デジタル大辞泉 「小人」の意味・読み・例文・類語
しょう‐にん〔セウ‐〕【小人】
[類語]子供・
翻訳|dwarf
侏儒ともいう。世界各地の神話や民間伝承に登場する,異常に小さな体をもち,そのためにかえって超人的な霊能を発揮するとされる存在。巨人が物理的な力において人間にまさる反面,しばしば知力に欠けると物語られるのとは対照的に,小人は物理的な力では人間に劣るが知力ではまさると性格づけられることが多い。小人伝説には,次のような類型が見られる。(1)いたずらのために矮人化されて天界を追放された神的存在。(2)太古の人類の生き残りとしての小人伝説。アイヌのコロボックル伝説やメキシコのツォツィル原住民のコンチャベティック伝説などがこれに相当する。(3)小人を自然界の霊的住人と考え,森や山に響く音は小人たちのたてる声や音だとする考え方。(4)未知の民族に対する異形神話としての小人観。これは異民族を巨人,半人間,一眼人,一足人などと想像するのと同じ発想にもとづく。(5)征服民族と被征服民族のような既知ではあるが互いに敵対的な民族の間で,侮べつと畏怖の表現として相手方に過剰な身体的劣性を付与しようとする考え方。(6)精霊や霊魂は妖精のような小人の形をとるという信仰にもとづく小人観。これらの類型にほぼ共通しているのは,身体的劣性という日常的視点からすれば負とされる価値を体現した存在を設定し,それを〈自然〉という文化によって秩序化される以前の状態と結びつけることにより自民族の文化と現在を肯定するという,自己中心的な神話の論理構造が見られる点である。
小人が普通人を超える力を発揮して巨大な事物をもあやつることができるという逆転的な考え方は広くみられ,見世物やサーカスにおける小人の演技は,そのような考え方を前提としている。現実の小人は物理的危害を及ぼすことが少ないために,そのいたずらが容認され,道化として権力者の側近におかれる習慣がルネサンス期のヨーロッパの宮廷にはあった。また,反秩序的行動の罰として普通の人間が矮人化させられた実例と称して小人を引き合いに出すという,現行の秩序観を強調する見世物も過去にはあった。
執筆者:落合 一泰
古来,聖なるものは小さな姿で現れると信じられた。多くの民族がそれぞれ小さな姿をした神,もしくは神意をうつした〈小さ子〉の活躍を語り継いでいる。これについては,かつて小ヘビが偉大な神としてあがめられた動物崇拝のなごり,または小柄な民族への畏怖から生まれたとするなどいくつかの説がある。日本の小さ神は《古事記》《日本書紀》《風土記》などにも見える。その代表は少彦名(すくなびこなの)命で,この神は,たいそう小さく鷦鷯(さざき)の羽を着て白蘞(かがみ)の皮を舟にして,波のまにまに寄り来たるが,後に粟茎(あわがら)に弾かれて常世に渡ったとある。この神が,水辺に出現しているところに特色がある。海神を《日本書紀》には〈少童(わたつみの)命〉と記している。水辺に,著しく小さな姿で誕生する神の子の物語は,民間では〈小さ子譚〉として昔話に語られる。モモから生まれる桃太郎,ウリから生まれる瓜子姫などが代表的なものである。小さな主人公は,ふしぎな成長を遂げ,災難や厄難を克服して豊かな生涯を送る。幸福な結婚と富貴を約束される小さ子の物語は,人々に好まれ多くの種類が語り伝えられている。一寸法師,親指太郎,すねこたんぱこ,五分次郎,豆太郎,どんぐり太郎,ちび太郎などがある。さらに人間以外の姿をもって登場する田螺(たにし)息子,カエル,ナメクジやヘビそれにカタツムリなどの主人公も〈水神少童〉の信仰から把握すべきである。零落した水神の姿としては,民間に伝えられる河童,鼻たれ小僧,座敷童子(わらし)などがある。
→巨人 →道化
執筆者:野村 敬子
医学的には身体,とくに身長が異常に小さい場合を小人症という。1938年,ギュンターH.Günterは身長130cm以下を真性小人症としたが,現在では一般に,平均身長よりも標準偏差にして3以上小さい場合をいう。小人症は全身の均整のとれている均衡性小人症と均整のとれない非均衡性小人症に大別され,それぞれいろいろな原因によって起こる。前者には,脳下垂体性小人症(成長ホルモンの分泌不全によって起こるもので,思春期の発来は遅れる。知能は正常),甲状腺機能低下性小人症(幼児期以前に発病すればクレチン病,小児期以降に発病すると粘液水腫になる。早期に発病するほど知能の低下は大きい),原発性小人症(原因は不明で,生下時にすでに小さいが,二次性徴の発現や知能の発達などはまったく正常),思春期早発症,ターナー症候群などがある。一方,非均衡性小人症には,くる病性小人症などがある。
