国際紛争(読み)こくさいふんそう(英語表記)international conflict(dispute)

精選版 日本国語大辞典 「国際紛争」の意味・読み・例文・類語

こくさい‐ふんそう ‥フンサウ【国際紛争】

〘名〙 国家間に生じるあらそい。国際的な規模でのあらそい。
※国際紛争平和的処理条約(明治三三年)(1900)前文「全力を竭して国際紛争を平和的に処理することを幇助するに決し」

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デジタル大辞泉 「国際紛争」の意味・読み・例文・類語

こくさい‐ふんそう〔‐フンサウ〕【国際紛争】

国家間に生じる紛争。

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改訂新版 世界大百科事典 「国際紛争」の意味・わかりやすい解説

国際紛争 (こくさいふんそう)
international conflict(dispute)

国際紛争とは,国際社会において,国家をはじめとするさまざまな行為主体の間で,価値・利益が非両立的関係にある状態をいう。典型的には国家と国家の間の紛争を意味するが,ある国と他国の個人,国内団体(例えばゲリラ集団),少数民族,宗教集団,多国籍企業や私的国際組織などのいわゆる脱国家的行為主体(〈トランスナショナリズム〉の項参照)との間の紛争も,関係国政府の関与で国家間の紛争となる。国際紛争は軍事的手段の行使を伴う国際戦争や内戦から,口頭やマス・メディアなどによる論争までを含む多種多様な現象である。

国際紛争の形態は,その紛争の当事者の種類から,大国間,大国・小国間,小国間,国家・脱国家主体間,国家集団間,脱国家主体間,支配民族・少数民族間などに分類できる。より具体的にみると,(1)第2次大戦前の英独間や戦後の米ソ間の紛争のように,国際的地位や力関係の対称的な主体間での対称的紛争形態,(2)アメリカ・ベトナム間やソ連・アフガニスタン間の紛争のように,地位や力関係の非対称的な主体間での非対称的紛争形態,(3)インド・パキスタン間やイラン・イラク戦争のように,発展途上諸国間での対称的紛争形態,(4)イラクと北部地域のクルド民族や,東ティモールでのインドネシアと東ティモール独立戦線など,ある地域の支配民族と少数民族の場合のように,特定地域の非対称的主体間の非対称的紛争形態に区別される。冷戦構造崩壊後の1990年代では,(3)と(4)の紛争形態が著しく増大している。

 また,とりわけ戦争(紛争)の基盤や争点の内容から,ホルスティK.J.Holstiが試みているように,次のように区別することも可能である。(1)領土をめぐる紛争,(2)国民国家形成をめぐる紛争,(3)イデオロギーをめぐる紛争,(4)経済的利益をめぐる紛争,(5)エスニシティや宗教をめぐる紛争,(6)略奪や生存をめぐる紛争,(7)自立その他の問題をめぐる紛争。1945年から89年までの間,273回の戦争が発生しているが,そのうちの52回が(1),42回が(2),21回が(3)だった。

 戦争は紛争のすべてではなく,一つの極端な紛争形態を意味するが,3500年にわたる歴史のうち戦争がなかったのはただの270年しかないという統計が示すように,その性質上,戦争は国際紛争の中心的形態である。したがって国際紛争とは,複数の国家間で暴力行使の可能性をもつ価値・利益の非両立的な状態といえる。すなわちほとんどの紛争は,さまざまな問題領域における非両立的関係から生じ,武力行使に至ることが多い。1982年,イギリスアルゼンチンフォークランド諸島に関する紛争も,その主権をめぐる非両立的関係から生じ,この紛争が武力衝突にまで発展したものといえよう。

 これまでの紛争理論では,なぜ戦争が生じるのかの原因と,それをどのようにコントロール,解決するかの方法が中心的課題であった。その場合,一般に三つの分析レベル,すなわち人間,国家,国際体系(国際社会)のもとで国際紛争の原因の分析が試みられている。紛争(戦争)の原因を,(1)人間の本性(権力欲,攻撃性,性悪)や,とりわけ政策決定者のパーソナリティ,価値観,イメージなどの特異性(非合理性,攻撃性,支配欲,名誉欲)に,(2)国家の政治体制,経済・社会的条件(権威主義的支配体制,工業化の発展過程,人口膨張,帝国主義,文化形態,国内紛争の国際化)に,(3)国家がその中で行動するシステムとしての国際環境(権力階層,軍備拡大競争,勢力均衡,権力移行,地位不一致,抑止)に求める理論に分類できる。おのおののレベルの理論は対立関係にあるのではなく,相互補完関係にあるので,それらを総合的に把握することが紛争(戦争)の原因および解決方法の理解を容易にしよう。

