廻文詩,廻文体ともいう。中国詩の一体。初めから順に読んでも詩になり,末から逆に読んでもまた別の詩になる形にしたてたものを普通にはいう。斉(479-502)の王融の〈春遊廻文詩〉(五言八句),〈後園作廻文詩〉(五言四句)が有名。《本朝文粋》巻一には橘在列の〈廻文詩〉(五言八句)が載せられているが,日本人も時にこうした漢詩を工夫するところがあった。なお日本では,回文歌や回文狂歌も工夫したが,この場合は初めから読んでも逆から読んでも同じ歌になるという形のもので,回文詩の形とは異なる。回文詩は,中国前秦(351-394)の竇滔(とうとう)の妻蘇蕙(そけい)(字は若蘭)の〈璇璣図詩(せんきずのし)〉(織錦回文詩)に始まるとされる。蘇蕙は,愛人をつれて任地に赴いた夫に,29字×29字の文字を錦に織りこんで贈ったが,その織錦の文字を縦横それぞれ自由に読んでゆくと,三言・四言・五言・六言・七言の詩3752首が判読できたという。蘇蕙はこの織錦回文によって夫の愛をとりもどすのであるが,唐の則天武后のとき,それが発見されて武后はその文字を記録させ,今日に残した。《全漢三国晋南北朝詩》の中の全晋詩巻七に収録されている。ただしかし,この回文詩はあまりにも複雑な構成を持つので,継承する人もなく,回文詩は結局,斉の王融の作に見られるような作品になった(王融の回文詩は,2首とも別人の作だとする伝承もある)。
→回文
執筆者:鈴木 修次
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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