会社の合併とは,2個以上の会社が,商法の合併規定に従い,契約によって,一つの会社になることである(商法56条,98条,408条以下等)。合併当事会社の財産と社員(株式会社では株主のこと)を分離せずに,いくつかの会社が一つになる法技術であるところにその特色がある。そしていくつかの企業が,経済的のみならず法律的にも一体となるものであるから,企業合同として最も進んだ形態といえる。なお,合併の規定によらないで,1個以上の会社が解散し,他の会社が新株発行および営業の譲受けによって株主および資産を引き継ぐ場合なども,合併と同様の効果を生ずるが,合併ではなく〈事実上の合併〉といわれる。この場合には解散会社につき清算手続を必要とするが,合併では清算手続を要しない。
合併の態様には,合併当事会社がすべて解散し,それと同時に新会社を設立してその中に入り込む場合と,当事会社の一つが存続して他の解散する会社を吸収する場合とがある。前者を新設合併,後者を吸収合併という。実際に行われるのはほとんど吸収合併で,外観上は新設合併のようにみえる場合でも,合併後の会社の商号を新商号にするなどしたものであって,法律的には吸収合併であるのが普通である。その理由としては,新設合併の規定が不備であって疑義を生じやすい点があること,営業について官庁の許可・認可が必要な場合に新設会社につきあらためて許認可を得るのが面倒なこと,などがあげられる。なお,銀行や鉄道など特殊な種類の事業を営む会社では,合併そのものにつき主務官庁の認可(合併の効力要件となる)を受けなければならない(銀行法30条,保険業法167条,鉄道事業法26条等)。合併(以下,吸収合併でかつ株式会社の場合を例にとる)は,存続会社が消滅会社の株主と資産を引き継ぐものであるから,これを法律的にどのように説明するかで説の対立がある。人格合一説が,合併を当事会社の一種特別な契約とし,その効果として権利義務の包括承継と株主の収容を生ずると解するのに対し,現物出資説は,消滅会社の営業全部の出資とそれに対する存続会社の新株発行が合併の本質だと解している。実際問題について両者で結論の差はあまりなく,説明の差にすぎない。
合併は,資産の移転や株主の収容を伴うものであるから,それぞれの会社の株主や会社債権者にとってきわめて重要な問題であり,したがってその手続は複雑である。合併は経営者,従業員にとっても重要であるから,あらかじめ当事会社間で基本的事項について意見調整が行われることも多いが,商法上の手続の第一歩は合併契約書の作成である(商法408条)。法定記載(409条)のほかに任意の事項を記載することも可能である。この契約書は各当事会社の株主総会で承認されなければならない(いわゆる簡易合併では存続会社の株主総会は不要である(413条ノ3))。この決議の日から2週間内に,債権者に対し合併に異議があれば申し出るように催告をする。いわゆる債権者保護手続である。合併により消滅する会社の株主は,従来の株式の代りに存続会社の株式を受け取ることになるが,消滅会社の1株に対して存続会社の株式何株を受け取るかは株主にとって重要な関心事であり,この割合(合併比率という)は合併契約書の記載事項である。合併比率の公正を確保するため,その算定の根拠を示す理由書は,合併契約書,各会社の貸借対照表・損益計算書とともに,会社の本店に備え置き,株主・会社債権者の閲覧・謄写に供さなければならない(408条ノ2)。2株に対して1株を受け取るような比率のときは,消滅会社の側で2株を1株にする株式併合手続をとらなければならない。逆に1株に対して10株を受け取るようなときは株式分割手続をとる。これらの手続は合併手続の中で行われるものである。以上の手続が終わると,合併期日に両会社が実質的に一体となり,合併登記で法律的に合併の効力が生ずる(416条,102条)。なお,合併の無効は〈合併無効の訴え〉により無効判決が確定したときのみ認められ,無効は遡及(そきゆう)しない。
執筆者:田村 諄之輔
合併の経済的な目的は事業面と経営面に分けられる。事業面では,(1)生産の集中,専門化,(2)設備の適正規模化,(3)事業の補完,(4)経営の多角化,(5)営業不振会社の整理,等が主たる目的になる。経営面では,(1)市場占有率(マーケット・シェア)の拡大,(2)販売力の強化,(3)資産調達力の増大,(4)管理費用の節減,(5)二重投資の回避,(6)被合併会社の技術力の活用,(7)技術開発力の強化,等が主目的になる。企業が他の企業との結合または提携によって成長または効率化を図る手段としては,合併のほかに共同投資,業務提携,中小企業部門等の団体化および共同事業,生産分野調整等がある。これらは主体の独立性が維持される点から,合併よりも成立が容易であるが,意思決定の一体化という点では合併に劣る。合併の目的で示した諸点は,個別企業の経営を強化するとともに,経済全体の成長,効率化に資するものでもある。しかし,合併によって少数の企業の市場支配力が拡大し,競争制限による悪影響が生じるおそれがあるため,独占禁止法15条によって合併は種々の制限を受ける。これについては後述〈独占禁止法による規制〉の節を参照されたい。