ところで,当事者間の具体的な紛争形態のみが国際紛争のすべてであろうか。現在の第三世界諸国の貧困,病気,栄養不良,不平等,不正義,飢饉,政治的不安定,伝統的価値の破壊,民族的対立,地域紛争などはどのような原因で生じたのであろうか。それらは,A国とB国とのイデオロギー的論争,経済的対立,武力的闘争などのように,その紛争の主体者が明確で,その主体者間の具体的な相互作用から起こったものではない。むしろそれらは,紛争の主体者が不明確で,国際社会構造のゆがみが生み出したものといえよう。すなわち,紛争の主要な原因を北の先進工業諸国と南の発展途上諸国との間に存在する経済的格差,不平等を生み出す構造(南北非対称的紛争構造)に求めることができ,冷戦構造(東西対称的紛争構造)崩壊後の今日ますますこの紛争形態が増大している。

 東西対称的紛争構造が支配的であったときには,それが南北非対称的紛争構造と連動しており,前者の紛争が後者の紛争を生み出したり抑制したりとコントロールしてきた。冷戦終結によって,第三世界に蓄積されてきた潜在的紛争を抑える重石がとれ,各地で紛争が顕在化した。第三世界各地域の独自の背景をもつ,民族,人種,宗教,国益をめぐる地域紛争が多発することになる。その象徴的紛争がイラクによるクウェートへの軍事進攻に始まる湾岸危機・戦争(湾岸戦争)にほかならない。アフリカで,ソマリア紛争,リベリア内戦ルワンダ内戦,スーダン南部問題,ブルンジ内戦,ナイジェリア内紛,西サハラ紛争アンゴラ内戦,アルジェリアの原理主義運動など,アジアで,東ティモール独立運動,ミンダナオ紛争,南シナ海領有問題,スリランカ民族問題,カシミール紛争,チベット独立運動などの民族・宗教紛争が存在している。また,冷戦構造の崩壊過程で,ソ連でも民族問題が活発化し,1991年12月の連邦解体を招き,現在のロシア連邦もチェチェン紛争を抱えている。旧ユーゴスラビアの解体後にも,92年に独立したボスニア・ヘルツェゴビナでセルビア人,クロアチア人,ムスリム人の3勢力間で紛争が展開された。こうした地域・民族紛争は,難民や国内避難民を大量に生み出すため,周辺国との緊張を高めることにもなる。

 国際紛争が戦争に発展しやすい以上,紛争自体(戦争をも含めて)を放置しておけないため,紛争を平和的に解決することが必要となる。多くの国のそうした認識の高まりのなかで,19世紀末から平和的解決方法が著しく発展してきた。1899年のハーグ平和会議において〈国際紛争平和的処理条約〉(1907修正)が定立されて以来,国際紛争の具体的かつ体系的な平和処理を志向する国際機関国際裁判所(国際連盟常設国際司法裁判所国際連合国際司法裁判所)などの主体が存在するに至った。しかしながら国際紛争および戦争を平和的に解決するため,またそれを未然に防止するためには,その管理ではなくその変革,つまり紛争当事者間の価値・利益の両立性の状態を積極的に作り出していくことが何よりも重要となろう。具体的な武力紛争や民族紛争をも含めて多くの国際紛争は,基本的には国際社会に内在する構造的な矛盾に根ざしていることを理解すべきである。
世界政治 →戦争 →南北問題 →平和研究
執筆者:

