内科学 第10版 「大動脈縮窄症」の解説
大動脈縮窄症(その他の先天性心疾患)
定義・頻度
広義には腹部を含む大動脈の,狭義には大動脈弓部〜下行大動脈移行部に起こる限局性狭窄をいう.先天性心疾患の5~8%に発生する.男性に多い.動脈管以外の合併奇形がない単純型と,心室中隔欠損その他を合併する複合型がある.ここでは単純型について述べる.大動脈弓部の連続性が失われた場合には大動脈弓離断とよぶ.
発症機序
動脈管組織が大動脈に迷入すること,および胎生期に卵円孔が小さいなどの理由から左室拍出が減少し大動脈弓部から峡部が低形成となることによって生じると考えられる.Turner症候群には高頻度に合併する.
血行動態
狭窄の程度が軽ければ上行〜下行大動脈に軽度の圧較差を生じ左室圧負荷が発生するだけであるが,狭窄が強ければ下半身への血行は動脈管依存性となる,したがって肺高血圧を伴う.この場合動脈管が退縮閉鎖すれば無尿ショック状態に陥る.
管理・治療
高度狭窄の場合にはPGE1製剤により動脈管を開存させ,可及的速やかに手術介入もしくはカテーテル治療を行う.動脈管依存性でなくても圧較差が20 mmHg以上であれば待機的に狭窄解除の対象となる.形態的に十分に修復されている場合でも運動の際に近位大動脈に高血圧が生じることが多くまた再狭窄もまれではない.脳大動脈瘤の合併が多いといわれている.[山田 修]
■文献
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大動脈縮窄症(非チアノーゼ性心疾患)
単純な大動脈縮窄症は全CHDの約4%で,本症の約70%はほかの重症心奇形を合併し大動脈縮窄複合(complex CoA)とよばれ,新生児期CHDの約10%を占める.診断された時点で修復術が施行される.以前はsubclavian flap法が施行されたため,左血圧が触診できない.最近は拡大大動脈弓吻合法が施行される.吻合部狭窄が遺残する場合は上下肢の血圧差を認める.残存狭窄の有無にかかわらず高血圧の頻度は加齢とともに増加し,成人の25~50%が高血圧を合併し,遅い修復年齢は高血圧発症と関連する.安静時に正常血圧であっても運動時高血圧を示す患者も多い.
臨床症状・検査成績 【⇨5-8-9)】.
治療
高血圧を有する場合は降圧療法が必要である.β遮断薬やアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)は有効と考えられるが,遺残縮窄がないことを確認する必要がある.有意な大動脈縮窄がある場合は,術後であればバルーンやステントを用いたカテーテル治療の適用となる.[大内秀雄]
■文献
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出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報