心臓カテーテル法(読み)しんぞうカテーテルほう(英語表記)cardiac catheterization

改訂新版 世界大百科事典 「心臓カテーテル法」の意味・わかりやすい解説

心臓カテーテル法 (しんぞうカテーテルほう)
cardiac catheterization

心機能や血行動態を知るための検査法の一つ。直径約1~3mmのダクロンで覆われた細い管(カテーテル)を心臓の各心腔内や大静脈,肺動脈,大動脈冠動脈などに挿入し,心臓および血管系の形態や機能を直接的に観察しようとする方法。静脈あるいは動脈を切開し,そこからカテーテルを挿入するため,X線写真,心電図検査などを非観血的検査法と呼ぶのに対して,心臓カテーテル法を観血的検査法と呼ぶ。

 心臓カテーテル法を1929年に初めてヒトに行ったのはドイツのフォルスマンWerner Forssmann(1904-79)で,彼は25歳の時に左腕の静脈より尿管カテーテルを右心房まで挿入したのをはじめとして,計7回心臓カテーテル法を試みた。フランス生れのアメリカ人クルナンAndré F.Cournand(1895-1988)は41年,体静脈より右心房,右心室,肺動脈に至る右心系の心臓カテーテル法を行い,右心カテーテル法を確立した(フォルスマンとクルナンは1956年リチャーズD.W.Richardsとともにノーベル生理・医学賞を受賞)。ツィンマーマン,H.A.Zimmermannは50年,動脈から逆行性に左心室に至るカテーテル法を行い,それがセルディンガー,S.I.Seldingerの53年の経皮動脈穿刺(せんし)法に受けつがれて,左心カテーテル法が確立した。また同年ソーンズF.M.Sones Jr.らによって,心臓の外側をおおって走る冠動脈に大動脈基始部から挿入する選択的冠動脈造影法が考案された。

心臓カテーテル法は先に述べたように,右心カテーテル法と左心カテーテル法に大別され,それぞれの目的に合わせて各種のカテーテルが考案されている。ほとんどのカテーテルは中空であり,それを通じて血圧測定したり,血液採取したり,造影剤薬剤を注入したりすることが可能である。特殊なカテーテルとして,カテーテルの先端に直径約7mmのバルーンがついているもの(バルーンカテーテル)があり,右心房内でふくらませて血流に乗せて肺動脈内に挿入するもの,また熱希釈法を応用して心拍出量を測定できるサーミスターのついているもの(スワンガンツカテーテル)などがある。心臓の電気生理的な現象を記録する目的でつくられた多電極カテーテル,心筋バイオプシーを目的とした心筋生検用カテーテル,さらにミニチュア化した血圧・血流速度測定器がカテーテルの先端に装着されたものなどが臨床的に使用されている。

実際に心臓に障害がある患者が心臓カテーテル検査を受けるときには,その検査の必要性と検査を受けたら何がわかるか,どのような危険性があるかの説明を受けてから,精神安定剤を服用して検査を受けることになる。通常右腕の肘静脈より皮膚切開法によって,あるいは右大腿静脈への穿刺法(セルディンガー法)によってカテーテルを挿入し,血流にそって肺動脈まで挿入部のカテーテルを操作して導く。右心房,右心室,肺動脈の圧測定,血液の採取を行い,右心系の圧上昇の有無(肺高血圧症,心不全),欠損穴を通じての逆流性血液混入の有無(心房中隔欠損,心室中隔欠損)を検査し,心拍出量の測定などを行う。ついで右腕の上腕動脈より切開法によって,または右大腿動脈より穿刺法によってカテーテルを挿入し,逆行性にカテーテルを大動脈,左心室内に進めて,内圧を測定したのち,左心室内,ときに大動脈基始部に造影剤を注入してシネフィルム撮影を行う。この検査法により,左心室,大動脈の圧の上昇の有無(心不全),大動脈弁,僧帽弁の状態(弁膜症),左心室の収縮状態,心筋の厚さなどを評価することができる。もし狭心症や心筋梗塞(こうそく)のように冠動脈に異常があると判断されれば,冠動脈造影(心血管造影法)を行い,その形態的変化を観察する。

以上は通常行われる診断カテーテル法であるが,1976年ころから心臓カテーテル法の治療面への応用がなされており,たとえば外科的に開胸することなく,特殊なバルーンカテーテルによって冠動脈狭窄部位を拡大する冠動脈血管形成術coronary angioplastyなどが行われている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「心臓カテーテル法」の意味・わかりやすい解説

心臓カテーテル法
しんぞうカテーテルほう
cardiac catheterization

心カテーテル検査ともいう。肘または大腿部などの末梢血管に小切開を加えて,そこからプラスチック製の細いカテーテルを挿入し,X線透視下に心臓にまで到達させ,心臓内各所の血圧測定,採血,さらに造影剤注入による心臓血管撮影などを行なって,心臓の奇形,弁膜の働き,冠状動脈の状態などの診断に役立たせる方法。この検査により心臓や血管内腔の病変が非常に詳細に描出され,重要な情報が得られる。ことに毒性の少い有機ヨード剤を用いた造影剤が開発されて以来,血管造影法が急速に発展してきている。なお,1929年に心臓カテーテル法を創始したドイツの W.フォルスマン,41年にその臨床応用を完成させたアメリカの A.F.クールナンと D.リチャーズの3人は,その功績により 56年度ノーベル生理学・医学賞を受賞した。

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とっさの日本語便利帳 「心臓カテーテル法」の解説

心臓カテーテル法

エックス線の透視下で、足の付け根の動脈から心臓や冠動脈内にカテーテルと呼ばれる細いチューブを入れ、造影剤を注入する方法。この方法で心臓の様々な疾患の診断ができる。治療に用いられることもある。

出典 (株)朝日新聞出版発行「とっさの日本語便利帳」とっさの日本語便利帳について 情報

世界大百科事典(旧版)内の心臓カテーテル法の言及

【心機能検査】より

…またポジトロン放射物質を用いるPET法も一部で用いられている。
[心臓カテーテル法]
 静脈あるいは動脈から適切な太さの中空のカテーテルを大血管や心房,心室まで挿入し,その部分の血圧や血流を測定する方法。同時にその部分の血液を採取して酸素濃度を測定することによって,短絡や心拍出量を計算することができる。…

【心筋梗塞】より

…放射性同位体によるシンチグラムでは,心拍出量,駆出率などの血行動態の変化と梗塞部位の広がりがわかる。なお,特殊な検査として,心臓カテーテル法と選択的冠動脈造影がある。心臓カテーテル法による検査では,心拍出量の減少,駆出率の低下,左心室拡張終期圧・肺動脈楔入圧・肺動脈拡張期圧などの上昇,中心静脈圧の上昇がみられ,左心室造影では,梗塞部の収縮性低下や心室瘤形成,心室中隔穿孔(せんこう)の有無が明らかとなる。…

【心臓】より

…心臓弁膜症(狭窄症や閉鎖不全症)のほか心臓の奇形(先天性心疾患)がある場合には,心音のほかにしばしば疾患に特徴的な心雑音が聞かれ臨床診断に役立つ。 心周期における血行動態は,心臓カテーテル法,心臓血管造影法により明らかにされる。収縮期には左右両側の心室がほぼ同時に収縮し,心室内圧の上昇につれ,まず房室弁(僧帽弁,三尖弁)が閉じ心音の第I音が発生する。…

※「心臓カテーテル法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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