国際紛争を放置すれば国家間の武力闘争にまで発展するおそれもある。そのために,国際紛争を未然に防止する方策ばかりでなく,紛争発生後の処理方法,とくに紛争の平和的処理の必要性が重視される。国際紛争の処理方法は,従来,平和的処理方法と強制的処理方法とに区別されてきた。復仇(ふつきゆう)や戦争などの強制的処理方法は,自助(自力救済)の合法性が一般的に認められていた第1次大戦前の国際法を背景に認められたものである。しかし今日では,国際紛争を解決するために武力を行使することは禁止されているので,その処理方法を平和的処理方法と強制的処理方法とに区別し,両者を同一の次元でとらえることは不適当であり,平和的処理方法のみを考慮するのが適当である。平和的処理については,1899年の第1回ハーグ平和会議で採択され,1907年の第2回ハーグ平和会議で修正された国際紛争平和的処理条約,第1次大戦後の国際連盟規約(1919),国際紛争平和的処理一般議定書(1928),第2次大戦後の国際連合憲章(1945)などが,その重要性を強調し,方法を規定してきた。かくして今日では国際紛争の平和的処理は国際法上の基本原則として確立している。

 国際紛争の平和的処理方法には,交渉,周旋居中調停(仲介),国際審査,国際調停,国際機構による紛争処理,国際裁判,がある。交渉は当事者間による紛争処理方法で,最も原初的な形態であるが,交渉以外の方法はすべて第三者の介入によって紛争を処理するものである。このうち,国際裁判は第三者の拘束力をもつ決定(判決)による紛争処理方法であるのに対し,他はいずれも当事者間の和解を促進するために行われる。国際審査以下の方法は20世紀になって発達し,介入する第三者が国際機関である点に特徴がある。もっとも,国際機関の性格は一様でない。国際審査と国際調停は個人の資格で選ばれた委員で構成され,非政治的性格をもつが,国連のような国際機構による紛争処理の場合には国家代表で構成され,その政治的影響力によって紛争が処理される。

 国際紛争はその性質・内容の点で,法律的紛争と非法律的紛争(政治的紛争)とに区別される。一般的には,前者は裁判に適するが,後者は裁判には適さない。法律的紛争と非法律的紛争との区別は,理論上のみでなく実定法上も存在するが,条約の規定形式は必ずしも一様でない。その区別については,一般論として次の3様の考え方がある。第1は,紛争の政治的重要性によって区別し,法律的紛争とは政治的に重要性のない紛争だとするもの。第2は,紛争に関して規定した国際法規の有無によって区別し,法律的紛争はそれに関する国際法規が存在する紛争だとするもの。第3は,当事国双方が国際法に基づいて争うかどうかに区別の基準をおき,当事国が互いに国際法を基礎にして争う紛争が法律的紛争で,当事国の一方が国際法以外の根拠に基づいて争う場合が非法律的紛争だとするもの。このうち,第3の考え方が最も実際に合致している。もっとも,理論的には非法律的紛争について裁判がまったく不可能だとはいえない。このように,非法律的紛争が一般に裁判から除外されることの基本的な原因は,国際裁判が国内裁判のような強制的管轄をもたず,当事国の同意なしには行われえないしくみになっていることや,さらに国際社会では,社会変動に応じて法を合理的に改変しうる立法機関が欠如していることに起因する。したがって,国際紛争は国家間の潜在的な権力闘争が具体的な利害対立を伴って現実化したものであるが,法と現実との間にずれが大きい場合には,紛争は法の枠をこえ,法に基づく処理を困難なものとする。このような事情によって,国際紛争の実効的な処理を図るためには,とくに裁判から除外される非法律的紛争の処理に際しては,裁判以外の方法がなおその存在意義と重要な役割とを有しているのである。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「国際紛争」の意味・わかりやすい解説

国際紛争
こくさいふんそう
international conflicts

国際法上、国際紛争とは国際法主体の間の紛争である。典型的なものは国と国の間の紛争であるが、国際機関と加盟国の間にも国際紛争が発生しうる。これに対して、個人は国際法主体でないから個人と外国の間の紛争は国際紛争ではない。もっともその個人の本国が外交的に介入することによって、国対国の紛争、すなわち国際紛争に転化しうる。

