翻訳|chauvinism
自分たちが属している集団の内的一体性を前提として,他の集団・民族・国家に対してとる排斥的,敵対的,攻撃的な態度,行動,イデオロギー,政策などを広く指す。ショービニズムともいう。
排外主義の原形は,どの集団にも多少とも見いだされるエスノセントリズム(自集団中心主義)にかかわりがある。伝統社会においては,集団への帰属と依存の意識が強まって,親密な〈内〉の心情つまり〈内集団〉感情が形成されるとき,同時に,他の集団については異質の標識が強調されて〈外集団〉として識別される。〈外集団〉に対してはその異質性のゆえに,憧憬(どうけい),歓待,好奇心等の誘引と,逆に拒絶,畏怖,敵意等の反発とが交互にあるいは同時に働く。すなわち拝外主義と排外主義とは背中合せにある。
近代社会においては,資本主義的商品経済と交通の発達とが排外主義を縮小させる方向に働く。なぜなら市民が関係を取り結ぶ他の集団(たとえば外国)は,もはや非合理的な情緒の投射枠としての幻想的な〈外集団〉(異国)でなく,利害と役割の関係の中におかれ,客観的・経験的に認知し判断できる明確な〈他集団〉(他国)でなければならないからである。しかしながら近代社会は,国民国家に編成される過程で,愛国心とナショナリズムに訴え,再びエスノセントリズム(自民族中心主義)と排外主義を,今度は民族的な規模で呼び起こした。政治権力と支配層とは,しばしば社会的矛盾の噴出や対内的な危機を回避するために,それらを外へ転化して,大衆の愛国心やナショナリズムを排外主義に移し替えていく。とりわけファシズムにおいて,熱狂的な自民族の選良視と排外主義とがみられた。近代の排外主義は,ナショナリズムの病理現象としての側面をもつのである。
近代を通じて日本人の対外態度は拝外と排外との間を振子のように行き来した。〈内〉である日本に対して,欧米圏はトータルに異質な〈外〉として把握された。この〈外〉に対して,最初排外(攘夷)へ,次いで西欧憧憬や舶来物崇拝にみるように拝外への傾きが生じた。ファシズム期には振子が再び排外に転じて排外主義が噴出した。戦後はアメリカニゼーションの盛行にみるように拝外の姿勢が続くが,1950年代半ばからのナショナリズムの風潮の中で振子は排外に転じ,安保闘争からベトナム戦争のころにはその極限に達した。
日本人の対外認識では,アジアを〈内〉と定義するときは欧米は〈外〉になり,日本を含む先進産業国を〈内〉とするときはアジアは〈外〉であり,日米を〈内〉とするときは共産圏とりわけソ連は〈外〉とみなされる。今日,対外認識は分化してきたが,にもかからず,対ソ危機論にみるように,国家が政策とイデオロギーの要請から〈内〉〈外〉枠を使い分けて,排外主義を操作的に用いることはかえって恒常化している。さらにまた,先進産業国の第三世界への経済進出にみるように,相手国を排斥するのでなく,むしろ寄生しつつ収奪し,包摂しつつ抑圧する新しい排外主義が一般化していることにも注目する必要がある。
執筆者:栗原 彬
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