デジタル大辞泉 「大気」の意味・読み・例文・類語
たい‐き【大気】
[形動][文][ナリ]心が広く、こせこせしないさま。
「―な人で…
[補説]作品名別項。→大気
[類語]空気・
翻訳|atmosphere
地球を取り巻いて存在している気体の層。大気の広がっている空間を大気圏または気圏とよぶ。大気圏の外縁で、大気が希薄となり、宇宙空間に移り変わってゆく部分を外圏とよぶ。大気を構成している気体分子は、地球の重力によってとらえられているが、外圏では気体分子の一部が重力を振り切って宇宙空間に向けて逃げ出している。大気圏の厚さはおよそ500キロメートルである。
[松野太郎]
地球大気の起源に関してはまだ不明な点が多い。地球形成の初期には現在の1000倍くらい厚い大気があったと思われるが、それが星間ガスが集まってできたものが主なのか、微惑星の衝突時の熱によって岩石から放出されたものが多いのか明らかでない。この原始大気が変化して現在の大気になったと思われているが、一方原始大気が吹き払われた後に、火山活動によって現在の大気がつくられたという考えもまったく否定はされず、今後の研究に待つ部分が多い。
[松野太郎]
大気の質量は、地球表面1平方センチメートル当り約1キログラムである。地表の大気は、この重さを支えるだけの圧力をもっている。その大きさを1気圧とよび、およそ1000ヘクトパスカル(=ミリバール)である。どの高さでも、大気の圧力はそれより上にある大気の重さを支えている。逆にみれば、大気が圧力をもっているのに宇宙空間に向かって膨張して逃げ出さないのは、それより上の大気の重さで押さえ付けられているからである。このつり合いのため、大気の圧力と密度は、高さとともに指数関数的に減少する。その割合は、およそ15キロメートルごとに10分の1である。したがって、高度30キロメートルでは気圧は地表の100分の1で10ヘクトパスカルである。つまり、大気の99%は30キロメートル以下にある。さらに、高度100キロメートル以上の大気の量は、全量の100万分の1である。地表での大気の密度は、1立方メートル当り約1キログラムである。
[松野太郎]
大気を構成する気体、すなわち空気は、各種の成分からなる混合気体である。主要成分のうち、水蒸気を除いたもの(乾燥空気とよぶ)の組成比は、高さ100キロメートルあたりまで一定している。ただし、オゾンは、高度25キロメートルを中心としたオゾン層の中に大部分が存在しており、また、メタン、一酸化二窒素は、高度30キロメートル以上では急速に減少する。
都市域などでは、工場からの排煙や、自動車、家庭からの排気のため、自然には存在しない成分が付け加わったり、自然に存在する成分も濃度が著しく変化したりしている。このような状態を大気汚染とよぶ。大気汚染によって変化した組成も、大気自体のもつ浄化作用や、周囲の空気との混合によって自然の状態に戻る。しかし、石油や石炭など化石燃料の消費によって生じた二酸化炭素は、大気中にとどまり、本来の濃度よりしだいに大きくなっている。
大気は、基本的には気体からなるが、ごくわずかながら、液体または固体の微粒子を含んでいる。海水のしぶき、地表から風で舞い上がった微粒子、燃焼による煙、火山噴煙などを起源とするもので、一般にエーロゾル(浮遊微粒子、煙霧質。エアロゾルともいう)とよばれる。高度10キロメートル以下に多いが、成層圏中の高度20キロメートル付近には、火山噴煙から生じた硫酸液滴が層状をなして存在している。
大気を構成するおもな成分は、比重が異なるにもかかわらず、重さの違いによって上下に分離することなく、高度90キロメートル以下では同一の割合を保っている。これは、大気の運動によってつねにかき混ぜられているからである。高度100キロメートル以上の超高層大気の組成は異なり、高さに応じて著しく変化する。太陽からの紫外線の作用によって光化学変化をしたり、比重の差によって分離したりするためである。
[松野太郎]
大気の性質は、同一高度では場所によって大きな相違はないが、高度が変わると著しく異なり、一方、ある高度範囲では共通の性質をもつ。そこで、大気を高度別にいくつかの層に分け、名前をつけて区別している。どのような性質に着目して区別するかによって異なる区分ができるが、もっとも基本的なものは温度による区分である。この区分では、地上から高度11キロメートルまでを対流圏、そこから高度48キロメートルまでを成層圏、次に高度80キロメートルまでを中間圏、それより上を熱圏とよぶ。これら各圏の境界は、下から順に、対流圏界面(11キロメートル)、成層圏界面(48キロメートル)、中間圏界面(80キロメートル)とよばれる。ただし、対流圏界面は単に圏界面ということも多い。
