精選版 日本国語大辞典 「報・酬」の意味・読み・例文・類語
むく・いる【報・酬】
(「むく(向)」と同語源)
[1] 〘自ア上一(ヤ上一)〙 むく・ゆ 〘自ヤ上二〙 相手の動作に応じる。応酬する。こたえる。また、反論する。
※大慈恩寺三蔵法師伝永久四年点(1116)二「此の支那の僧は(ムクイ)対ふるに易からず」
[2] 〘他ア上一(ヤ上一)〙 むく・ゆ 〘他ヤ上二〙
※来田本拾遺愚草(1216‐33頃)上「いまはまた関の藤浪たえずとも国に報いむためをこそおもへ」
② 他から受けた害に対して仕返しをする。報復する。むくう。
※文明本節用集(室町中)「犯而不挍 ヲカセドモシカモムクイズ〔泰伯篇〕」
※尋常小学読本(1887)〈文部省〉六「若し苦めらるることあれば、之を記憶して、往々其怨みを報ゆることあるものなり」
むく・う むくふ【報・酬】
[1] 〘他ハ四〙 (上二段動詞「むくゆ(報)」が、中世頃から変化したもの)
① =むくいる(報)(二)①
※平家(13C前)七「あやしの鳥けだ物も、恩を報じ徳をむくふ心は候なり」
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)四「人に施しゃ悪うは報(ムクハ)ぬはい」
② =むくいる(報)(二)②
※宇治拾遺(1221頃)三「かかる物も、たちまちにあだをむくふなり」
③ 提供してくれた労力に対して報酬を支払う。
※方丈記(1212)「車の力をむくふほかには、さらに他の用途(ようとう)いらず」
[2] 〘自ハ四〙 むくいとなって現われる。
※続珍太郎日記(1921)〈佐々木邦〉五「是は其(それ)が今覿面(てきめん)に報(ムク)って来たのでなく」
むくい【報・酬】
〘名〙 (動詞「むくいる(報)」の連用形の名詞化)
※書紀(720)斉明七年五月(北野本訓)「使人等が怨、上天(あめ)の神に徹(のほ)り〈略〉時の人称(い)ひて曰く、大倭の天の報(ムクヒ)の近きかなと」
※古今(905‐914)雑体・一〇四一「われを思ふ人をおもはぬむくひにやわがおもふ人の我をおもはぬ〈よみ人しらず〉」
※宇津保(970‐999頃)あて宮「なにのむくひにかありけむ、拙き身に、おほけなき心つきて」
③ (━する) お礼をすること。謝礼。報酬。
※狐の裁判(1884)〈井上勤訳〉二「御身の親切忘れはせで、必らず報酬(ムクヒ)をなすべきに」
④ (━する) 仕返しをすること。復讐をすること。
※土左(935頃)承平五年一月二一日「かいぞくむくいせんといふなることをおもふうへに」
むく・ゆ【報・酬】
〘自他ヤ上二〙 ⇒むくいる(報)
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