公正取引委員会の合併の受理件数は,1960年ころまで年間300~400件前後であったが,60年代に入って急激に増加し,70年代初めまで増加の一途をたどった(ピークは1972年の1184件)。その後は減少傾向にあったが,80年ころから再び増加の傾向を示した。第2次大戦後の合併のなかで大きな関心を集めたのは,1965-70年前後の大型合併である。1964年の三菱三重工の合併(三菱重工業が発足),大阪商船と三井船舶の合併(対等合併で大阪商船三井船舶が発足。現,商船三井),65年の神戸製鋼所と尼崎製鉄の合併(神戸製鋼所が存続),66年の東洋紡績と呉羽紡績の合併(東洋紡績が存続),67年の日産自動車とプリンス自動車工業の合併(日産自動車が存続),70年の八幡製鉄と富士製鉄の合併(対等合併で新日本製鉄が発足)などである。とくに八幡,富士の二大製鉄所の合併は,1968年4月の両社の合併の決意表明以降,実業界や通産省の賛成論と経済学者の反対論が激しく対立し,活発な議論が行われた。当時,大型合併が相次いだ背景としては,貿易の自由化,資本の自由化の実施による国際化への対応があげられる。すなわち,日本の主要産業は国際的にみて過小規模の企業が多数存在し,過度の競争に走りがちで,このため企業の体質は自己資本蓄積に乏しい等の脆弱(ぜいじやく)さが目だつから,これを改善し,また技術開発力等を強化するためには,企業の大規模化を図るべきだという考えが,実業界や通産省で強くなったのである。
西ドイツ,イギリス,フランス等でも1960年代後半に合併が急増し,主要産業における大型合併も目立った。この理由としては,(1)企業をとりまく経済環境がEEC成立や関税障壁の低下,アメリカ企業のヨーロッパ進出等により変化し,企業ぐるみの競争に打ち勝つために企業規模の拡大が必要になったこと,(2)技術革新により最適生産規模が拡大し,投資効率を高めるうえにおいても,大型化の傾向にある研究開発投資資金をまかなうために企業の集約化が要請されたこと,等があげられる。アメリカにおいても60年代後半に合併が活発化した。日本とヨーロッパ諸国では水平的合併(同一製品を同一市場において販売する企業間の合併)と垂直的合併(製品の販売先または原材料の購入先との合併)がほとんどであるのに対して,アメリカでは企業合併の多くは複合的合併であった。複合的合併は,(1)同一製品を別々の地域で販売している企業の合併,(2)生産あるいは販売において機能的に関連のある企業間の合併,(3)互いに事業になんら関係のない企業の合併,に分けられるが,アメリカは(3)のコングロマリット型合併が中心である。アメリカでは,1950年の法改正によって水平的合併と垂直的合併が厳格に規制されるようになってから,合併は企業の成長する機会の拡大や投資対象として企業の買収という形で行われるケースが多い。
執筆者:下田 雅昭
合併には,前述のように競争者間でなされる水平的合併,商品の売手と買手の間でなされる垂直的合併,異分野ないしは地理的異市場の企業間でなされるコングロマリット型合併の3形態が存する。競争政策の観点からは,いずれの形態の合併も,市場における競争者の数を減じたり,特定の企業に経済力が集中する等の好ましくない効果をもつと評価される一方で,合併によって生産制限が可能になるような大きな市場占有率を有する企業が誕生する場合を除けば,合併と企業の内的成長とは本質的に同じで,どちらも競争を促進する要因となるとの見解もある。それゆえ,多くの立法例では,合併に対してカルテル規制のような厳しい態度をとらず,市場支配その他の弊害を生ずる合併のみを規制するという方法がとられている。
