,また,側根原基は根端から少し離れた部位にあって,内生的に根を分化させる。
執筆者:岩槻 邦男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
多細胞生物の胚(はい)において、将来の器官あるいは組織の素材となるように方向づけ(決定)された細胞集団をさす。しかし両生類の胚では、決定を受けていなくとも、正常な形態形成運動ののちにはいずれかの器官、組織になることが同定される細胞集団も原基として扱われる。また、このような未分化な胚における原基の配置を示すものを、原基図あるいは予定運命図とよぶ。
[竹内重夫]
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…たとえば,神経板neural plateの両側端が背方にせり上がり正中で癒合することで神経管neural tubeは形成される。次に神経管壁が随所でくびれたり外方に突出することで,脳胞や感覚器官の原基が形成される。このような器官形成における二次元状組織の三次元的な管構造や囊胞構造への形態形成過程が,輸卵管の粘液腺や唾液(だえき)腺について1970年ころから盛んに研究されるようになった。…
※「原基」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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