子供の発達の過程で、否定や拒否の態度や行動が多く出現する時期。普通、3歳ごろの幼児と12歳から15歳ごろにかけての青年に出現するので、前者を第一反抗期、後者を第二反抗期とよんでいる。C・ビューラーは、子供の精神発達を、関心が環境に向かう客観化の時期と、関心が自我に向かう主観化の時期とが交代に表れる過程としてとらえているが、反抗期は、客観化の時期から主観化の時期への移行期に表れると述べている。すなわち、生活に必要な身辺的な事柄に関心を向ける時期と、想像活動に関心を向ける時期との間に、第一反抗期が位置づけられ、現実の知識に関心を向ける時期と、内面生活に関心を向ける時期との間に、第二反抗期が位置づけられる。いずれにせよ、反抗期は自我の発達に深く結び付いている。
[滝沢武久]
第一反抗期の子供は、周囲にいる年長者に対して、すべて「いや」といって反発し、指示や命令をわざと無視したり、逆のことを行ったり、なにかにつけて自分の意志を強硬に主張したりする。こういう反抗は衝動的に生じるが、実は子供の自我が芽生え始めたことを示している。それ以前は、子供は自分の力ではほとんど何もできなかったので、たいていのことは母親の手でやってもらっていた。ところがいまや運動能力が発達して、自分の手足を思うままに使えるようになったため、何事も自分でやってみようとする欲求が高まってきた。そのため、大人の世話や干渉は子供にとって一種の圧力と感じられ、これをはねつけようとする。これが反抗行動として表現されることとなるのである。
反抗は、子供の自我の発達にとって不可欠な現象である。実際、意志薄弱の子供の大部分は、幼児期に反抗期を経験していないといわれている。幼児は反抗を通して、すべてが自分の思いどおりになるものでないことを知り、他人の立場にたったり、他人の意図を推測したりすることができるようになっていく。こうして、自分のいまやりたいことを押さえておく自制力も、発達し始めていくこととなるのである。
[滝沢武久]
一方、第二反抗期は、反抗の対象をもっぱら年長者に向けていた第一反抗期と異なり、自分を取り巻く伝統的な慣習や権威などに対する反抗を特徴とする。年長者への反抗も、実は、その年長者の背後にもつ旧来の権威への反抗なのだから、権威をかさに着ることのない年長者に対しては反抗することもない。逆に、理解ある年長者にはむしろ全面的に信頼を寄せ、従順に従う。それゆえ、この時期の反抗は意識的である。それは、自我の確立期に生じる現象だからである。
青年期に入ると、急激な身体的変化、とりわけ性的成熟に当面して、児童期からの連続性が破壊され、大きな不安を覚える。そこで、自分とは何か、自分には何ができるか、自分の社会的役割は何かを、新たに求め始める。つまり、E・H・エリクソンのいう「自我同一性」を確立しようとする方向に関心が向く。ところが、まだ大人としての役割が社会から与えられるまで「猶予期間」(モラトリアム)があるため、自我同一性が確立しにくい状況にある。その結果、しばしば無力感や懐疑などを伴う「同一性拡散」の状態に陥る。反抗は、青年が自我同一性を取り戻そうとするあがきとみることができる。自分の意見を強硬に主張して、親や教師の指示を無視したり、手向かったり、沈黙を続けたり、内に閉じ込もったり、風変わりな服装や言動を誇示したり、いたずらをしたり、ときには暴力を振るったりすることもある。
そのうえ、思春期初期は、自我が十分に確立されていない時期なので、自信のないまま反抗的行動をとる。そのため、単なる強がりの虚勢的反抗である場合が多いが、しだいに自我が強く意識されてくるにつれて、その反抗も自分の信念に基づくものになっていく。そして、自我同一性が確保されるに至ると、反抗は軽減されることとなるのである。
[滝沢武久]
『中西信男著『反抗の心理』(1971・福村出版)』
人間の成長・発達過程には,親,年長者あるいは既成の価値体系を拒絶,否定,無視し,激しい怒りの感情を表出したり,破壊的・暴力的な行動をひきおこしたりすることが目だつ時期がある。この時期を反抗期というが,否定的行動が多彩に現れるので否定期と呼ぶこともある。今日では〈第一反抗期〉(幼児期),〈第二反抗期〉(思春期)をあげる2期説が一般的である。いずれも自我意識の発達に伴う自立・独立の欲求の高まりがその背後にある正常な現象であり,人格発達上重要な意義をもつものである。
おおよそ2歳から4歳にかけての時期である。子どもは2歳ころまでは認識や行動の能力が未発達であり,生活のすべての面でおとなの援助を要する。しかし2歳ころからは言語や表象(イメージ)の能力が著しく発達し,また身体諸器官もよく発達することによって,自分なりの意図をもった自主的な行動がとれるようになり,極端にいえばおとなと一体化していた世界から独立した〈自分の世界〉をもつようになる。反抗は親のしつけその他の働きかけに対して何でも〈いや!〉という,それまで手伝ってもらっていた身辺処理的な行動でも〈じぶんでする!〉というなどのかたちで現れるが,遊んでいるときなどに別の行動を指示されるとこれを無視するという現れ方をとることもある。これらの現れ方は強烈であり,自分なりの意図とずれるとひじょうに激しく,長いこと泣き叫んで我を通そうとすることもある。親とくに母親はこれらに接するといらいらしがちであるが,子どもの意図や要求を読みとりつつ,じっくり待って思いどおりやらせてみたり,類似した別の行動に誘いこんで気分転換をはかったりする必要がある。幼児は反抗を通してしだいに他者にも意図や要求があることを認識したり,自分の行動能力の限界を客観的に認識して自己をコントロールする力を得ていく。
思春期の反抗は幼児期のそれとちがって多くの場合意識的である。思春期には抽象的論理的思考能力が芽生え,発達し,思考の対象も身辺のことだけでなく歴史や社会の事象にも及び,さらに人生観なども形成しはじめるが,それらはしばしば観念的であって現実に即した柔軟なものにはなりきっていない。他方身体的にも第二次性徴にみるように子どもからおとなへと変わっていく時期であり,子ども的な特徴とおとな的な特徴をもつ複雑な状態にある。要するに心身ともにおとなへと移行する過渡期であって心理的不均衡感,葛藤が著しい。思春期の子どもはそうしたなかで親をはじめとするおとなへの依存欲求を背後にもちつつ,一人前に扱ってほしいという自己主張,自立への志向を前面に押しだしおとなと衝突する。それは具体的にはおとなの言動の批判,否定,攻撃のほか,無視,沈黙,自室への引きこもり,目だつ服装の着用,暴力,社会批判などとなって現れる。思春期の反抗は彼らの知的能力の伸長,自主独立の自我を確立していくための欲求と現実的・実際的な問題理解や行動能力の未発達との矛盾の現れであるから,おとなはその内面への理解を基本としながらみずからの考えを述べ,落ち着いた対話を通じておとなへの移行を援助していくことが望ましい。
執筆者:高垣 忠一郎+茂木 俊彦
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…言語発達の面では,初期の〈かたこと〉が一語文として用いられて,要求の表現やおとなとの会話を成立させ,しだいに2語,3語の文としての表現が多くなり,コミュニケーションの手段としての役割を確立していく。このような諸能力の獲得によって,子どもの自我が拡大し,3歳前後にはそのあらわれとしての〈反抗〉(第1反抗期)がみられる。おとなの一方的指示に対する〈イヤ〉という拒否,〈ぼくが……〉〈わたしの……〉という自己主張,〈……がほしい〉といいだしたらきかない固執傾向などである。…
※「反抗期」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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