日本の独占禁止法は,合併の事前届出制をとり,〈不公正な取引方法〉による合併と〈一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる〉合併とを禁止している(15条)。前者の例はほとんどなく,問題となるのは〈一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる〉合併である。アメリカにおいてもクレートン法7条が日本とほぼ同旨の法文で合併を規制している。同条はセラー=キーフォーバー法とも呼ばれ,1960年代から70年代の中葉にかけて非常に厳格に運用され,寡占化傾向のある業界での水平的合併はすべて禁止するような厳格な規制が行われていた。その後,レーガン政権以降,アメリカの合併規制は大幅に規制緩和されて今日に至っているが,当時,このような厳しさがアメリカのアンチ・トラスト政策の特徴と評され,同時期の日本における合併事件の代表例であった八幡製鉄と富士製鉄合併についての同意審決(1969年に審決,70年に合併の効力が発生し新日本製鉄となった)は,日米における合併規制のあり方の違いを端的に示すものであった。すなわち合併前の両社は鉄鋼業界の1位と2位のメーカーであったうえ,特に鉄道用レール,食缶用ブリキ等4品目については両社のシェアを合計するとほぼ100%に達することから,独占禁止法上は容認しがたい合併であった。しかし,通産省等の働きかけもあって,両社が合併する際にこれらの製品の製造施設等を他の競争相手に譲渡する等の対応策により,それぞれの市場で〈有効な牽制力のある競争者〉が生まれ,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないとの理由づけのもとで合併は認められることとなった。
その後,日本でも合併規制強化の方向での法運用がなされ,次のいずれかに該当するものについては重点的に審査がなされることとなっている。すなわち,まず合併当事会社のいずれかが属する市場において,当事会社のいずれか1社または当事会社すべての合計の市場占拠率(マーケット・シェア)が,(1)25%以上,(2)15%以上かつ業界で1位,(3)第1位かつ,第2位もしくは第3位の会社のシェアとの差が第1位会社のシェアの4分の1以上である場合などである。
この点に関連して,1997年には,合併後のシェアが50%を大きく上回る製品がある大型合併案件であった三井石油化学と三井東圧化学の合併(合併後は三井化学となる予定)が,資産処分等の条件なしに合併が認められることとなったことは特筆に値しよう。本件は,従来からの重点審査の枠組みは維持しつつ,問題となる製品について輸入品と国産品の品質・価格の差,輸入規制がないため,国産品が値上がりすれば直ちに輸入増が予想されるという潜在的な輸入圧力の高さから,合併会社が〈価格や数量をコントロールする力はない〉と認定された。
1990年代に入ってから,経済の国際化が一段と進展し,日本の企業もメガコンペティションと称せられる世界的な大競争への対応を余儀なくされている。そのような中で,合併はより効率的で競争力ある企業を目ざしてのリストラクチャリングの手だての一つとの認識の高まりもある中で,上記の三井化学の一件はこのような経済活動の国際化の実態を折り込んだ判断といえよう。
執筆者:来生 新+井上 従子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
二つ以上の会社が、契約によって一つの会社になること。合併には、当事者である一つの会社が存続し他の解散する会社を吸収する「吸収合併」と、当事会社の全部が解散しそれと同時に新たな会社を設立してそのなかに入り込む「新設合併」とがある。合併の法的性質につき、合併を会社の合同を直接生ぜしめる当事会社間の組織法上の特殊な契約と解する人格合一説と、解散会社の営業全部の現物出資による存続会社の資本増加(吸収合併の場合)、または新会社の設立(新設合併の場合)であるとする現物出資説が主張されている。
[戸田修三・福原紀彦]
株式会社の合併は以下のような手続を経る。
〔1〕当事会社間で合併契約を締結する。この場合、法定事項を記載した合併契約書の作成が必要である(会社法は吸収合併の場合は748条・749条、新設合併の場合は748条・753条で規定。以下同様)。
〔2〕各当事会社において、合併契約の内容等を事前に開示し、株主および会社債権者の閲覧に供する(吸収合併消滅会社は782条、存続会社は794条、新設合併消滅会社803条)。承認総会において株主が賛否を示す、または会社債権者が合併に異議を述べるための判断材料を提供するためである。
〔3〕株主総会において合併契約書を承認する。承認には株主総会の特別決議が必要である(吸収合併消滅会社は783条・784条、存続会社は795条・796条、新設合併消滅会社は804条・805条)。なお、この株主総会決議が、(a)不要になる場合と、(b)加重される場合とがある。