温度分布に基づく大気層の区分名と並列して用いられている重要な呼称は、電離圏と磁気圏である。電離圏は、地上70キロメートルから500キロメートルぐらいまでの範囲である。この高度の大気は、太陽からの紫外線やX線の作用により一部分が電離し、電気を帯びた粒子(荷電粒子)である電子とイオンになっている。電子密度の極大に着目して、高度90キロメートル以下のD領域、90~140キロメートルに広がるE領域、140~400キロメートルに広がるF領域に分けられる。以前は、これら三つの高度に電離気体の層が分かれて存在すると考えられ、それぞれD層、E層、F層とよばれた。慣用として、この呼び方もまだ使われている。
磁気圏は、荷電粒子に対する地球磁場の効果が著しくなる領域の名で、高度数百キロメートルから始まり、外側は大気の外の数万キロメートルあたりまで広がっている。荷電粒子は、磁力線にまとわりつく性質があるので、重力の作用のみ考えれば地球から脱出してしまう高度でも、地球磁場の作用によってとらえられているのである。つまり、磁気圏は、荷電粒子に対する地球磁場の勢力範囲をさすもので、したがって、大気圏とは別個の存在である。磁気圏の底部が大気圏と重なり、そこでは荷電粒子が中性の大気から電離によってつくられ、また、荷電粒子と中性気体分子が衝突することによって両圏は相互に影響を及ぼし合っている。
観測手段の不十分な1940年代ごろまでは大気を漠然と上下に分けて、下層大気、高層大気、超高層大気という呼び方も行われてきた。このうち、前二者は歴史的なもので、山地を含む地表面近くの直接観測のできる範囲(対流圏下部)と、ラジオゾンデによる探査によって初めてつかむことのできる高層といった意味の区分である。高層の上限はかならずしも明瞭(めいりょう)でない。超高層大気は、天気や気象に関係のない電離圏以上をさす。1970年代以降、成層圏と中間圏をあわせ、さらに熱圏底部までを含めた高度10キロメートルから100キロメートルの範囲を中層大気とよぶようになった。この領域は、化学組成、エネルギー収支、大気運動の特色に関して共通する点が多く、ひとつながりとなっていることが明らかとなったからである。
以上の諸区分とは別に、地表から高度1~2キロメートルの範囲を大気境界層という。この高度範囲の大気の温度、運動は地表の影響を強く受け、著しい地域性を示す。これに対して、大気境界層より上は自由大気とよばれ、地表の不均一性はあまり影響を及ぼさない。
[松野太郎]
地表近くの気象要素(気圧、気温、風向、風速など)は、地上に設置した機器で測定できる。大気境界層内の諸現象の観測には、観測塔、係留気球、音波レーダー、電波を用いて風を測るウィンドプロファイラなどを用いる。高層気象の観測には、ラジオゾンデが用いられる。これは気球に気圧計、温度計、湿度計をつけたものを飛揚させて上昇しながら測定を行い、観測値を電波で送ってくる。電波が到来する方向を指向性のよいパラボラアンテナで追ったり、気球自身に搭載された機器によって地上や衛星からの電波を受信することにより気球の位置を求め、それによって気球を流している上層風の向きと速さもわかる。このような高層気象観測は、定常観測として1日2回、世界中数百か所で行われている。ラジオゾンデの到達高度は普通20~30キロメートルである。気球でも研究目的のために飛揚させる大型のものは約50キロメートルの高度まで観測可能である。
気球の届かない高度の直接観測には、ロケット、人工衛星が用いられる。1970年(昭和45)岩手県三陸町(現、大船渡(おおふなと)市)に開設された気象庁気象ロケット観測所では毎週1回ロケットを打ち上げ、温度計をつけたパラシュートを落下させて高度60キロメートルまでの気象観測を行っていた。しかし、その後の気象衛星など観測体制の充実に伴い、2001年(平成13)3月打ち上げを終了した。これ以上の高度のロケット観測は、研究を目的としたものである。300キロメートルぐらいまでの高度の密度、温度、組成、電子密度などの観測を行う。人工衛星は、高度200キロメートル以上の電離圏の観測に用いられる。
