嗄声(読み)サセイ(英語表記)Hoarseness

デジタル大辞泉 「嗄声」の意味・読み・例文・類語

さ‐せい【×嗄声】

声帯に病変があるため音声が異常な状態しわがれ声・かすれ声などの状態。かせい。

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精選版 日本国語大辞典 「嗄声」の意味・読み・例文・類語

しわがれ‐ごえ しはがれごゑ【嗄声】

〘名〙 しわがれた声。かすれたような声。しゃがれごえ。しわごえ。
平家(13C前)六「嗄声」
※異本紫明抄(1252‐67)三「しはかれこゑのくうつきて」

しゃがれ‐ごえ ‥ごゑ【嗄声】

※俳諧・七番日記‐文化九年(1812)一〇月(一茶全集所収)「しゃかれ声の千鳥仲間はづされな」

かれ‐ごえ ‥ごゑ【嗄声】

〘名〙 かすれていてつやのない声。しわがれた声。かれっこえ。
発心集(1216頃か)六「其中に年たけたるかれ声にて法華経をつづり読むいとめづらかに覚えて」

さ‐せい【嗄声】

〘名〙 声帯に病変があるため異常が生じた声。しわがれ声、かすれ声などの状態。

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六訂版 家庭医学大全科 「嗄声」の解説

嗄声
させい
Hoarseness
(のどの病気)

どんな症状か

 声は、肺から流れ出る「呼気(こき)」によって声帯が振動することで生じる複合音です。よい声は、声帯が良好な状態にあって、かつ発声時の声門下よりの圧力・呼気の流量・声門抵抗が一定の状況にある時につくられます。

 嗄声、すなわち「かすれ声」は、音色に関する総合的な声の異常であり、声帯の振動が乱れた状態ともいえます。実際に嗄声を来す疾患としては、声帯の器質的病変(図8)や運動麻痺主体ですが、機能的な障害も考えられます。

検査と診断

 音声障害の病態としては、音声の①高さ、②大きさ、③長さ、④音色の4つの要素での障害が考えられます。したがって嗄声の評価は単一の方法では不十分であり、さまざまな尺度で評価する必要があります。

 声の聴覚的印象からその程度を評価する方法や、音声の最大持続時間の測定は、簡便にできる方法です。音響分析や発声機能検査など、特殊な装置を用いて行う検査もあります。

 器質的病変を確認するためには、喉頭ファイバースコープや喉頭硬性側視鏡(こうせいそくしきょう)による内視鏡検査が必要になります。また、喉頭ストロボスコピーによって、声帯振動がある程度把握できます。

治療の方法

①保存的治療

●薬物治療

 嗄声の多くは、急性喉頭炎慢性喉頭炎などが原因になります。消炎薬や局所吸入治療(ネブライザー療法、吸入ステロイド薬)による消炎が主体になります。浮腫が高度な場合には、ステロイド薬の全身投与が行われることもあります。

●音声訓練

 機能性発声障害などでは、音声訓練による発声法の指導で改善する場合もあります。過緊張発声ではリラクゼーション法、声門閉鎖不全型の発声ではプッシング法などを用います。

●声の衛生

 声の安静、適切な発声方法、禁煙、生活習慣の改善などは、基本的な指導項目で、「声の衛生」と呼ばれます。とくに声の酷使による音声障害に対しては、声の衛生を十分守ることが重要になります。

②外科的治療

 手術方法としては、局所麻酔による内視鏡手術、全身麻酔による顕微鏡下喉頭直達鏡(ちょくたつきょう)手術(喉頭微細手術)(図9)、外切開により喉頭の軟骨を操作する喉頭枠組み手術などが行われますが、ここでは疾患別に治療法を紹介します。

●良性腫瘤性(しゅりゅうせい)病変

 声帯ポリープ図8のa)、声帯結節(同、b)、ポリープ様声帯(同、c)、声帯嚢胞(のうほう)などは、切除により声帯の振動状態を改善することが可能です。通常は喉頭微細手術で切除しますが、症例によっては外来通院による局所麻酔下内視鏡手術が可能です。

●腫瘍性病変

 喉頭乳頭腫(にゅうとうしゅ)図8のd)、喉頭白板症(はくばんしょう)(同、e)、喉頭がん(同、f)などの腫瘍性病変は、早期発見・診断および治療が必要になります。

 喉頭所見のみでは判別が困難な場合も多く、病理診断のために、内視鏡下もしくは喉頭微細手術での組織生検が行われます。

 治療においては、音声障害の改善よりも病変の完全除去が優先になります。

●声帯麻痺(反回神経麻痺

 喉頭の内部の筋群を支配する反回神経(はんかいしんけい)麻痺(まひ)は、声帯の可動性障害と声帯の萎縮(いしゅく)により、音声障害を引き起こします。回復不能例に対しては、声帯の位置を補正するために喉頭枠組み手術である甲状軟骨形成術1型や披裂(ひれつ)軟骨内転術が、萎縮に対しては声帯内注入術などが行われます。

