国税と地方税を合わせた租税負担と、医療保険や年金などの社会保障負担を合わせた公的負担の国民所得に対する比率。個人だけでなく、企業による負担も含む。2020年度の国民負担率は日本が47・9%で、20年のフランスの69・9%、ドイツの54・0%より低かった。一方、英国は46・0%、米国は32・3%で、日本が上回った。一般に、国民負担率が高ければ社会保障が手厚い「高福祉・高負担」、低ければ自己責任を基本とする「低福祉・低負担」とされる。
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租税負担額および社会保障負担額の合計の国民所得に対する比率をいう。歳出や社会保障給付の財源として、国民が強制的に徴収される経済負担の大きさを表し、政府活動の相対的規模を表す指標である。国税と地方税をあわせた租税収入の国民所得に対する比率を租税負担率といい、年金や医療保険にかかわる支払い保険料(社会保障負担)の国民所得に対する比率を社会保障負担率という。
日本の国民負担率は、1970年代後半以降しだいに上昇してきたが、1990年度(平成2)の38.4%をピークに、以後ほぼ横ばいに推移しており、欧米先進国のなかでもけっして高くない水準にあるといえた。ところが、2013年度(平成25)には40%を超え、2021年度(令和3)(見通し)の日本の国民負担率は44.3%であり、この数値は、低いといわれているアメリカの2018年の国民負担率31.8%を10ポイント以上も上回っており、2018年におけるイギリスの47.8%とほぼ同水準であり、ドイツの54.9%、スウェーデンの58.8%、フランスの68.3%に比べると低い水準である。租税負担率については、日本は先進主要国のなかでも低い水準である。2021年度(見通し)の日本の租税負担率は25.4%であるが、2018年でアメリカが23.4%、イギリスが37.0%、ドイツが32.1%、スウェーデンが53.5%、フランスが42.7%、である。しかしながら、日本は21世紀には諸外国に例をみないスピードで急速に高齢化が進み、これに伴い、今後の国民負担率の上昇は避けがたいと見込まれている。実際、社会保障負担率は景気の動向等に左右されずこれまで一貫して増加してきており、1970年度において5.4%にすぎなかったものが、1990年度には10.6%となり、2021年度(見込み)では18.9%となっている。
ところで、財政赤字の存在は、現在の世代が受益に見合った負担をしていないことを意味しており、その負担は将来の世代が負うことになるが、従来の国民負担率の指標には財政赤字による将来世代の負担が含まれていない。国民負担率に国と地方の財政赤字の対国民所得比を加えた負担率は潜在的な国民負担率とよばれる。2021年度(見通し)の日本の潜在的な国民負担率は、国民負担率44.3%に財政赤字分12.2%を加えて56.5%に達する。
国民負担率の上昇は、貯蓄率の減少等を通じ日本の潜在的な成長率を低下させ、経済活力を失わせる可能性がある。そこで、日本が今後も活力ある経済社会を維持していくためには、将来における国民負担率の上昇を極力抑制していくことが必要であるとされる。第三次臨時行政改革推進審議会(第三次行革審)の最終答申(1993年10月)においては、「国民負担の水準について、高齢化のピーク時(2020年)において50%以下、21世紀初頭の時点においては40%台なかばをめどにその上昇を抑制する」との考え方を示している。また、2003年6月に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」において、「例えば潜在的国民負担率で見て、その目途を50%程度としつつ、政府の規模の上昇を抑制する」としている。このように、潜在的な国民負担率を50%以下に抑制することが日本の財政運営上の目標とされている。
しかしながら、将来の負担となる財政赤字を、現在の国民負担に加えることがはたして適切であるのかという、概念上の問題や、50%という数値自体の根拠が明確ではないなど、具体的な数値目標の設定に疑問が提示されている。国民負担率をできるだけ抑制することは必要であるとしても、負担の水準目標は給付などの受益の大きさとあわせて設定されるべきである。また、世代間の不公平を拡大しないためにも、税負担の引上げなどにより財政赤字を縮小していく必要がある。
[羽田 亨 2022年6月22日]
(神野直彦 東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 / 2008年)
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