②は西周の考案による。挙例の「百学連環」では proposition を「命題」、syllogism を「演題」と訳している。「哲学字彙」(一八八一)では、「演題」は「推測式」に改訳されたが、「命題」はそのまま取り入れられ、明治二〇年(一八八七)以降一般化した。
命題とは、なんらかの主張を表している記号の組合せである。しかし、命題とはその主張そのものであるという解釈も可能である。また、命題とは、それが表す主張を成立させるような状況(の集合)であるという定義も可能である。かりに、第一の解釈をとると、命題は言明ともよばれる。
さて、言明、つまり命題を分解していくと、最後には、これ以上分解すると命題にならないような命題に到達する。たとえば、「ソクラテスは人である」は、このような命題である。こういった命題は原子的命題とよばれるが、逆に、原子的命題から出発して、「そして」(連言。記号∧で表す)、「あるいは」(選言。記号∨で表す)、「ならば」(含意。記号⇒で表す)、「でない」(否定。記号¬で表す)といった論理演算を用いて、しだいに複雑な命題を構成することができる。
命題は真(T)か偽(F)のいずれかであるとすると、論理演算と命題の真偽(真理値)の間に、 のようないわゆる真理表が得られる。ただし、AとBは任意の命題である。このように、原子的命題の構造に立ち入ることなしに、命題相互間の研究をするのが命題論理であって、原子的命題の構造にまで立ち入る述語論理の基礎となっている。
[石本 新]
文章などで表された主張(判断)が命題である。〈△ABCにおいて,AB=BCならば△ABCは正三角形である〉は真でない,すなわち偽である命題である。このように命題は真であるものに限定はしない。〈△ABCにおいて∠ABC=∠BCA=60°ならば,△ABCは正三角形である〉は真である命題であり,すなわち定理である。その中で〈△ABCにおいて∠ABC=∠BCA=60°〉は仮定ないしは条件であるが,この文章も,考えている対象に対する主張と考えれば一つの命題になる。したがって,定理のような形をした命題だけでなく,形の上では条件のように見える命題もある。命題のうち,一つの集合の元全体に対する主張を全称命題といい,ある条件をみたす元の存在を主張するものを存在命題という。
→判断
執筆者:永田 雅宜
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…一般的にいえば判断とは〈何事かに関して真(または偽)と判ずるところの人間の心的作用〉を意味する。一方,命題propositionは論理学において通常〈その真偽に関して論じうる文(たとえば感嘆文や命令文は命題でない)〉と規定されており,したがって,命題は判断の言語表現であるといえる。ここでは論理学の用語としての〈判断〉について述べるが,論理学の対象として見るかぎりでは,判断と命題はとくに区別する必要はない。…
…そのような正しい結論を導く推論の体系は論理と呼ばれている。 その中で最も基本的な演繹推論の体系は,命題論理である。命題論理は,命題と呼ばれる真偽が特定できる文および文の間の論理的な関係を表す論理記号と呼ばれる記号からなる。…
…科学的知識を表現することができる厳密に語彙と文法が定義された形式的体系としての人工言語については,当然,厳密な意味論を定義することが可能であり,論理学の成立した19世紀後半から1950年代までに,さまざまな形式的体系に対して意味論が定義されてきた。すなわち,それぞれの形式的体系に属する命題について,その命題がどのような場合に真になり,どのような場合に偽になるかという条件をその命題の意味とする考え方が確立した。 それに対して,日本語や英語などの社会的,歴史的背景をもつ言語は,以上のような観点からは自然言語と呼ばれる。…
…現代論理学の一分野。通常いかなる命題(判断)も真か偽のいずれかであると考えられている。そして,真でもなければ偽でもない中間の真理値は存在しないというのが論理学の常識であろう。…
…一般的にいえば判断とは〈何事かに関して真(または偽)と判ずるところの人間の心的作用〉を意味する。一方,命題propositionは論理学において通常〈その真偽に関して論じうる文(たとえば感嘆文や命令文は命題でない)〉と規定されており,したがって,命題は判断の言語表現であるといえる。ここでは論理学の用語としての〈判断〉について述べるが,論理学の対象として見るかぎりでは,判断と命題はとくに区別する必要はない。…
…論理的に不可分な意味の単位として命題(事実を記述し,真ないし偽の値をとることができる文)を考え,命題相互の論理関係を主題とする科学。現代論理学の最も基礎的な部分を構成する。…
※「命題」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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