高層大気の観測には、直接観測ではない遠隔観測(リモート・センシング)が重要である。地上からレーザー光を発射し、散乱して戻ってくる光を測って高層大気の密度やエーロゾル、オゾンの濃度などを知ることができる。波長を変えながら電波を発射し、反射して戻ってくるまでの時間と、反射しなくなる波長を測って、電離圏の高度と電子密度を知ることができる。この装置はアイオノゾンデとよばれ、これによって定常的に電離圏を監視している。強力なレーダーで高度200キロメートルぐらいまでの風や電子温度の観測を行うこともできる。さらに1990年代以降は日本を含む世界の宇宙機関によって地球観測衛星が打ち上げられ、大気中のオゾン、水蒸気、微量ガス、エーロゾルなどの観測や大気温度の鉛直分布の観測が行われている。
[松野太郎]
大気はつねに動いており、ひとかたまりの空気をとってみると、大気圏内のいろいろな場所を動き回っている。体内の血液が決まった経路で循環するように、空気塊も統計的平均としては決まった形の動きをしている。これを大気の大循環(大気環流)という。大気の大循環の駆動源は太陽から得る日射エネルギーと、大気自身が熱放射によって失うエネルギーの量の場所による違いである。すなわち、対流圏においては、低緯度地域では日射による加熱が熱放射を上回り、逆に高緯度地域では熱放射による冷却が著しい。このため、赤道と極との間に気温の差が生じ、それによる浮力が原因となって大規模な運動がおこる。運動によって気温の違う空気が交換され、エネルギーのバランスが保たれる。
大気の大循環は、本質的には熱対流であり、部屋にストーブを置いたとき、規則的な対流運動が生じて熱を部屋全体に運ぶのと同じことである。しかし、大気の運動は地球自転の影響を受けているので、大循環の形態は単純ではなくなる。中高緯度地域の上空にみられる強い西風(ジェット気流)も大循環の現れであり、また、温帯低気圧も大循環の一部として生じているものである。
大気の大循環の結果、地球上の空気は広く動き回る。かりに中緯度地域の地表付近を出発した空気に着目すると、1か月余りで極から赤道までの範囲に広がり、上下方向にも対流圏全体に広がる。赤道を越えて出発地と逆の半球を含めた全地球に広がるには約1年を要する。
[松野太郎]
地球大気の各高度領域での主要な性質、現象は次のとおりである。
(1)対流圏 大気全量の80%が存在し、雲、雨、雷などの天気現象がおこっているところである。気温は高さとともに減少し、その割合は平均的には1キロメートルにつき6℃強である。このような気温分布は、水蒸気を含んだ大気としては不安定な状態であり、上下の空気が入れ替わるような対流運動が盛んにおこっている。そのために対流圏とよばれている。対流圏の上端である対流圏界面は、高緯度地方では低く、8~10キロメートルであるが、熱帯地方では高く、17キロメートルに達する。晴れた日に見られる積雲や、夏によく見られる積乱雲(入道雲)は対流の現れである。
対流圏には、熱帯低気圧、温帯低気圧、高気圧のような大規模な大気の擾乱(じょうらん)が存在する。熱帯低気圧は積乱雲の巨大集団であり、対流が集中しておこっているものである。温帯低気圧は、極と赤道との間の温度差が原因となって発生し、暖気を高緯度向きに、寒気を赤道向きに輸送してエネルギーのバランスをとっている。
雲や雨、雪などの天気現象は、空気中の水蒸気が凝結して生じるものであるが、凝結の原因となる上昇気流は大規模な擾乱に伴っておこる。したがって天気の分布は大規模擾乱と一定の関係をもっており、たとえば温帯低気圧の東側には層状の雲が広がり、中心に近い部分では雨が降る。
(2)成層圏 下部成層圏(20キロメートル以下)では気温はほぼ一定であるが、中・上部では気温は高さとともに上昇し、高度48キロメートルの成層圏界面では約0℃となる。このような温度分布のため、対流圏とは対照的に大気の層序はきわめて安定であり、上下の空気を混合する対流運動はまったく生じない。観測が十分でなかった時代には、成層圏は静穏であり、したがって空気を構成する各気体は重さの差によって分離し、酸素層、窒素層というようになっていると想像され、成層圏と名づけられた。実際にはこのような分離はおきていないが、上下の混合が弱いため、オゾン層、エーロゾル層のように、鉛直方向に薄いが水平面内には大きく広がった層状構造がみられる。オゾン層は、高さ20~25キロメートルを中心としたオゾン(O3)の豊富な領域である。日射中の紫外線によって酸素分子が解離され、生じた酸素原子が酸素分子と結合してオゾンがつくられる。生成されたオゾンがやや波長の長い紫外線を強く吸収するので、上部成層圏は高温になる。エーロゾル層は、微小な硫酸液滴(エーロゾル)が漂っている層で、高度20キロメートル付近に形成される。火山噴煙に由来する亜硫酸ガスからいくつかの反応を経てつくられるもので、きわめて希薄であるが全地球を覆っている。
