デジタル大辞泉 「喪」の意味・読み・例文・類語
そう【喪】[漢字項目]
〈ソウ〉
1 死者を弔う儀礼。「
2 なくす。失う。「喪失/阻喪」
〈も〉「喪主・喪中・喪服/服喪」
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
人の死ののち遺族や生者が,一定期間にわたって置かれる日常の生活とは異なった儀礼的禁忌の状態をいう。これは人類社会においてほとんど普遍的な現象である。この状態が発生する基盤には,死が人間の情動に対して極度の衝撃力を振るうという明白な事実があるが,文化における制度としての喪を生成させる心理,および喪のなかに表現されている意味内容は複合的である。そこには少なくとも生者が死者に対してもつ愛着と罪責の念,それと相反するように存在する恐れ,さらに死の穢(けがれ)とその隔離という要素が認められる。喪は広い意味での葬制の一部をなす。葬制の他の部分が死体の処理にせよ霊魂への供犠にせよ,死者という対象にむかって能動的になされる行為であるのに対して,喪の行為(服喪)は生者が,一方では死という事実を,そして他方では自分たちと死者との関係をみずからの生活のなかに象徴的に体現する行為だということができよう。さらに喪は社会的な制度である。したがって服喪の具体的な実践形態は,一つの文化のなかでも死者の生前の社会的地位により異なり,また死者との社会的遠近関係によって個々の生者は異なった形式と期間の喪に服すのが常である。
喪中の禁忌(タブー)には死者の出た地縁的共同体(集落)全体にかかわるものもあるが,一般的には死者の配偶者およびごく近い血縁者がより厳格な禁忌を遵守する義務を負うものとされている。喪の慣習のなかで最も頻繁にみられることは,こうした強い禁忌を守る者を喪服や喪章などによってしるしづけ,彼らを社会の他の者から隔離することである。たとえば,西ボルネオに住むイバン族のあいだでは,人の死後ほぼ1ヵ月間集落の全員が歌舞音曲をつつしみ,装飾品を身に付けることをやめるが,この禁忌が解除されたあとも,死者の配偶者(男女とも)は身を美しく装ってはならず,また異性と親しく話してはならない。配偶者の禁忌が解かれるのは死者との婚姻を象徴的に解消する儀式を終えてからである。ボルネオ北部のブラワン族の場合には配偶者は10日のあいだ死体の横に作ったむしろの囲いの中で暮らさなければならない。トリンギット・インディアンでは,夫の死後その未亡人は12日間口をきくことも,どのような仕事をすることも禁じられる。彼女は喪中を表す紐を腰に巻きつけることによって他の人と区別される。こうした遺族の隔離は,ある意味で彼らが死者と一体視され,したがって死の穢を帯びているからだと説明されることもあるが,ここに死者に対する罪責の感情,それにもとづく死者の慰撫という意図,あるいは死者への恐れ(喪を実行しないと死者が復讐する)をみることも同様に可能である。つまり遺族はみずからを生者の世界から離し死者の側に置くことによって,哀惜を表し,また死者がもちうる害力を防ぐのである。日本の古来の習俗の場合,近親者の隔離は死者との同一視という側面をより際だたせているが,その基本的なモティーフは上記諸民族におけるのと同じである。すなわち一般に喪屋と呼ばれる小屋を墓の近くに建て,ここに親族がしばらくのあいだこもって生活する(たとえば丹波の船井・氷上郡では尊属が死んだときには49日間)という習俗がそれであるが,この場合でも穢というよりは死者への哀惜の念が中心にあるとみるべきであろう。
トリンギット・インディアンの例にみられたように,配偶者の服す喪はふつう男よりも女に対してことさら厳しいものとなる傾向がある。さらに一般的には,喪そのものが女性によって担われる傾向があるといってもよい。このはなはだしい例はニューギニアのいくつかの民族に見られる過度の哀悼傷身の習俗である。これは夫,父,兄弟,息子のような男性親族の死のたびに女性が指を切り落としていくというものであるが,こうした喪の行為における男女間の不均衡は,人類社会の男女関係にみられる支配の構造を反映している。喪が社会の支配構造に密接に関与することは,身分制度のもとにおける主従関係に最も明白に現れる。喪の極限形態としての殉死がこの端的な例であるが,王や首長の死に対して家臣団やときには国民全体が喪に服したり,あるいは共同体を閉鎖したりすることもこれとの関連で理解できよう。支配者の死は,彼に人格的に従属する者にとって,また彼にその統合の象徴をみる社会にとって重大な危機である。この危機を儀礼的形式のなかに顕在化することが喪であるが,まさしくこうして顕在化することによって一定期間ののち喪を終え(喪明け),危機から脱却するという形式が成立しうるのである。服喪義務における男女間の不均衡も女性が男子親族の死によって,逆の場合よりもさらに深刻な危機に立たされるということにほかならない。死によって生じる危機とその克服の形式化こそが喪であるといってもよい。
執筆者:内堀 基光
