優秀性,均一性,永続性が遺伝的に保たれ,固有の特性によって他と区別されるような一群の農作物や家畜をいう。英語では作物の場合cultivarまたはvarietyといい,家畜の場合はraceまたはbreedという。農林水産業でとくに重視される実用的概念である。動植物に人為的な操作を加えると,各種の特徴をもった子孫をつくることができ,その特徴の一部は遺伝質として後代に伝わっていく。重要な特徴が,実用的に支障のない程度にまで同じようになり,半永久的に変わらないようになったグループが品種であり,品種名がつけられて利用される。市販されている野菜の種子を例にとってみると,包装紙には,その野菜名といっしょに品種名が書いてあるのが普通である。ただし,野菜名として〈ダイコン〉とか〈キュウリ〉のように和名が記されている場合のほかに,〈時無し大根〉〈練馬大根〉のように一言でその野菜の特徴がわかるような品種名あるいは品種群名を野菜名に冠して記すこともある。この野菜名は植物分類学上の種あるいは亜種名に相当するが,植物学上の分類と作物の分類とは異なった目的で行われるため,両者が必ずしも一致しないことがある。
品種数は作物,家畜の種類によって異なるが,主要な作物の品種数は現在世界中で数十万に達するといわれる。これら多数の品種は,利用目的や特性などに応じて特別な名称をつけ,多様にタイプ分けして取り扱われることが多い。普及品種は,農家に普及し栽培,飼育されている品種のことで,作物では栽培品種ともいわれる。大量に栽培,飼育される主要な作物や家畜の場合には,生産の安定的な向上を期するために,行政による調整,指導の行われることが少なくない。日本では国公立の試験研究機関において,主要な農産物の品種について適応性試験を実施し,優れたものを選んで新品種とし,普及に移している。これらの新品種には,奨励品種とか準奨励品種とかの名称がつけられている。優れた性質をたくさんもっていても厳しい栽培環境には耐えがたい品種もあるし,広い環境条件に適応しうる性質を備えた品種もある。後者の性質を広域適応性といい,この性質をもつ品種を広域適応性品種という。
生理・生態的特徴で品種の種類を分けることもある。例えば開花時期(あるいは熟期)の早晩で,早生品種,晩生品種あるいは四季咲(時無し)品種とかいわれるものがそれである。穀類ではもち種(もち品種),うるち種(うるち品種)などの区別が一般に行われるし,家畜では利用目的により,乳用種(乳用品種),肉用種(肉用品種)などの別が問題とされる。
個々の品種には固有の特性が備わっており,その特性は品種が同一であれば,毎年変わらないことになっている。品種の特性としてしばしば問題とされるものを作物についてみると,形態的特性,生理・生態的特性(早・晩性,春まき・秋まき性,適応土壌,生育適温など),不良環境抵抗性(耐病虫性,耐塩性,耐寒性,耐旱性,耐暑性,不良土壌抵抗性など),品質特性などが挙げられる。これらの特性のうち,品質は消費者の関心の及ぶところで,市場価値を左右するものとして重要であり,他の諸特性はおもに生産者(農家)が栽培上,留意すべきもので,これによって収穫量は大きく変動する。ただし,収穫物の形態的特性は,果実の形のように,ときに品質特性と関連し,重要な市場価値と結びつく場合もある。
新品種ができ上がると,育成者(育種者ともいう)はこれに品種名をつけて農家に提供し,一般に流通するようになる。品種名はそれぞれの作物・家畜種にとってまったく新しい名前でなければならない。普通は親しみやすい名をつけるが,ときに通し番号(農林番号)をつけることもある。従来,日本では国立研究機関などで育成された品種には番号がつけられており,例えば,小麦農林10号などと呼んでいた。しかし,第2次世界大戦後はこの番号のほかに,その品種固有の名称がつけられるようになった。現在でも農林番号はつけられてはいるが,例えばアサカゼコムギ(小麦農林123号のこと)のような呼称が普通に用いられるようになっている。
新品種および既成の品種は,その特性が変化しないように,細密な注意を払って,栽培,飼育が行われなければならない。日本では国公立の研究機関が中心となって,原原種圃(原原種農場)および種畜牧場が設けられ,それぞれ作物・家畜品種の原原種および種畜,種禽(しゆきん)が維持,保存されている。普及品種の場合には,需要に応じて,これらを原種圃(原種農場)あるいは種畜場に移して増殖し,ここで増えたものをさらに特定な農家に委託して増殖し,これが一般農家に頒布され,その生産物が市場に出回ることが多い。一方,個々の品種は貴重な遺伝子の貯蔵庫,すなわち遺伝子源と考えられる。いったん,品種が消滅してしまうと,特定の遺伝子がその品種にだけ含まれている可能性のある場合,その遺伝子は永久に地球上から消えてしまうおそれがある。失われた遺伝子が現時点で評価されなくても,将来に至って大きな損失をしたと気づく場合もありうる。そこで遺伝子源保存の立場から,在来品種も含めて,国家的・世界的規模で品種の保存が図られている。日本でも10万近い品種の種子を保存する種子貯蔵施設があり,別に原原種の果樹や,種畜,種禽の維持に努力が払われている。
→種
執筆者:武田 元吉
新しい植物品種を登録し,その品種の育成者に,その品種の繁殖材料(種子など)の生産販売を独占的に実施する権利を与えることなどにより,その品種に関する育成者の権利ないし利益の保護を図る制度を,一般に品種保護制度といっている。