成層圏には、温帯低気圧、熱帯低気圧のような現象は存在しない。成層圏の大循環は、赤道付近で対流圏から上昇してきた空気が両極に向かって流れ、高緯度地方や極地方で沈降して対流圏に戻る、という単純な形をしている。この大循環によって成層圏の空気が対流圏の空気とそっくり入れ替わるのに1~2年を要する。
(3)中間圏 高度48キロメートルから80キロメートルの中間圏では、気温は高さとともに減少する。その割合は1キロメートルにつき4℃ほどで、対流圏よりも緩やかであり、対流が発生することはない。しかしながら、中間圏では下方から伝わってきた内部重力波が砕け、強い乱流を生み出している。このため、成層圏より上下の混合が強く、とくに上部では著しい。流星の飛跡やロケットから放出された噴煙の形が短時間で複雑に変形することから、激しい乱流の存在が知られてきた。
上部中間圏から下部熱圏(高度70~100キロメートル)の気温は、季節と逆の変化をする。すなわち夏に低温で冬に高温となる。この原因は、下層大気に起源をもつ内部重力波の引きずり効果が、この領域の大気の大循環に影響を与え、夏半球に上昇流、冬半球に下降流をつくるためであると考えられている。
高緯度地方では、夏季日没後に中間圏界面近くに白く輝く雲(夜光雲)が現れることがある。極度の低温(零下120℃)のため、微量の水蒸気が凝結して生じたものである。
(4)熱圏 高度90キロメートルまでの領域は、中間圏の延長と考えたほうがよい。90キロメートルを超えると、温度は高さとともに急激に上昇し、160キロメートルで約1000K(ケルビン)に達する。この高度での大気の密度は、地表の10億分の1にすぎず、超高真空の状態にあるから、温度が1000Kといっても触れたものが熱くなるというわけではない。温度は、分子やイオンの運動速度の目安である。
高度100キロメートルより上では、大気の組成の重さによる分離が現れてくる。アルゴンのように重い成分は他の成分に比べて急速に減少する。また、紫外線による光解離作用によって、酸素分子は2個の酸素原子に解離されるので、原子酸素の割合が高さとともに増え、高度150キロメートルあたりで酸素分子と同程度を占める。
熱圏では、密度が低く分子の衝突が少ないので、分子運動による拡散が顕著になる。熱も運動量も拡散によって上下に混合し、拡散平衡に近づこうとする。大気の乱流は、高度110キロメートルより上では、ほとんど存在しない。この高度を乱流圏界面とよぶこともある。熱圏は同時に電離圏でもあり、また、外圏とあわせて超高層大気とよばれる。
[松野太郎]
太陽系の各惑星やその衛星のあるものは、地球と同じように気体の層で取り巻かれている。これを惑星(衛星)の大気という。代表的な惑星の大気は次のとおりである。
金星は、地球に比べて100倍も厚い大気をもっている。すなわち、金星表面での圧力は90気圧である。温度も高く、表面で750Kに達する。組成は、二酸化炭素が約90%を占める。温度は高さとともに直線的に減少し、高度60キロメートルで約240Kとなる。このあたりに硫酸の微細な液滴からなる雲が存在し、太陽光を強く反射している。
火星の大気の量は、地球大気のおよそ100分の1である。表面での気圧は約7ヘクトパスカルであり、組成は金星と同じく大部分が二酸化炭素である。気温は、場所、時刻、季節による変化が著しいが、表面で200~240K程度である。激しい風によって砂塵(さじん)が吹き上げられ、大気は混濁している。わずかながら含まれている水蒸気が凝結して雲をつくることがある。主成分である二酸化炭素も、冬季の極域では部分的に昇華(固化)する。
[松野太郎]
