〈教化〉という語は《礼記》経解篇に由来し,徳により人を善に導くことを意味する。日本では平安朝以来,仏教用語で〈きょうけ〉または〈きょうげ〉と読み,ほぼ同様に,人々を教え導くという意に使うようになったが,江戸時代に入り儒教の立場に立つ徳化を〈きょうか〉と呼び,この方が仏教用語より優勢となった。教育とほぼ同義で使われることもあるが,多くの場合,政治的権力と宗教的あるいは倫理的権威との結合により民衆を教え導くことをいう。その際,民衆が守りしたがうべき教説を提示し,さらにはそれを実践した人間像が期待されるものとして示される。教育勅語体制下の学校教育,とくに修身教育はこの役割を負わされていた。教化思想が優勢になるとき,知的認識を育てる教育は,たとえそれが十分に行われていなくても,〈知育偏重〉と称してさらにこれを軽視しようとする動きが強くなる。1879年の教学聖旨にはこの考えがはっきりあらわれており,また1930年代後半,戦争を準備し遂行しようとする勢力が,この〈知育偏重〉の語をそのまま使って皇国民錬成を強化した。これらは教化思想を実施に移した代表的な事例である。
執筆者:山住 正己
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…〈教化〉という語は《礼記》経解篇に由来し,徳により人を善に導くことを意味する。日本では平安朝以来,仏教用語で〈きょうけ〉または〈きょうげ〉と読み,ほぼ同様に,人々を教え導くという意に使うようになったが,江戸時代に入り儒教の立場に立つ徳化を〈きょうか〉と呼び,この方が仏教用語より優勢となった。…
… しかし,現実の庶民の教育機関は,教会によって組織された教会学校での初歩的な読みreading,書きwriting,算reckoning(この三つをスリーアールズ3R’sという)とともに教理問答(カテキズム)を主とする宗教=道徳教育を中心とし,社会への同化と社会秩序維持のための手段として発展し,さらに資本主義の発展に伴い,工場法による児童労働への一定の保護規定と結びついて発展する。しかし,そこでの教育は,個人の可能性を引き出すeducereという意味での教育educationというよりは,既成の価値観を注入するという意味での教化=インドクトリネーションindoctrinationに近かった。ここでは子どもの発見とは,子どもの学校への囲込みに通じていた。…
※「教化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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