1900年のメンデルの遺伝法則の再発見を契機とする近代遺伝学の成立以降,先進国においてそれに基づく科学的な植物品種の育成が推進されるようになってきたが,その当時,植物品種を含む生物自体の発明は世界各国とも実質的に特許の対象外としており,これにかわるような実効のある品種保護制度もなかったため,欧米各国の育種家や有識者の間に,特許権あるいはそれに類する育成者の権利を認める品種保護制度の実現を求める声がしだいに高まっていった。しかし,第2次世界大戦前ではアメリカが,30年に無性繁殖植物を保護対象とした植物特許法を制定して,育成者に特許権を与える形での品種保護制度を部分的に発足させたのを除いて,明りょうな形でそのような制度を確立した国はなかった。ところが第2次大戦後,欧州の育種家たちの熱心な活動の結果,ついに61年に〈植物新品種の保護に関する国際条約(UPOV条約)〉が成立し,前記のような育成者に特許権的な権利を認める品種保護制度が国際化する展望が開けた。同条約は,国際的な統一原則に基づいて育成者の権利を保護することを目的とし,所定の育成者の権利を特別の保護の制度(植物の品種保護のために特別に創設された制度)または特許を与えることにより認めることを同盟国に義務づけている。そして同条約にのっとった品種保護制度を設け同条約に加盟する国(大多数は特別の保護の制度を採用した)が,当初ドイツ,フランス,イギリスなどのEC諸国を中心にヨーロッパでしだいに増加し,その後アメリカなども加盟して,98年1月末現在その加盟国は35ヵ国に達している。
日本においても,78年に同条約にのっとった品種保護制度に関する規定を盛り込んだ種苗法(農産種苗法(1947公布)を改正したもの)を制定し,82年に同条約に加盟した。この種苗法は,品種の育成の振興などを目的とし,農林水産植物の品種の育成者は登録要件を満たす品種について品種登録を受けることができ,第三者はこの品種登録を受けた者の許諾がなければ,その品種の種苗を有償で譲渡することができないこととするなど,実質的に前記UPOV条約で定めた育成者の権利を認める内容となっている(種苗法はさらに98年全面改正)。なお,日本では新しい植物品種に関しても,それが特許法上の発明として成立し,特許要件を満たしている限り,特許による保護を受けることも可能であるが,実際には,少なくとも従来の伝統的な育種技術(例えば人工交配)による植物品種のレベルでは,特許されるようなものが出現するのはきわめてまれと考えられている。
なお,動物に関しても,植物に関する品種保護制度と同様の制度が考えられるが,現実には日本も含め国際的に,植物の品種保護制度に相当するような制度をとっている国は見あたらない。したがって,動物の品種保護を求めるとすれば,それは既存の特許制度によらざるをえないこととなる。そして,この場合,動植物品種に関する発明を特許法上の不特許事由としているヨーロッパ諸国ではその保護は受けられないが,動物品種に関する発明を特許法上の不特許事由としていない日本やアメリカにおいては,特許制度による保護を受ける道が開かれていると考えられる。
執筆者:平木 祐輔
第2次大戦後,日本を含め先進諸国の農業生産性は大いに向上した。その原因は,第1には工業技術の助けを借りた,すなわち大量の化学肥料と農薬の投入,積極的な機械化によるものであり,これらはいわば石油多消費型農業ともいうべきものである。第2に,栽培植物の品種改良がある。ハイブリッド種ともいわれるF1雑種による栽培植物の支配が進み,とくにアメリカでのトウモロコシ生産の飛躍的な伸びは前述のようにこうした品種改良によるところが大きいといわれる。欧米においては,巨大な種子企業が種子を通じて農業生産の根幹をにぎる状態が生まれつつあり,日本でも野菜などの新品種についてはF1雑種の割合が急速に高まっている。種子(種苗)の重要性に着目する石油会社など大企業が,種子企業を買収・合併する例が世界的にふえており,新品種開発競争の激しさとも相まって〈種子戦争〉と呼ばれるほどである。
なお,UPOVをめぐっても先進国と発展途上国との間に不協和音が聞こえる。UPOV加盟国はすべて西側先進国ばかりである。南の発展途上国は,自国から収集された種子が西側巨大企業によって品種改良され,UPOV条約によって保護されて再び自国の農業支配の武器として活用されることを恐れているからである。
執筆者:友永 剛太郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
栽培植物や飼養動物には、分類学上では同一の種に属するが、形態的にあるいは生理・生態的に異なった多くの個体群ないしは系統が知られている。これらそれぞれが品種とよばれるものである。人間は長年にわたって動植物を、利用のため、あるいは愛玩(あいがん)用として、栽培・飼育してきたが、その間に生じた変異を分離して固定させ、さらに目的に応じて新しい系統をつくりだした。品種を改良して新しい品種を育成することは育種とよばれ、純系分離、系統分離、交雑、倍数体や突然変異の利用生成などの方法がとられてきたが、近年は組織培養や遺伝子組換えなど操作技術の著しい発達によって、微生物など目的に沿って新しい品種ないし系統をつくりだすことが可能となってきた。異なった長所をもつ品種間の交配や、X線照射・薬品処理などによる新たな突然変異・倍数体の生成により、研究が進められてきた食料その他の増産や改良などは、人類の繁栄や生活向上に大きな貢献をしてきたが、今後もさらに発展が期待されよう。
一般の動植物にみられる地域的な変異、地方型のことを品種とよぶことがあり、また同一地域内の生態ないし生理的な系統を品種ということもあるが、適当ではない。
[中根猛彦]
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