 かつて常設国際司法裁判所が与えた定義によると、紛争とは「二主体間における法律上または事実上の論点に関する不一致、法律的見解または利害の衝突」である。しかし、単なる利害の衝突や見解の不一致では十分でない。当事者が相手方の主張に反対し、自己の主張を通す身構えを示しているのでなければならない。紛争に際して、当事者はそれぞれの主張・態度表明を正当化する理由を付するのが通例である。この理由が実定国際法のなかに求められるとき、それは法律的理由であり、当事者が互いに法律的理由を援用して争う紛争を「法律的紛争」という。これに対して、実定法とは別の規準、たとえば正義・衡平(こうへい)の原則、合目的性の考慮に訴えるとき、それは非法律的(政治的)理由であり、当事者が互いにこの種の理由を援用して争う紛争は「非法律的(政治的)紛争」である。法律的紛争は実定国際法を前提とし、その枠内で争われるのに対して、政治的紛争の対象は、実定法の変更・改定にあり、それは国際的現状の維持・打破をめぐって重大な局面に発展することがある。法律的紛争は、実定国際法に基づく解決のほか、当事者が一致して望むならば、超実定法的規準に基づく解決が可能である(衡平および善に基づく裁判)。しかし政治的紛争の場合には、実定法の変更が問題である以上、論理的にも実際的にも、実定法に基づいて解決することはできない。

 当事者の一方が法律的理由、他方が政治的理由に訴えて争うとき、紛争は、法律的・政治的側面が混合する形で提起される。このような紛争において実際的重要性をもつのは政治的側面である。法律的側面に関して解決が与えられても、政治的側面は未解決のままに残ることになる。しかし、だからといってこの種の紛争が政治的紛争として、その法律的側面に関する審判も排除されるとは限らない。たとえば、テヘランのアメリカ外交・領事職員に関する事件において、イラン政府は、国際司法裁判所に寄せた書簡のなかで、裁判所は、アメリカ政府が付託した事件、すなわち、テヘランのアメリカ大使館の人質の問題に限定された事件を審理することはできないとし、この問題は25年以上に及ぶアメリカのイラン国内事項への継続的介入を包含する全般的問題と切り離すことはできないと主張した。同裁判所は1980年5月の判決において、主権国間の紛争はしばしば関係国間のいっそう広い、長年の政治的紛争の一要素をなすにすぎないが、裁判所に付託された紛争が政治的紛争の一側面をなすにすぎないから、当事者のためにそれらの間の法律的係争問題を解決することを拒否すべきだということにならない、という見解を表明した。

[皆川 洸]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「国際紛争」の意味・わかりやすい解説

国際紛争
こくさいふんそう
international conflict

希少な資源,力,あるいは位置などをめぐって対立する当事国が相互に相いれない要求を掲げ,一方の目標が他方の犠牲においてのみ達成されるような状況で,戦争よりも包括的な概念である。国家間の対立関係を表わす最も広い概念としての国際緊張に対して,より具体的なものといえる。国家間の紛争や緊張は,かつては悪しき国家や偽善的外交と直結され,国際秩序からの逸脱とみなされてきたが,第2次世界大戦の経験といわゆる冷戦による国際緊張の常態化によって,国際紛争は,最も制度化の遅れた原始的な政治体系である国際体系の基本的な欠陥の反映として認識され,科学的な研究の対象とされるにいたった。 1947年以来のユネスコの社会的緊張の研究プロジェクトの活動や,ミシガン大学の『ジャーナル・オブ・コンフリクト・レゾリューション』誌の発刊などがその先駆的な成果である。国際紛争の最も一般的な原因は,他国の支配する領土や資源などに対する要求や,一国の国内紛争に対する他国の干渉などである。このような紛争は国際平和にとって重大な脅威であるため,平和的に解決することが望まれ,国際司法裁判所など法的解決制度の発展をみることになった。

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世界大百科事典(旧版)内の国際紛争の言及

【国際連合】より

…平和と福祉の両面で国連システムがどのような機能を果たしているかを以下にみよう。
[平和と安全の維持]
 (1)国際紛争の平和的解決 連盟では,平和を支える3本の柱として,紛争の平和的解決,安全保障,軍備縮小があげられた。同様に国連もこれらの方式を基本的に踏襲している。…

※「国際紛争」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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