(1)仏事の法要の分類名。経を読誦して罪過を懺悔(さんげ)する法要で,天台系の《法華懺法》と禅系の《観音懺法》が有名である。構成は両者でかなり違っているが,その中心は敬礼段(きようらいだん)(頂礼段),懺悔段,経段にある。敬礼段は,法華経または観音菩薩に縁のある仏菩薩等の名号(みようごう)を連ねて敬う。懺悔段は心身の犯した罪を懺悔する。経段は,《法華懺法》では法華経の安楽行品(あんらくぎようほん)を読誦し,《観音懺法》では消伏毒害陀羅尼等の三陀羅尼を読誦する。《法華懺法》は全文漢音読みにするので,たとえば釈迦牟尼仏は〈セキャボジフ〉と発音する。《観音懺法》は独特の唐音読みにするので,たとえば釈迦牟尼世尊は〈シキャムニシスン〉と発音する。《法華懺法》は,全文にきわめてていねいなフシを付ける〈声明(しようみよう)懺法〉から,個人日常の行として勤める素読みのものまで,数段階の勤め方がある。曹洞宗の《観音懺法》では,〈鼓鈸(くはつ)〉といって太鼓と鈸(はち)で奏する一定の曲節が挿入される。上記2種の懺法のほかに,《法華懺法》と同じ構成の《阿弥陀懺法》がある。真言系には懺法はないが,《金剛界礼懺(れいさん)》《胎蔵界礼懺》がこれに相当すると考えられる。
(2)能《朝長(ともなが)》の小書(こがき)(変型演出の名)。後ジテ源朝長の霊の出の囃子事(はやしごと)は,通常は〈出端(では)〉だが,それをまったく別の〈懺法〉に変える。これに用いる太鼓は,にぶい低音の独特の音色に調えたものを用い,太鼓方の秘曲とされる。上述の法要における〈鼓鈸〉との関係はとらえにくい。
執筆者:横道 万里雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
仏教における懺悔(さんげ)(悔過(けか)ともいう)の行法、または法会(ほうえ)の儀式およびその儀則。諸仏菩薩(ぼさつ)に礼拝(らいはい)して自らの罪過を仏前に告白して容認を乞(こ)い、罪業を免れることが基調で、懺悔・悔過の行法を内容とする経論から抄出したものが、中国仏教で4、5世紀ころから治病除災などの現世得益のため行われた。それらは梁(りょう)の武帝により、仏名経典と合して『慈悲道場(じひどうじょう)懺法』10巻に編集されたが、天台智顗(ちぎ)は止観の行法として、在来のものを『法華三昧懺儀(ほっけさんまいせんぎ)・方等(ほうとう)三昧行法・請観世音(しょうかんぜおん)懺法・金光明(こんこうみょう)懺法・方等懺法・敬礼法』とつくり直して類形化し、『円覚経(えんがくきょう)道場修証儀(しゅしょうぎ)』18巻、『華厳経礼懺儀(けごんきょうらいせんぎ)』42巻など膨大なものまでつくられた。日本では、法華三昧懺儀の抄出である法華懺法をさし、宮中で先帝の御忌(ぎょき)に用いられ、天台宗勤行儀(ごんぎょうぎ)ともなっている。東大寺の御水取(おみずとり)に用いる「吉祥悔過法(きっしょうけかほう)」や勅会(ちょくえ)の御仏名会(おぶつみょうえ)も懺法であり、舎利(しゃり)懺法、薬師(やくし)懺法、弥陀(みだ)懺法などがある。
[塩入良道]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…古来,山僧の多くは山上に住まず,東西坂本および洛中に里坊(さとぼう)を有したが,今では主として東坂本(大津市坂本)に集住し,ここには最澄生誕地と伝える生源寺,座主の住坊である滋賀院門跡をはじめ多くの住院がある。
[法会]
《三宝絵詞》(984年源為憲撰)には,叡山で行われる毎年の法会として,1,4,7,10月に各21日間ずつ行う懺法(せんぼう)(812年最澄始修),3月と9月の15日に行う勧学会(964年始修,山僧20人と大学寮学生20人が坂本の寺に会し,朝は法華経を講じ,夕は念仏を行い,終夜,讃仏の詩文を作る),4月の花の盛りに行う舎利会(860年円仁始修),4月15日以前に行う授戒会(823年始),6月4日,最澄の忌日に行う六月会(みなづきえ),8月11日から17日まで行う不断念仏(865年円仁始修),9月15日に行う灌頂(843年円仁始修),11月24日の天台大師忌に行う霜月会(798年最澄始修)を掲げる。このうち六月,霜月の両会はとくに重んじられ,5年に1度,好季を選んで両会同時に修し,これを法華大会という。…
…それは,平治の乱の敗戦で東国に落ちのびてきた源義朝の一行を,長は自分の家に泊めたが,重傷の次男朝長は父たちのことを考えて夜中に自害し,短い生涯を終えたといい(〈語り・上歌(あげうた)等〉),僧を自分の家に伴う。僧が観音懺法(かんのんせんぼう)の法要を勤めると,夜半に朝長の霊(後ジテ)が昔の姿で現れる。朝長は,兄義平や弟頼朝が敵に捕らえられ,父の義朝は家臣の長田(おさだ)に討たれるなど一門が不運をたどるなかで,青墓の宿の長が自分たちを親身に世話し,死後の弔いまで続けてくれていることに感謝し(〈クセ〉),今の修羅道の苦しみや,最後の戦いで膝を射られて重い手傷を負ったことなどを物語る(〈ロンギ・中ノリ地〉)。…
※「懺法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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