一国の産業構造のなかで、第二次産業、とりわけ製造業の占める比重が高まることをいい、近代における経済成長の過程に置き換えられて理解される場合が多い。近代の経済成長は、技術革新を背景とする製造業を中心とした生産力の著しい発展によるものであり、工業化はその必須(ひっす)の条件であるとされている。
経済成長は、人口1人当りの国民所得の持続的上昇としてとらえることができるが、これは一般に、人口の増加と広範な経済構造の変化を伴う。国民所得水準の上昇による労働力の第一次産業から第二次、第三次産業への移動は、C・G・クラークの実証分析により確認されたが、その後、S・S・クズネッツは膨大な実証データに基づき、近代経済成長過程における産業構造変化の、より包括的な分析を試みている。こうした研究の結果、(1)工業化は、農業部門(第一次産業)において生産力が十分に上昇し、自己の消費後に工業部門(第二次産業)に従事する人々を養うに足るだけの余剰が存在し、その規模が増大していくことが前提となること、(2)農業部門の生産物は主として生活必需品から構成され、所得が増える割合ほどには需要の伸びがみられず、需要の所得弾力性が小さいこと、(3)農業部門では生産量の増大につれて生産物単位当りの生産費用が増加傾向を示すのに対し、工業部門ではこの逆の傾向がみられ、技術革新による生産性上昇の程度も工業部門のほうが高いこと、などが明らかにされている。
したがって、一国の国民所得水準を高めるには農業国から工業国への脱却が必要とされ、発展途上国のほとんどが工業化を主要な目標としているが、農業の近代化が遅れている国の工業化は困難である。工業化を世界に先駆けて実現したイギリスでは、18世紀後半から19世紀前半における目覚ましい技術進歩と工場制工業の出現による産業革命が契機となっている。わが国では、19世紀末から20世紀初頭(明治20~30年代)にかけてこの過程を経験し、続く第一次世界大戦を通じて、工業化の中心は軽工業から重化学工業へと移っていった。
工業化の進んだ社会は工業化社会とよばれているが、第三次産業の比重が増大し、経済のサービス化が一段と進んだ社会を、工業化社会の次にくるものとして、1960年代のなかばごろからアメリカの社会学者であるD・ベルらによって用いられ、広まったことばに脱工業化社会がある。第三次産業の比重が増大し、経済のサービス化が一段と進む脱工業化社会では、財の生産にかわって情報・知識・サービスなどに関する産業が重要な役割を果たす。
工業化社会と脱工業化社会を含めたものを産業社会とよぶ場合がある。
[三浦正史]
『S・S・クズネッツ著、塩野谷祐一訳『近代経済成長の分析』全2巻(1968・東洋経済新報社)』▽『小野五郎著『産業構造入門』(日経文庫)』▽『鈴木多加史著『日本の産業構造』(1995・中央経済社)』
産業化ともいう。一般に農業的・伝統的な社会が工業生産をベースとする社会へ移行するプロセスをさすが,厳密に定義することは困難である。人類史的にいえば,18世紀末のイギリスを起点として,現在も進行中の過程ともいえる。もっともふつうには,各国経済における工業部門の比重が決定的に高まることをさしており,歴史的にはそれぞれの国で産業革命とよびならわされている現象とほぼ一致する。この意味での工業化とは,産業資本,ことに固定資本の強度の蓄積,人口の激増,労働力の第2次産業への集中,第2次産業における技術革新の進行,そして何よりも1人当り国民所得の持続的成長の開始などによって特徴づけられる。
持続的経済成長の開始という意味での工業化論をもっともよく理論化したのはW.W.ロストーである。彼によれば,伝統的・静態的な農業社会のなかで,農業改良(〈農業革命〉)や商業資本の蓄積など〈先行条件〉が整備されてくると,やがて決定的な転換点である〈離陸(テイク・オフtake-off)〉を迎える。〈離陸〉をもたらす最大の要因は生産的投資率が10ないし12%を超えることである。人口増加率には生物学的な限界があるので,それだけの投資率が維持されれば,必然的に生産の成長が人口の増加を上回り続ける。しかも,経験上ほとんどの先進国で投資率は数%から10%以上へ,たかだか数十年のうちに移行した,というものである。したがって,成長は〈持続的〉となり,当面不可逆的となる。
しかし,工業化という言葉には,すぐれて社会史的な意味もある。持続的経済成長によって,社会が一挙に動態化するうえ,農業社会の基礎をなした農村共同体が崩壊し,都市化が大規模に進行するからである。これに伴って,共同体がもっていた経済的・社会的な諸機能が分化し,同時に金で買い取られるべき商品となるため,生活のコマーシャライゼーションがおこる。人と人との結びつきは,全人格的で生活の全面にわたるものから,特定の限定された(合理化された)範囲のものとなり,いわゆる〈大衆社会〉化の様相を示す。
→産業社会
執筆者:川北 稔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
…これは,所得が平準化し,教育が普及し,非熟練職種や汚れ仕事がしだいに機械によっておきかえられていくことの結果である。他方,低開発社会および産業化(工業化)の初期段階にある社会では,中間層が少なく,低所得者・貧困者が多く,中・高等教育が普及しておらず,また非熟練職種への労働力供給が多いので,階層構造は上方が細く下へむかって急に広がっているヒエラルヒー構造をとる。このように,階層構造の形態は産業化の達成段階と密接な関係をもっている。…
…本来の〈産業革命〉を指すために,〈最初の〉とか,〈古典的〉とかいった形容詞をつけなければならなくなっているのは,このためである。 しかし,さらに20世紀後半,南北問題が深刻になると,産業革命の問題は〈工業化〉の問題として,世界史的な視野の中におかれはじめる。工業化,つまり農業社会から工業社会への移行という概念は,ロストーWalt Whitman Rostow以来,〈近代的経済成長〉つまり〈1人当り国民所得の持続的成長〉の開始の問題と結びつけられることが多くなっている。…
…ある国が従来外国から輸入していた製品を,国内生産によって部分的ないし全面的に自給化することをいう。第2次大戦後,多くの発展途上諸国は輸入代替によって工業化を達成しようとした。すなわち,関税や輸入の量的制限を通じて工業製品の国内市場を海外の競争から隔離するとともに,種々の助成措置を施して国内工業の育成をはかったのである。…
※「工業化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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