→佝僂(くる)病
執筆者:小室 裕明
中国において,〈君子〉の反対語。身分の低い者,小者。召使い,奴僕(ぬぼく)をさす語。《論語》陽貨篇には〈女子と小人とは養い難し〉とある。また,才徳のそなわった〈君子〉に対し,品性いやしい人,欲ぶかく性根のひねくれたつまらぬ人物,すなわち小人物をいう。日本では,幼少または少年をさす。おとな(成人)の対,しょうにん(小人)。さらに,男色の相手の少年,背の低い人,こびと(小人)をもさす。
執筆者:戸川 芳郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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江戸幕府の職制。小者ともいう。黒鍬者(くろくわのもの)、中間(ちゅうげん)、駕籠(かご)者、掃除者とともに五役と一括される軽輩。早くも天正(てんしょう)年間(1573~92)にその存在が認められる。諸女中、奥役人の出入りの供奉(ぐぶ)、口番、御使また用品の運搬などを職務とした。その数450人ないし500余人(役高15俵一人扶持(ぶち)、御目見(おめみえ)以下、羽織袴(はおりはかま)役、譜代(ふだい)席。ただし三河以来の由緒をもつ18家は世禄(せろく)35俵二人扶持~32俵一人扶持)に及び、それが3組に分かたれ、各組に頭1人(目付支配、役高80俵、御目見以下、上下(かみしも)役)が置かれた。幕末には本郷金助(ほんごうきんすけ)町と湯島切通(ゆしまきりどおし)の吏庁に分属した。諸藩にも同様のものがみられた。
[北原章男]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…丈がやや低く,ジャーマン・アイリスの名のもととなったドイツアヤメI.germanica L.(英名German iris)も起源不明の雑種である。ビアディッド・アイリス群に属する野生種は約40種あり,園芸上40cm以下をドワーフdwarfと呼び,ナンキンアヤメI.pumila L.もこの群に含まれる。(3)ビアドレス・アイリス群(外花被片にひげ状突起のないもの) (a)ルイジアナ・アイリス類Louisiana irises アメリカのミシシッピ川流域に自生するチャショウブI.fulva Ker‐Gawl.(英名copper iris)など5種とそれらの天然交雑種や多数の園芸品種があり,花色が豊富で,花はカキツバタやハナショウブに似る。…
…半径の比較的小さい星。巨星の反義語。太陽に代表される主系列星と,それよりも半径の小さい星を矮星という。主系列星の半径はその星の質量によって異なるが,2×1010cm~1×1012cmの範囲にある。主系列星よりも半径の小さい星を同じ光度の主系列星に比べると,その表面温度はより高く,その色はより青い。そのような星の典型的なものは白色矮星で,その半径は109cm程度しかない。準矮星は主系列星と白色矮星の中間的なものであり,ウォルフ=ライエ星や惑星状星雲の中心星も矮星である。…
…男はアスクAskr,女はエンブラEmblaと呼ばれ,これから人類が発した。ユミルの肉の中にうごめく蛆虫から神々は小人dvergrをつくった。小人は地中や岩の間に住み,姿は小さく醜いが,鍛冶に長じ,よい武器やみごとな装飾品をつくる。…
…責任者は番頭で留守居支配,200石高,役料200俵,人数は9人,交代制で昼夜詰切りで勤務した。番頭の支配下に御広敷添番,同並,御広敷伊賀者,御広敷進上番,御広敷小人,御広敷小仕事之者などが所属する。御広敷御門の長屋中に伊賀者・添番の詰所,小人部屋があり,玄関を入ると番頭部屋・添番詰所があり,玄関正面の奥に伊賀者番所があって,この番所が厳重な板戸を隔てて御殿向に続き,ここが御広敷からの御錠口となっていた。…
…一般には若年の者,身体の小柄な者のことをいうが,鎌倉・室町・戦国時代には,武家に仕えて雑務を担当する軽輩のことをいい,〈小人(こびと)〉とも称している。朝廷,公家の場合の小舎人(こどねり)に相当するといわれる。…
※「小人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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