●けいれん性発声障害

 ボツリヌス毒素を注入して喉頭内筋を麻痺させる方法が効果的ですが、その効果は3~6カ月と一時的で、繰り返しの治療が必要になります。また、日本では薬剤の入手が難しく、限られた施設でしか治療を受けられないという問題もあります。

 最近では、喉頭微細手術による内筋切除や甲状軟骨形成術なども試みられています。

●萎縮性病変

 萎縮した声帯に対しては声帯内注入術(充填術(じゅうてんじゅつ))が行われます。充填材料としてはコラーゲン、自家(自分の)脂肪、自家筋膜などが用いられています。

 反回神経麻痺による声帯筋の萎縮には有効ですが、声帯溝症(せいたいみぞしょう)などのように振動部にあたる粘膜下組織の欠損した病態では、音声の改善が難しくなります。

田山 二朗


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改訂新版 世界大百科事典 「嗄声」の意味・わかりやすい解説

嗄声 (させい)
hoarseness

俗に〈かれ声〉〈しわがれ声〉などといわれるが,医学の領域では,こういった声の音質の異常を一般に嗄声という。喉頭とくに声帯を中心とする病気では,最も高頻度にみられる症状の一つである。声も音の一種であるから,音としての三つの性質,つまり高さ,強さ,音色の3要素をもち,病気に応じて,この各要素について障害が起こると考えられている。しかし嗄声の評価は必ずしも容易ではなく,その性質,程度の判定には聴覚心理的要素を伴う。通常,判定の尺度として,粗糙(そぞう)性,気息性,無力性および努力性の4要素と全体としての程度の計5種類について,0から3までの4段階で評価される。これらの聴覚現象からの分類と音響物理量との対応は,まだ完全に明らかにされたとはいえず今後の課題である。なお有響性の声の成分がまったくない気流雑音のみの場合は失声aphoniaといい,嗄声とは区別される。嗄声の改善には原則として原疾患の治療が行われる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「嗄声」の意味・わかりやすい解説

嗄声
させい
hoarseness

しわがれ声のこと。正常な発声では,左右の声帯が正中で閉じ,規則的な振動をするが,なんらかの理由でこれが阻害されると,音色の異常が生じ嗄声が起る。聴覚上の印象によって無声,気息性 (乾いた固い,かさかさ声) ,粗ぞう性 (大きい,湿ったがらがら声) ,無力性 (弱い,力のない声) などに区別される。原因としては声帯ポリープ,声帯結節,喉頭炎,喉頭癌,反回神経麻痺などがあげられる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「嗄声」の意味・わかりやすい解説

嗄声
させい

かれ声

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世界大百科事典(旧版)内の嗄声の言及

【延髄】より

…また障害が広く,両側にわたるようなときは生命が危険となる。(1)脳神経の障害 迷走神経の障害では,嚥下困難(食物をうまく飲み込むことができない),嗄声(させい)(しわがれ声),失声(声がかすれて出ない)などが起こる。舌咽神経の障害では,唾液の分泌の減少,味覚障害,咽頭の感覚障害が起こる。…

【喉頭】より


[喉頭の病気]
 喉頭疾患の一般的症状としては,まず音声障害が挙げられよう。音質の障害を一般に嗄声(させい)というが,喉頭炎や声帯ポリープ,声帯結節などのほかに喉頭癌でも初発症状としてこれがあらわれることが多い。また気道狭窄を伴うと,呼吸困難や喘鳴(ぜんめい),咳などの症状を呈することがあるが,これは喉頭腫瘍のほかに,喉頭炎,両側声帯正中位固定症などでみられる。…

【喉頭癌】より

…これらは,以下に述べるように,症状に違いがあるばかりでなく,リンパ節転移の発生の早さなどにも関係があり,治療法決定のうえで欠くべからざる所見であるとともに予後判定にも重要な根拠を与える。一般に声門癌(声帯癌ともいう)での初発症状は嗄声(させい)である。長期にわたり治りにくいしわがれ声が頑固に続くときは癌を疑うことがたいせつである。…

【声】より


[声の病気]
 ある人の声が,その人の年齢や性などからみて不自然であるような性質をもっていれば,声の異常があると判断する。一般に声の異常としては,声がかれるとか,声がかすれるとか表現される状態が多く,これは声の音色の異常が起こっているもので,このような異常な声を総称して嗄声(させい)とよんでいる。 嗄声は,声帯に病的な変化があって声帯の振動が不規則になったり,声帯が十分に閉じないで呼気がもれてしまうようなときに起こる。…

【声帯】より

…これらの病気では,上述した声帯の諸機能が種々の程度で欠落ないし損傷されるので診断の助けとなる。すなわち喉頭癌のうちでも声帯癌では,ごく初期のうちから嗄声(させい)が出現して早期発見の手がかりを与える。声帯炎や声帯結節などでは,息もれの強い嗄声となることが多い。…

※「嗄声」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」