『小倉義光著『大気の科学』(1968・NHKブックス)』▽『気象ハンドブック編集委員会編『気象ハンドブック』(1979・朝倉書店)』▽『松野太郎・島崎達夫著『大気科学講座3 成層圏と中間圏の大気』(1981・東京大学出版会)』▽『木田秀次著『気象学のプロムナード16 高層の大気』(1983・東京堂出版)』▽『J・C・カイマル著、光田寧・山田道夫訳『微細気象学――大気境界層の構造と観測』(1993・技報堂)』▽『多賀光彦監修、田中俊逸・竹内浩士著『地球の大気と環境』(1997・三共出版)』▽『小林武昌著『地球大気の構造』(1998・丸善)』▽『有田正光編・著、岡本博司・小池俊雄ほか著『大気圏の環境』(2000・東京電気大学出版局)』▽『近藤純正著『地表面に近い大気の科学――理解と応用』(2000・東京大学出版会)』▽『武内延夫編『地球大気の分光リモートセンシング』(2001・学会出版センター)』▽『秋元肇・河村公隆ほか編『対流圏大気と化学と地球環境』(2002・学会出版センター)』▽『マイケル・アラビー著、小葉竹由美訳『地球気象探検――写真で見る大気の惑星』(2002・福音館書店)』▽『ダニエル・ジェイコブ著、近藤豊訳『大気化学入門』(2002・東京大学出版会)』▽『酒井治孝著『地球学入門――惑星地球と大気・海洋のシステム』(2003・東海大学出版会)』▽『澤田龍吉著『超高層空間の謎』(講談社ブルーバックス)』
地球や木星など太陽系の惑星を囲んでいる気体を大気あるいは惑星大気という。その中で,地球の重力によって地球とともに回転している気体を地球大気といい,一般には大気といえば地球大気を指す。また,地球表面に近い部分の気体を一般に空気という。われわれをとりまく大気は高さ500km近くまで広がり,窒素,酸素,オゾン,二酸化炭素,水蒸気などが含まれている。大気は太陽からくる生物に有害な紫外線や高エネルギーの粒子をさえぎる一方,地球から宇宙へ熱が逃げてゆくのを防ぐ。また,大気は水蒸気を含んで,地球上に雨を降らせるので,生物が住むのに快適な環境をつくっている。
太陽系の惑星のうち水星と冥王星を除く七つの惑星で大気の存在が確認されている。太陽系には地球のように質量の小さな地球型惑星と木星のような巨大な木星型惑星とがあって,それぞれ違った大気組成をもっている。金星は地球と大きさは似ているが,酸素はほとんどなく,二酸化炭素が96.4%,窒素が3.4%,アルゴンが残りの大半を占め,気圧は約90気圧,気温約450℃である。地球の二酸化炭素が0.03%にすぎないのに比べるとかなり多い。これは金星に海がないのに対し,地球には海があるので,二酸化炭素は海洋に吸収されているからである。この分を差し引いて考えれば金星大気は地球大気に非常によく似ている。また,金星には酸素がないので地球のようにオゾン層がなく,したがって成層圏もない。上空ほど気温は低く,100km上空では-60℃くらいである。火星の大気は二酸化炭素95.3%,窒素2.7%,アルゴン1.6%,酸素0.3%などから構成され,気温は約-100℃,気圧は約0.006気圧である。水分や二酸化炭素の大半は表面の土に吸収されている。火星は白い極冠をもつが,その中心部は水の氷であり,季節により変動する周辺部は二酸化炭素が氷結してドライアイスになったものだと考えられている。気温の高度分布は金星と似ており,高度110kmで極小値に達する。火星のオゾン量は地球のオゾン量の1%以下にすぎないが,季節変化は大きく,冬は夏の100倍に達する。木星型惑星の木星と土星の大気の主成分は約85%の水素分子と約15%のヘリウムで,他に微量成分としてメタン,アンモニアがある。表面温度は-120℃以上,上空にゆくにつれて気温は下がり,-160℃くらいの極小に達してからその上空では昇温し,熱圏では730℃をこえる。
誕生した直後の地球には大気はほとんど存在していなかったとする説と,存在していたとする説がある。後者の説では,誕生直後の地球は,原始太陽系星雲ガスの主成分である水素やヘリウムにつつまれていたが,この一次大気はいったん消失し,かなり真空に近い状態になり,その後,地球内部から二酸化炭素,水蒸気,窒素を主成分とする気体が噴出し,酸化型の二次大気が形成された。前者の説では,地球大気の形成は,地球内部から気体が噴出することから開始されたとされる(太陽系)。水蒸気は凝結して海を形成し,海は大気中の二酸化炭素を吸収したので,窒素を主成分とする大気が形成された。現在の地球大気に酸素が多いのは,陸上の植物や海洋中の植物プランクトンが光合成によって有機物をつくるときに酸素を放出するからで,地質時代の生物界の消長が酸素の生成に大きく影響したと考えられる。
