日本大百科全書(ニッポニカ) 「新生(ダンテの作品)」の意味・わかりやすい解説
新生(ダンテの作品)
しんせい
Vita Nuova
イタリアの大詩人ダンテの初期のもっとも重要な作品。1293年前後、詩人が28歳のころ、それまで書きためた詩31編を骨子にし、これらを分析解説する散文を加えて全42(もしくは43)章にまとめあげた詩文集。詩の内訳はソネット25編、カンツォーネ5編、バッラータ1編で、一般には若き日のダンテの習作と考えられがちであるが、子細に検討すると、第23章のカンツォーネを中心に、長短の詩編に振り分けて、10+(10+1)+10=31編という構造をとらせ、三位(さんみ)一体説の数に基づいて「愛」の物語を展開している。
ダンテは9歳のときに同年の美少女ベアトリーチェに会ったが、さらに9年後の18歳のときに彼女に再会して、激しい「愛」を覚えるが、やがてベアトリーチェは昇天してしまう。古来、この作品は清純な恋心を歌った物語として読まれる傾向があるが、正しくは寓意(ぐうい)の「愛」を基軸に、ダンテが新しい文学的境地を開いた詩論の書と考えねばならない。なによりも見神の体験を表現しようと試みた野心作で、その意味では後の『神曲』の「天国編」に相応している。
[河島英昭]
『『新生』(山川丙三郎訳・岩波文庫/三浦逸雄訳・角川文庫)』