子宮後屈症(読み)しきゅうこうくつしょう

改訂新版 世界大百科事典 「子宮後屈症」の意味・わかりやすい解説

子宮後屈症 (しきゅうこうくつしょう)

子宮の位置は子宮頸部と体部の体軸に対する角度で表されるが,子宮頸軸が後方に傾いているものを後傾,体部軸が同様後方に傾いているものを後屈という。両者は合併していることが多く正確には子宮後傾後屈症retroversioflexion of the uterusとよばれるが,一般的には子宮後屈症ということが多い。通常の子宮は前傾前屈が多いが,後傾後屈もかなりの頻度でみられる。以前は子宮後屈症として腰痛,不妊症の病因としてかなり病的意義を認め,治療としてペッサリーの装着,手術などが行われたが,現在では病的意義は少ないといわれ,診断として子宮後屈症とすることはほとんどない。そのため子宮の位置を表す用語として子宮後屈が用いられるが,後屈症という用語はほとんど用いられなくなっている。しかし,もし腹痛などの障害の原因となっている場合は,子宮後屈症とよばれるべきである。分類としては先天性,後天性,また可動性,癒着性がある。可動性子宮後傾後屈症とは子宮を前傾前屈に整復可能なものをいい,ほとんど病的意義はない。癒着性子宮後傾後屈症は子宮周囲の炎症子宮内膜症などにより癒着を起こしたもので,病因となることがある。症状は便秘排尿障害などの圧迫症状,癒着による骨盤鬱血(うつけつ)症状としての腰痛,月経困難症がみられる。後屈子宮が妊娠した場合,強度の癒着のあるときは,きわめてまれに後屈妊娠子宮嵌頓(かんとん)症を起こし,尿閉をきたし,放置すれば膀胱壁の壊死を起こすことがある。治療は子宮後屈に関しては不必要であるが,それが原因でなんらかの症状があり,子宮後屈症と診断されたときは,ペッサリー装着,手術療法(アレクサンダー=アダムズ手術,ギリアム=ドレリ手術など)を行うことがある。ただし,現在ではほとんど施行されない。
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百科事典マイペディア 「子宮後屈症」の意味・わかりやすい解説

子宮後屈症【しきゅうこうくつしょう】

子宮位置異常の一種。正常では体軸と頸(けい)軸が骨盤軸に一致する前傾前屈の形であるが,反対に後傾または後屈の場合をいう。病名としては,子宮後傾・後屈症,または子宮後転症という。出産回数が多くなると筋肉がゆるみ,特に子宮復古不全のときに重量物を持ったり重労働をすると子宮後屈を起こしやすい。また,子宮内膜症や骨盤腹膜炎などによる癒着(ゆちゃく)や,子宮筋腫(きんしゅ)などの圧迫によって起こることも。先天性子宮後屈もある。症状は腰痛,便秘など。自覚症状のない場合も多い。可動性後屈は症状の重い場合以外は治療の必要はない。炎症による癒着性の場合は手術が必要。

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世界大百科事典(旧版)内の子宮後屈症の言及

【子宮】より


[子宮の病気]
 子宮は,胎生期に左右のミュラー管が癒合して形成される臓器であるが,この癒合がなんらかの原因で障害されると,双頭双角子宮など各種の奇形が生ずる。子宮は生理的には小骨盤腔のほぼ中央に位置し,前傾前屈の位置をとっているのが普通であるが,位置異常として子宮が病的に後転する子宮後屈症,子宮が全体として前後左右に位置を変える子宮転位,また子宮が上下方向へ移動する子宮上昇や子宮脱などがある。子宮体内膜の炎症には急性子宮内膜炎があり,連鎖球菌,淋菌,大腸菌などが原因菌となり,分娩,流産,人工妊娠中絶,IUDなどが誘因となる。…

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