光合成が始まったのは先カンブリア時代といわれる。植物の生育に有害な強い紫外線は海水に吸収されるので,水深10m以深の海面下では原始的な藻類が生息し,光合成を行って空気中に酸素を放出した。この酸素に太陽紫外線がはたらき,オゾン層が形成されて強い紫外線を吸収した結果,古生代の中ごろに動植物が陸地に上陸した。そのため,光合成はさらに活発に行われ,大気中に多量の酸素が放出されてついに現在の大気が形成された。
→地球
大気は混合気体で,表に示すようにいろいろな気体が含まれている。最も多いのは窒素で全体の約78%,ついで酸素の約21%であり,これら二つの気体だけで大気の約99%を占めている。残り1%の中にアルゴン,二酸化炭素,水蒸気,オゾン,ネオン,ヘリウム,クリプトン,キセノン,アンモニア,過酸化水素,ヨウ素などが含まれている。これらのうち,大気の構造に重要な役割を果たしているのは,容積比の小さい二酸化炭素,水蒸気,オゾンなどの気体である。
空気から水蒸気を除いた残りの気体を乾燥空気という。乾燥空気には地面からの高さによらず組成比がほとんど変わらないものと,場所や時間により変化するものとがある。組成比の変わらないのは窒素,酸素などで,それらの成分比は中間圏界面の高度約85km付近まで不変であることがロケット観測などにより確かめられている。中間圏界面をこすと光解離のためにO2が多量のOに変換され,110km付近から上空では分子拡散作用のために重い分子と軽い分子の分離が起こるので,平均分子量は上空にゆくほど減少し,地表付近とは違った組成比になる。高度1000km以上ではヘリウムと酸素が主成分,2000km以上ではヘリウムと水素が主成分である。超高層大気中では太陽紫外線やX線による光電離作用により荷電粒子が生成され,電離層を形成している。下層大気中には表に示した成分のほかに,水蒸気が凝結または昇華してできた水滴や氷晶,海水のしぶきから放出された塩化マグネシウムなどの塩類,火山灰,黄砂,流星塵,花粉,微生物などが微量であるが含まれている。
二酸化炭素の精密な測定によると,図1に示すように年々約0.4%の割合で増えている。これは人間活動によって化石燃料が消費され,そのとき大気中に放出される二酸化炭素量の約46%が大気中に蓄積されるためとみられる。20世紀初めは0.029%程度であった二酸化炭素が,1980年には約0.034%に達し,21世紀半ば以降になると0.06%に増えると予想される。このため温室効果などによる気候変化が懸念されている。
成層圏で生成されるオゾンの量と分解される量はバランスを保っており,その結果,オゾン層が保たれている。ところが超音速機(SST)のエンジンから多量に排出されるNOx,あるいは窒素肥料から生ずるNO2が成層圏に上昇して形成されるNOx,さらに冷蔵庫の冷媒や噴霧器の発射剤に用いられるクロロフルオロメタン類(CFCl3,CF2Cl2など。商標名フレオン)の作用により,オゾンの分解量が多くなりオゾン層を破壊することが懸念されている。世界気象機関(WMO)はこの問題について1982年に声明を発表し,クロロフルオロメタン類の影響で成層圏オゾンは平均量の0.5~0.9%減少しているが,このままクロロフルオロメタン類の放出がつづくと成層圏オゾンは平均量の5~10%減ると警告した。このほか硫黄酸化物,一酸化炭素など人工生成物が増加しており,大気汚染として問題となっている(図2)。
→オゾン層
大気圏は高さ500km近くまで広がっているが,高さによって性質が違うので,いくつかの層に区分できる。一般には温度構造に着目した区分と大気の組成比に着目した区分とが用いられる(図3)。前者は気温の逓減率によって区分したもので,下から対流圏,成層圏,中間圏,熱圏に分けられる。後者では大気の組成比が高度約80kmまで変わらず,大気を構成する分子がよく混合しているので,均質圏homosphereと呼ぶ。高度80kmから500km付近までは組成比が高さによって変わるので非均質圏heterosphereと呼んでいる。均質圏の中の上部成層圏や中間圏では太陽紫外線とオゾン,酸素の光化学反応などが行われるので,とくに化学圏chemosphereと呼ぶことがある。また,高度60km以上では空気分子は電離しているので電離圏ともいい,それ以下を中性圏ともいう。
(1)対流圏troposphere 温度が高度1kmにつき5~6℃下がる層で,高さは地上から十数kmに達する。太陽からの熱は大気層に吸収されることなく地球に達して地表面をあたためる。この熱は放射,渦拡散などによって下層大気をあたためるので,大気層は不安定となって対流が生ずる。上昇気流にともなって大気中の水蒸気は凝結し,雲や降水などいろいろな天気現象を生ずる。太陽から地球に入る熱量は赤道地方で多く,極地方で少ないが,低緯度地方の熱が高緯度地方に運ばれ,全体としてつりあうように大規模な大気運動が生ずる。