喪は古くは死と遺体のことをいい,ひいては死の発生にともなう〈つつしみ〉をも指すようになった。斉明天皇の死には〈皇太子,天皇の喪(みも)を奉徙(いまつ)りて〉と見える(《日本書紀》)ので,喪とは遺体をさしていることがわかる。死を公表することを発喪といい,発喪されると葬送儀礼としての殯(もがり)がはじまる。発喪を〈もがり〉とよませるのはこの理由による。死が公表されると近親者は素服を着し家で静かに忌籠る。なかでも死者ととくに関係の深かった者は〈殯宮〉に入る。このために官人たちも休暇が与えられた。居喪の礼とも書かれ外界といっさいの関係を絶つのである。《魏志倭人伝》にも喪人は〈頭を梳(くしけず)らず,蟣蝨(きしつ)を去らず,衣服垢汚,肉を食わず,婦人を近づけず〉という慎みをしたとある。平安時代になると,墳側に廬を設けて3年の喪に服する者も出た。
執筆者:田中 久夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
死の穢(けが)れに対して、忌み慎んでいる状態をいう。一家のうちに死人が出ると、その家族ばかりでなく、血族も、その家の火で煮炊きした物を食べた人も、みな穢れの影響を受けるものと考えられてきた。そのため一定期間は仕事を休み、神前や晴れがましい場所に出ず、静かに家にこもる。喪中の家では神棚(かみだな)を閉め、家の入口に簾(すだれ)を裏返しにつるし、白紙に「忌中」と書いて斜めにつける。山形、新潟、長野、群馬、神奈川の諸県では、門牌(もんぺい)などと称する忌中標識を入口の外に立てる。古くは埋葬地の近くに喪屋(もや)を設け、親族はここにこもって忌服(きぶく)の生活を送ったようである。喪には忌(き)と服とがある。かなり混同し混乱しているが、忌は厳重な慎みの状態で、服は忌に比べていくらか軽い状態である。たとえば死後7日間は忌の状態が続き、そのあと四十九日まで服の状態を守り、それが終わると日常の生活に戻る。喪中の間にいっさいの仕事を禁じたのでは、生活に差し支えるので、忌(い)みの観念の薄れるにしたがって期間は短縮され、49日目の行事を7日目にしたり、葬式直後に済ませることも多くなった。
宮城県本吉(もとよし)郡では、7日目が忌中ばらいであるが、早く海に出て漁をしなければならぬ者だけは、魚を食べて精進(しょうじん)上げをすれば、忌が明けたと同じ状態になれるとしている。不幸のときになまぐさ物を食べないのは、仏教の教義に基づくものであろうが、喪の晴れる時期には積極的になまぐさ物を食べ、平常の状態に戻ろうとする。精進ばらい、精進上げ、精進落ち、精進落としなどという。忌中の間は神社に参らないから、忌明けのおりに進んで神参りをする所もあり、屋内の神棚に張った白紙を取り除くのも忌明けのときである。軽いほうの忌み(服)が明けると、完全に死の穢れから遠ざかったはずであるが、しばらくは忌みが残っており、普通、新年を迎える前後まで続く。死後49日までに正月がくれば、正月行事はしないが、もっと日がたっていると、年の暮れに共同飲食をして年越しを済ませ、1年を終わったものとして、改めて普通の正月を迎える例がある。喪の観念は、死者との血縁の親疎によって、たとえば親子は100日、兄弟は49日、いとこは7日というような差異があったが、家族制度のなかで家単位にまとめて戒慎することが多くなった。現在は喪中の者は年賀状を出さず、暮れのうちに年賀欠礼の挨拶(あいさつ)状を出したり、正月明けに寒中見舞い状を出す。
[井之口章次]
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…これ以外は申請による。養老令によれば,農繁期の休暇である〈田假〉は5月,8月に各15日,〈定省假〉は文武の長上官でその父母が畿外に居住しているものが父母を見舞うために3年に1回,30日,〈喪假〉は父母の喪にあうものは解任され,夫,祖父母,養父母,外祖父母は30日,曾祖父母,妻,兄弟姉妹,嫡子等は20日,高祖父母,嫡孫等は10日,孫,従父兄弟姉妹等は3日,受業の師の喪には3日,〈改葬假〉は20日~1日,遠方にあって喪を聞いたときは喪假の半分を給する(挙哀假)。国司が任終わって帰京するときの〈装束假〉は20~40日が給された。…
… 現在の人類社会において葬制の意味するところは単なる死体の処理を超えてはるかに広い。それは,たとえば人間は霊魂をもつという観念のなかに端的に見られるように,個人の人格は肉体の存在とは別の文化的表象をもっており,それによって死および死者にかかわる儀礼は死の直後だけでなく,服喪の順守や年忌・法事の執行に現れているように長期間にわたって継続される可能性があるからである。さらに重要なことは,このようにして表象された死者は社会的な存在であるということである。…
※「喪」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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