(a)不要になる場合 (1)吸収合併消滅会社が存続会社の特別支配会社である場合、または合併対価の簿価が存続会社の総資産額の20%を超えない場合には、吸収合併存続会社の株主総会決議が不要になる。(2)吸収合併合併存続会社が吸収合併消滅会社の特別支配会社である場合には吸収合併消滅会社の株主総会決議が不要になる。
(b)加重される場合 (1)株主に交付する対価の全部または一部が持分(もちぶん)会社の持分である場合には吸収合併消滅会社の総株主の同意が必要となる。(2)新設合併設立会社が持分会社である場合には、新設合併消滅会社の総株主の同意が必要となる。なお、反対株主や一定の新株予約権者には、公正価格での買取請求権が認められている(吸収合併消滅会社785条~788条、存続会社は797条~798条、新設合併消滅会社は806条~809条)。
〔4〕各当事会社の債権者は、合併について異議を述べることができる(吸収合併消滅会社は789条、存続会社は799条、新設合併消滅会社は810条)。合併によって債務者である会社の財産状態が悪化すると、債権回収が困難となり、債権者に重大な影響を及ぼすからである。
〔5〕合併の登記を行う(吸収合併は921条、新設合併は922条)。
〔6〕合併の効力発生後遅滞なく、合併に関する事項を株主および会社債権者の閲覧に供する(吸収合併存続会社は801条、新設合併設立会社は815条)。合併無効の訴えを提起するか否かの判断材料を提供するためである。合併により解散した会社はただちに消滅し、清算手続を必要としない。合併の無効は、合併の日から6か月以内に、合併無効の訴えによってのみ主張できる。
[戸田修三・福原紀彦]
『今井宏・菊地伸著『会社の合併』(2005・商事法務)』▽『中野百々造著『合併・分割の税務――その法務と税務』三訂版(2007・税務経理協会)』▽『金子登志雄著『商業登記全書7 組織再編の手続――法務企画から登記まで』(2007・中央経済社)』▽『玉井裕子著『会社合併の進め方』(日経文庫)』
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…日本では,ドイツ,フランスとは異なり,営業それ自体について独自の権利(所有権などの物権)は認められていないからである。もっとも,商法も国民経済的観点からかかる財産的組織体の無益な解体を回避させるため,商号,会社の合併・継続,組織変更など企業の維持をはかるための制度を設けている。
[営業権]
次のように多義的に用いられる。…
…そのおもな改正点は,会計監査人監査の強制等大会社の特例が適用される会社の範囲が拡大されたこと,1899年以来据置きとなっていた株式の単位を引き上げたこと,および,いわゆる総会屋根絶のための措置等会社運営の適正を図ったこと,である。1990年代に入って,90年に最低資本金制度の導入,設立手続の合理化,優先株式の機動的発行等を目的とする改正,93年に株主代表訴訟の貼用印紙額を一律に8200円とする,社債制度を抜本改正する,大会社の監査役を3名以上とし,社外監査役をおき,監査役会制度を法定する等を目的とする改正,94年に会社による自己株式取得規制を緩和することを目的とする改正,97年にストック・オプションの実施および株式の利益消却手続の容易化および合併手続の合理化を目的とする改正と,続けざまに株式会社法の改正は行われている。
[制度の特質]
(1)機構上の特色 株式会社は,資本を大規模に集中して事業を行い,その利益を利益配当(配当)として株主に分配するための制度であるが,多数の株主が会社の経営に直接に参加するわけにはいかないことから,株主によって構成される株主総会が取締役を選任して取締役に会社の経営をゆだね(商法254条1項),株主総会自身は,利益配当の決定や定款変更・合併・減資などの基本的事項の決定のみを行う。…
…企業間でコスト条件や生産能力と販売能力の乖離などの利害を異にする事態に至ると,カルテルはしばしば崩壊するので,独占の形態としては不完全である。これに対して,トラストは典型的な場合,合併によって諸企業を一つの企業体に統合するので,トラストによる競争制限はカルテルによるそれよりはるかに強力かつ持続的である。 一つの市場での独占力をてこに,企業が別の市場でも独占力をふるうことがある。…
※「合併」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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