デジタル大辞泉
「怪」の意味・読み・例文・類語
け【▽怪/×恠】
1 あやしいこと。不思議なこと。怪異。
「かやうの―ども、未然に凶を示しけれども」〈太平記・二〇〉
2 もののけ。たたり。
「この男も生頭痛くなりて、女は喜びつれどもそれが―のするなめり、と思ひて」〈今昔・二七・二〇〉
しるまし【▽怪/▽徴】
奇怪な前兆。不吉な前触れ。
「今是の―を視るに、甚だかしこし」〈仁徳紀〉
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
あやし‐・む【怪】
[1] 〘他マ五(四)〙 (
形容詞「あやし」の
動詞化) 物の正体や、
物事の真相、原因などがわからなくて不思議だと思う。また、変だと思ってとがめだてをする。うたがう。いぶかる。あやしぶ。
※天理本金剛般若経集験記平安初期点(850頃)「其の僧等此の事を見て、稍や異(アヤシム)」
※源氏(1001‐14頃)夢浮橋「この月ごろ、うちうちにあやしみ思う給ふる人の御事にやとて」
※
平家(13C前)五「秦舞陽わなわなとふるひければ、臣下あやしみて」
[2] 〘他マ下二〙
①
態度などにはっきりしない点があって変だと思う。変だと思ってとがめだてをする。
※太平記(14C後)二四「此勢一所に集らば、人に恠
(アヤ)しめらるべしとて」
※天草本伊曾保(1593)イソポの生涯の事「ナニゴト ナレバ、ケシカラヌ サカナダウグノ カイヤウゾト ayaximureba(アヤシムレバ)」
② 叱ったりしてひどく当たりちらす。
※浮世草子・
本朝二十不孝(1686)五「我と心腹たててすこしの事に人をあやしめければ」
③ 相手を卑しいものとして応対する。
[
語誌](1)(一)は「あやしぶ」とともに
平安時代初期から使用されているが、院政期頃を境に「あやしむ」が多用されるようになり、「ぶ」と「む」の
交替の可能性も考えられる。平安時代にはおもに漢文訓読系の
文献で用いられ、
和文での使用は稀で「
源氏物語」では
挙例の
一例だけである。和文で多用される「あやしがる」と比べて、態度・
言動を伴わない内面的な心理作用に用いられることが多い。
(2)「文鏡秘府論保延四年点」(一一三八移点)には「
アヤシムル」という例がある。(二)の下
二段活用の古い例と見ることもできるが、「あやしむ」にも古く上二段活用があったとも考えられる。→「
あやしぶ」の語誌
けしかる【怪】
① あやしい。異様である。えたいが知れない。
※平家(13C前)二「今はけしかるかきすゑ屋形舟に大幕ひかせ、見もなれぬ兵共(つはものども)にぐせられて」
※増鏡(1368‐76頃)一五「内には、いつしかけしかる物など住みつきて」
② いっぷう変わっていて、おもしろい。悪くはない。
※増鏡(1368‐76頃)一「これもけしかるわざかなとて、御衣(おんぞ)ぬぎてかづけさせ給ふ」
あやし‐・ぶ【怪】
※続日本紀‐神護景雲元年(767)八月一六日・宣命「此を朕自らも見行し〈略〉、怪備(あやしビ)喜びつつ在る間に」
※源氏(1001‐14頃)桐壺「相人驚きて、あまたたびかたぶきあやしぶ」
[語誌]上二段活用の「あやしぶ」の例が平安初期から見られ、これが四段活用の「あやしぶ」を経て、四段活用の「あやしむ」となったと推定する説がある。→「
あやしむ」の語誌
け【怪】
〘名〙
① 不思議なこと。あやしいこと。
※太平記(14C後)二〇「加様(かやう)の怪(ケ)共、未然に凶を示しけれ共」
② ばけもの。
※大鏡(12C前)六「怪(クヱ)と人の申すことどものさせることなくてやみにしは」
あや‐・む【怪】
〘他マ下二〙 (形容詞「あやし」を動詞化したもの) 怪しむ。怪しく思う。不審に思う。いぶかる。
※夜の寝覚(1045‐68頃)一「近くしのびやかならんけはひなどは、いまだ聞きもしらねば、あらずとも、え聞きもあやめず」
あやしみ【怪】
〘名〙 (四段動詞「あやしむ(怪)」の連用形の名詞化) 怪しむこと。不審。疑い。
※平家(13C前)一「貫首以下あやしみをなし、『〈略〉布衣の者の候ふはなに者ぞ。狼藉なり。罷り出でよ』と六位をもって言はせければ」
あや‐し【怪】
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報