テレビやラジオの電波に、新たに別の信号を重畳して送る放送をいう。有限な資源である電波の有効な利用方式を図るものである。多重という考え方は、電話の伝送技術において以前から採用されていたが、放送の分野で実施されたのはFMステレオ放送以後のことである。カラーテレビ放送も白黒テレビと同一周波数帯域内にカラー信号という別の情報を追加しているので、一種の多重放送といえる。しかし、FMステレオ放送もカラーテレビ放送も、一般に多重放送とはよんでいない。
多重放送においては次の点が重要である。
(1)両立性compatibilityがあること。多重した信号により現行放送が妨害されてはならない。
(2)多重信号の質が十分良好であること。多重信号は伝送路において受ける雑音が極力少ないことが望ましい。さらに、現行放送の信号による干渉や妨害も少ない必要がある。
(3)多重放送用受信設備は安価であること。放送は一般の受信者が利用することが前提なので、多重放送普及のためには、対応する受信機は可能な限り安価に実現できるものでなければならない。
多重放送には音声多重放送と文字多重放送がある。音声多重放送は、テレビやラジオの音声に、別のあるいは付加的な音声を多重化して放送するものである。具体例としてテレビにおける2か国語放送、ステレオ放送、5.1サラウンド放送、FMラジオにおけるステレオ放送などがある。文字多重放送は、テレビやラジオの電波に、付加的な文字情報を多重化して放送するものである。具体例としてテレビ放送における台詞(せりふ)の文字化表示(難聴者に親切)、FMラジオ放送におけるVICS(ビックス)情報の多重化(カーナビゲーション画面の道路交通情報通信システム)などがある。「音声多重放送」「文字多重放送」についての詳細は、それぞれの項目を参照されたい。
[吉川昭吉郎]
従来の放送電波に,多重伝送技術を応用して,一つ以上の信号を付加して伝送し,新たなサービスあるいはその拡張をねらう放送をいう。広い意味では,白黒テレビジョンに色信号を付加して伝送する現在のカラーテレビジョン放送も,FM放送におけるステレオ放送も多重放送の一種であるが,近年ではテレビジョン多重放送がその代表例である。放送法では,テレビジョン多重放送はテレビジョン放送の電波に重畳して音声その他の音響,文字,図形その他の映像,または信号を送る放送と定義し,その中には音声や音響を送るテレビ音声多重放送と文字や図形を送るテレビ文字多重放送(文字放送)とがある。
多重放送の技術手段としては周波数分割多重と時分割多重の二つがある。前者は従来の放送電波の周波数の隙間に新たな信号を挿入して伝送するものであり,テレビ音声多重はこの方法によっている。これによって,主音声のほかにもう一つの音声を送信することができ,ステレオ放送,あるいは2ヵ国語放送などがサービスされている。さらにこの他に,ファクシミリ信号を多重して伝送する方式も開発されているが,最近この部分に各種のデータを伝送する方式も提案されている。
時分割多重は放送電波の時間的隙間に新たな信号を挿入して伝送するもので,文字放送はこの方法によっている。テレビ放送では画面を毎秒60コマ(フィールド)の割合で次々に送り出しており,これらコマの間の時間的隙間(垂直帰線消去期間)に文字放送信号を挿入して伝送する。受信側では,この信号を抜き出して記憶装置に蓄積しこれを再生することによって文字や図形をテレビに表示する。サービス内容としては,ニュースのほか,気象,災害,交通,株式などの情報,番組のお知らせなどおよそ100種類もの画面が放送され,受信者は画面の番号を指定して,これらの画面の中から希望のものを,随意に表示することができる。また,テレビ番組と関連のある内容をテレビ画面の上に重ねて表示する,いわゆる字幕番組も放送されている。この字幕番組は受信者がその字幕を表示するかしないか選択できるため,聴覚障害者へのサービスに適している。日本では全国のおもな放送局でこの文字放送がひろく実施されている。この文字放送とは別に,テレビの垂直帰線消去期間の他の部分を利用したテレビデータ多重放送も最近開始された。これによって,電子新聞や,各種データの伝送が試みられている。イギリス,アメリカをはじめ,諸外国でもこの文字放送に類した放送はひろく行われている。
最近では,FM放送において,ステレオ放送のための多重に加えて,さらにもう一つの信号を周波数分割多重して伝送する,いわゆるFM多重放送が実施されている。これにより自動車ラジオや携帯ラジオの表示パネルを利用して,交通情報など文字や図形による各種の情報,あるいは衛星測位システム(GPS)のための測位誤差情報などを伝送している。
執筆者:村崎 圭助
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…一般大衆が直接受信するラジオ,テレビなどのような無線通信事業の運営や番組を規律する法律。第2次大戦後占領下の1950年6月1日施行。同日施行された電波法,電波監理委員会設置法(1952年7月31日廃止)とともに電波三法と称された。放送に関する初の特別法。それまでは,放送は無線電信法(1915年公布)の〈無線電信及ビ無線電話ハ政府之ヲ管掌ス〉(1条)の原則のもとで,放送用私設無線電話規則(逓信省令)による逓信大臣の強力な監督下に置かれていた。…
※「多重放送」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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