(2)成層圏stratosphere 高度十数km以上では温度はほとんど変わらないか,または上昇するので,対流圏と区別して成層圏と呼び,成層圏と対流圏との境界面を圏界面(対流圏界面,対流止面)tropopauseと呼ぶ。成層圏下部ではほとんど一定の温度であるが,高度20km以上では上昇に転じ,約50kmでピークに達する。ここが成層圏の上限で成層圏界面(成層止面)stratopauseという。この気温の上昇は,成層圏にオゾン層があって太陽からの紫外線を吸収するために起こる。安定な成層で水蒸気が少ないので天気現象は現れないが,冬の高緯度地方の上空20~30kmに真珠母雲が見られることがある。
(3)中間圏mesosphere 成層圏界面の上空では,温度はふたたび高度の増加につれて下がる。最も低くなるのは高度約80kmの約180Kで,ここが中間圏界面(中間止面)mesopauseである。中間圏とは成層圏界面から中間圏界面までの層で,成層圏に比べると上下の混合は激しいが,対流圏ほどではない。中間圏内では太陽紫外線と酸素や窒素との光化学反応が盛んで,流星や夜光雲が現れる。
(4)熱圏thermosphere 中間圏界面を越えて上にゆき,温度が急に上昇する範囲を熱圏という。その上限は高度300~600kmの間にある。この領域では空気の主成分である酸素や窒素が太陽の紫外線やX線を吸収して解離や電離を起こし,強い加熱を受ける。
(5)中層大気middle atmosphere 成層圏と中間圏をひとまとめにし,さらに熱圏の底部までを含めた領域の大気を中層大気という。
G.ガリレイは1592年に空気の膨張と収縮を利用した最初の温度計を作り,セルシウス度はスウェーデンの天文学者A.セルシウスが1742年に考えたものである。空気に重さのあることは17世紀の中ごろになってわかった。有名なE.トリチェリの実験で,水銀がガラス柱の高さ約76cmの所でとまるのは,空気の重さと水銀柱の重さとがつりあうためであることをトリチェリが1643年に発見した。上層大気の観測は18世紀の中ごろから始まった。凧(たこ)に温度計をつけて高層の気温を初めて測定したのは1748年イギリスのウィルソンA.Wilsonで,凧で雷を観測したのは1752年アメリカのB.フランクリンであった。ついで,気球が実用化されるとこれに乗って観測するようになった。ジェフリーズH.Jeffriesは1784年に気球に乗って気象観測し,J.グレーシャーらは1862年に約11kmの高度にまで上がって観測した。L.P.テスラン・ド・ボールは無人気球に自記気象計をつけて飛ばし,1902年に成層圏を発見した。1931年にA.ピカールは気球に乗って成層圏に達し,高度1万5781mまでの気象を観測した。1928年ころから無人気球に気温,気圧,湿度の測定器を積んで無線で地上に送信するラジオゾンデが考案された。また,気球が流されるのを電波で追跡して上空の風を観測できるようになった。1930年にモルチャノフP.Molchanoffがラジオゾンデで成層圏を観測した。さらに高層の観測は1946年に始まるロケット観測で高度100km以上にまで及んだ。1957年に人工衛星が打ち上げられて宇宙空間を直接観測できるようになり,60年には気象衛星が打ち上げられて宇宙から雲,気温,海面水温を全球的に観測できるようになった。また,1950年ころから気象レーダーによって雨雲や雷雲が観測され,75年ころからはライダーによって火山噴火に伴う成層圏エーロゾルを観測できるようになった。
地球大気には,低緯度地方で熱の過剰,高緯度地方で熱の不足が生じ,それをバランスさせようとして大規模な循環(大気大循環)が起こる。循環には南北循環と東西循環とがある。南北循環には三つの循環があって,低緯度地方で上昇し亜熱帯地方で下降する直接循環,中緯度地方で上昇し亜熱帯地方で下降する間接循環,中緯度地方で上昇し高緯度地方で下降する直接循環がある。上昇域は低圧帯で,低緯度地方の上昇域は熱帯収束帯,中緯度地方の上昇域は寒帯前線帯である。下降域は高圧帯で,亜熱帯高気圧と極高気圧とがある。これら三つの鉛直循環の間には上空に対流圏界面の境目があって,そこに強い西風のジェット気流が吹いている。ジェット気流には2種類あって,一つは北緯30°付近を吹く亜熱帯ジェット気流,もう一つは北緯60°付近を吹く寒帯前線ジェット気流である。前者は南から運動量が輸送され,収束して吹く強い風,後者は寒帯前線に沿って温度傾度が大きいために吹く強い風である。冬季,寒気が吹き出すとき,両方のジェット気流が日本の南岸に沿って合流し,100m/s以上の風が吹く。世界でも第一級の速さである。
