呼吸機能(読み)こきゅうきのう(英語表記)respiratory function

改訂新版 世界大百科事典 「呼吸機能」の意味・わかりやすい解説

呼吸機能 (こきゅうきのう)
respiratory function

呼吸を外呼吸の意味にとり,肺において生体に必要な酸素を取り入れ,生体で生じた二酸化炭素を体外に排出する過程を遂行し維持する生体の働きをいう。呼吸機能が十分かどうかは,最終的には生体が必要とする量の,正常組成の動脈血を供給できるかどうかで判断する。

 酸素が外界から体の動脈内に到達するまでには,肺胞に新鮮な空気を取り込み,それが酸素が少なくて二酸化炭素の多い肺胞内のガスと入れかわり(換気),酸素が肺胞から肺胞毛細血管膜(呼吸膜)を通って肺毛細血管内に移行し(拡散),肺毛細血管内の血液が集まり(肺循環),左心室を介して全身に送られる過程を経る。二酸化炭素については,右心室を介して肺毛細血管に静脈血が送られ,そのあとは酸素と逆のルートで外界に送り出される。この換気や肺循環の大きさは,必要な酸素量や排出すべき二酸化炭素量にマッチするように調節される(呼吸循環調節)。

 換気は,横隔膜や外肋間筋などの収縮によって胸郭容積が拡大し,肺内に外気が引き込まれることによって起こる。安静時呼吸の1回換気量は約500ml,呼吸数は1分間に平均11.7回であるが,1回換気量のうち約150mlは肺胞までは入らず,そのまま呼出される(死腔換気量)。残りの吸気も,肺胞毛細血管膜に届くまでは吸い込まれず,残り約2mmの距離は,気相内の拡散によって移動する。人間はふつう直立位をとっているので,肺胞は,肺尖ではつねに伸展され肺下部では圧縮されている。このために肺胞気量に対する換気の割合は,肺尖では低く,肺下部では大きい。慢性気管支炎慢性肺気腫などの気道閉塞性の病気では,肺内各部で非常に不均等に気流に対する抵抗が増加するので,肺上下の不均等換気に加えて,非常に小さい単位で換気の悪い肺胞とよい肺胞が生じ,肺胞での酸素取込みが著しく障害され,肺胞気と動脈血間の酸素分圧較差が増大し,動脈血酸素分圧は低下する。肺胞毛細血管膜を通るガス交換は,二酸化炭素の場合は水に対する溶解度係数が酸素の20倍もあるためにほとんど抵抗にならない。酸素に関しては,肺繊維症,石綿肺などのように肺胞毛細血管膜が著しく厚くなる場合や,慢性肺気腫,肺切除などのように肺胞毛細血管膜面積が減少する場合に通過に対する抵抗が問題となり,運動時など肺血流速度の増加する際に動脈血酸素分圧低下の原因となる。

 肺循環血流量は,人間はふつう直立位をとっているので,重力の影響を受けて肺尖で少なく,肺下部では多い。換気分布も同じ方向の差があるが,血流の上下差のほうが大きいため,換気と血流の比(換気血流比)は,肺尖で大きく,その結果肺胞気酸素分圧は高く,肺下部ではいずれの値も小さくなる。肺結核はヒトでは肺尖に多く,ウシでは背部に多いといわれるが,いずれも換気血流比の大きい場所にあたるという人がいる。血流分布の変化として,肺鬱血(うつけつ)の場合,肺尖で血流が増加し,肺下部で減少する。肺血栓塞栓症などでは,局所的肺血流欠損がみられ,換気血流比不均等性が増加して,肺胞気と動脈血間の酸素分圧較差が増大して,動脈血酸素分圧の低下や二酸化炭素分圧の上昇をきたす。また動脈血二酸化炭素分圧は約40mmHgに保たれるように種々の因子によって微調整されているが,慢性閉塞性肺疾患などで呼吸中枢の二酸化炭素に対する感受性が低下している場合には,動脈血酸素分圧の低下が呼吸刺激となっている。しかし,この場合は酸素分圧が著しく低下しないと呼吸刺激作用はない。
呼吸
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