取調べ(読み)トリシラベ

デジタル大辞泉 「取調べ」の意味・読み・例文・類語

とり‐しらべ【取(り)調べ】

取り調べること。特に、捜査機関が、被疑者参考人出頭を求めて犯罪に関する事情を聴取すること。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「取調べ」の意味・わかりやすい解説

取調べ
とりしらべ

取り調べること。刑事訴訟法では取調べという用語がほぼ4通りの意味で用いられている。第一は、人を対象としてその者に供述を求める行為を意味する場合(刑事訴訟法198条、223条等)、第二は、捜査活動一般をさす広い意味の場合(同法197条)、第三は、裁判官が法定の証拠調べの方式に従って証拠の内容を確認することをいう場合(同法282条、305条等)、そして、第四は、裁判官の認識活動一般をさす広い意味の場合(同法43条3項)である。なお、供述証拠の収集方法として、取調べと証人尋問(同法226条、227条、228条)のほか、2016年(平成28)の刑事訴訟法改正により合意制度(同法350条の2以下)が導入され、取調べとは区別された聴取手続による被疑者・被告人の供述の収集が認められた。また、刑事免責制度(同法157条の2)も導入され、自己負罪拒否特権行使が認められない証言強制手続による供述の収集方法も認められている。以下では、第一の意味での取調べを取り上げる。

(1)在宅被疑者の取調べ 捜査機関は、犯罪の捜査をするため必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる(同法198条1項本文)。ただし、被疑者は出頭を拒むことができる(同法198条1項但書)。したがってこの出頭は任意出頭とよばれ、捜査機関がこの出頭のために被疑者に同行を求める場合には任意同行とよばれる。また、被疑者は出頭後いつでも退去することができる(同法198条1項但書)。したがってこの被疑者の取調べは任意取調べである。取調べに際しては、あらかじめ、自己の意思に反して供述する必要がない旨を告げなければならない(同法198条2項)。いわゆる供述拒否権の告知である。被疑者の供述は調書に録取され(同法198条3項)、これを被疑者に閲覧させ、または読み聞かせて誤りがないかどうかを問い、被疑者が増減変更の申立てをしたときは、その供述を調書に記載し(同法198条4項)、被疑者に署名押印を求めることができるが、被疑者が拒絶した場合はこの限りではない(同法198条5項)。この供述調書は後に公判で証拠とされることが多い(同法322条1項)。在宅被疑者の取調べの限界について判例は、任意捜査の一環としての被疑者の取調べは、事案の性質、被疑者に対する容疑の程度、被疑者の態度等諸般の事情を勘案して、社会通念上相当と認められる方法ないし態様および限度において許容される(最高裁判所昭和59年2月29日決定)、としている。

(2)身柄拘束被疑者の取調べ 刑事訴訟法第198条第1項は、被疑者が身柄を拘束されているかどうかを問わず捜査官による被疑者の取調べを規定している。したがって、捜査官は身柄を拘束された被疑者の取調べをすることができる。この場合、同法第198条第1項但書は、被疑者は、逮捕または勾留(こうりゅう)されている場合を除いては、出頭を拒みまたは出頭後いつでも退去することができると規定しているので、実務上、被疑者が逮捕または勾留されている場合は出頭を拒否したり出頭後自由に退去することはできないと解されている。身柄拘束被疑者に取調室への出頭義務および取調室での滞留義務があるかについては、学説上争いがあるが、判例は、身体の拘束を受けている被疑者に取調べのために出頭し、滞留する義務があると解することが、ただちに被疑者からその意思に反して供述することを拒否する自由を奪うことを意味するものでないことは明らかである(最高裁判所大法廷平成11年3月24日判決)、としている。

 2016年の刑事訴訟法改正において、被疑者の取調べとその供述調書に過度に依存した捜査・公判手続を改革するために、取調べの録音・録画制度が導入され、裁判員裁判対象事件(死刑または無期の懲役もしくは禁錮にあたる罪にかかる事件、および短期1年以上の有期の懲役もしくは禁錮にあたる罪であって故意の犯罪行為により被害者を死亡させたものにかかる事件)および検察官の独自捜査事件(検察官が直接告訴・告発等を受け、または自ら認知して捜査を行う事件)について、原則として取調べの全過程の録音・録画が義務づけられた(刑事訴訟法301条の2第4項)。ただし、録音・録画の対象となる被疑者の取調べは、逮捕・勾留されている被疑者についての刑事訴訟法第198条第1項の取調べおよび被疑者の弁解録取手続(同法301条の2第1項本文、同第4項柱書)に限られる。したがって、身柄を拘束されていない在宅被疑者の取調べおよび起訴後の勾留中の被告人の取調べは含まれない。検察官は、被告人または弁護人が、被疑者の供述の任意性について異議を述べたときは、その任意性を立証するため、当該書面が作成された取調べ等の開始から終了に至るまでの間における被告人の供述およびその状況を記録した記録媒体の取調べを請求しなければならない(同法301条の2第1項柱書本文)。

(3)被疑者以外の者の取調べ 捜査官は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、犯罪の被害者、目撃者等の被疑者以外の第三者の出頭を求め、これを取り調べることができる(同法223条1項)。これを参考人取調べとよぶ。参考人の供述は調書に録取され、後に証拠となることが多い(同法321条1項2号・3号等)。なお、被疑者以外の第三者に出頭を求めても、その者が出頭または供述を拒んだ場合には、検察官は、裁判官に対して、その者の証人尋問を請求することができる(同法226条)。また、参考人取調べにおいて任意に供述した者が、公判期日において異なる供述をするおそれがある場合にも、裁判官に証人尋問を請求することができる(同法227条)。

[田口守一 2018年4月18日]

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世界大百科事典(旧版)内の取調べの言及

【捜査】より

…この考え方は,検察官に裁判官的役割を期待して事件の解明をゆだねるという点で,捜査機関を当事者的にとらえる弾劾的捜査観とは異質のものであり,むしろ糾問的捜査観と共通したとらえ方だといえる。 捜査構造論は,初めは主として,令状は裁判官の命令か(弾劾的捜査観)あるいは捜査機関の権限を確認するだけのものか(糾問的捜査観),被疑者は捜査機関による取調べに対して受忍義務があるか(弾劾的捜査観は消極説,糾問的捜査観は積極説)についての議論であったが,のちにいっそうの理論的深化がはかられ,捜査の性質論をも兼ねるものとなったということができよう。学界では弾劾的捜査観が有力であるのに対し,捜査実務家の間では糾問的捜査観の主張が根強い。…

※「取調べ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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