地球大気は他の惑星と違って水蒸気が多い。水蒸気は地表面から蒸発し,上空で凝結して雲となり雨や雪を降らせるほか,いろいろな気象現象をもたらす。また,水蒸気の相が変化するとき地表面で得た熱を大気に放出する。このエネルギーが大気環流や台風などの大気運動の重要なエネルギー源になる。
成層圏は対流圏と違って水蒸気が少なく成層は安定しているので,対流圏のような複雑な気象現象は起きない。成層圏の環流はオゾンの太陽紫外線を吸収する量が緯度によって違うことが原因で生じ,夏半球から冬半球を結ぶ南北循環が形成される。これに地球自転のコリオリの力の作用が加わって,夏半球は東風,冬半球は西風が吹き,その強さは50~80m/sに達する。日本付近では9月下旬ころに東風から西風に変わる。
執筆者:朝倉 正
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天体の表面を覆う気体.狭義には地球大気をさす.地球大気は地球表面から上部に向かって対流圏,成層圏,中間圏,熱圏と温度勾配によって分類される.対流圏では上部にいくほど温度が低く,対流圏界面では-60 ℃ 以下に達する.圏界面は赤道上では16 km 程度,極付近では8 km 程度である.成層圏(50 km 付近まで)では上部ほど温度が高く,中間圏との界面で約0 ℃.中間圏に入るとまた温度は下降し,熱圏との界面では-110 ℃ にもなる.熱圏(80 km 以上)に入ると温度はまた上昇し,500 km 以上では1500 K にもなる.中間圏より低い大気の成分はほぼ均質で,水蒸気や固体粒子を除いて,窒素(78%),酸素(21%),アルゴン(1%),二酸化炭素(0.35%)である.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
(饒村曜 和歌山気象台長 / 宮澤清治 NHK放送用語委員会専門委員 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…すなわち1mmHg=1.333224hPaである。また,上記の水銀柱が0.760mの高さに相当する気圧を標準気圧といい,これを1気圧atmosphere(記号atm)と定められている。これらの諸単位の関係は次式のとおりである。…
…天文測定の最大の問題点は距離の決定であるから,このような粗い距離決定も役だつことが多い。UBVの三色測光以外に干渉フィルターを用いて有効波長帯をしぼった中間帯域測光やG(緑),R(赤),I(赤外)や,さらに10μmくらいまでの赤外波長域の大気透過波長帯(J,K,L,M,N)を加えた多色測光も行われている。また,電波やX線などはそれぞれの強度を測る受信または受光装置で測定の単位を決めている。…
…
[植生の機能]
植生は生態系における一次生産者として,地球上の生命に欠くことのできないエネルギーや物質を生みだしているが,それと同時に植生の存在は地球上の気候環境にも大きく影響している。およそ45億年といわれる地球の歴史の半ばの20億年ころに,植物の働きで大気中に増加したと考えられている酸素は,現在では大気の容量で20.95%を占め,全生物が1年間に大気と交換する量の1万倍程度存在しており,植生の影響による増減はあまり問題にならない。一方,植物の炭素源となる二酸化炭素は大気中に容量で0.035%しかなく,炭素量にすれば約7000億tで,全地球の植物体に現存している炭素総量とほぼ等しい。…
…その固体部分は半径約6400kmのほぼ球形をなし,表面の凹凸は最大10km程度である。地表面積の約70%を海洋(海)が占め,その全体を大気の層がおおう。地表付近の環境は動植物の生育に適し,進化の過程で多岐にわたる生物が発生した。…
※「大気」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
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