曾て(読み)かつて

精選版 日本国語大辞典 「曾て」の意味・読み・例文・類語

かつて【曾・嘗】

  1. 〘 副詞 〙
  2. 下に打消の語を伴って強い否定を表わす。
    1. (イ) ある事実が、ほんの少しも実現しないという、否定を表わす。全然。少しも。かつてもって。
      1. [初出の実例]「明(くるつ)日往て見るに、都(カツテ)不在(なし)」(出典日本書紀(720)皇極三年三月(図書寮本訓))
    2. (ロ) ある事実が、今まで一度として存在したことがない、という経験に基づく否定を表わす。今まで一度も。まだ全然。かつてもって。
      1. [初出の実例]「をみなへし咲く沢に生(お)ふる花かつみ都(かつて)も知らぬ恋もするかも」(出典:万葉集(8C後)四・六七五)
  3. ある事実が、過去のある時点に存在したことがある、という回想的な肯定を表わす。以前。昔。ある時。
    1. [初出の実例]「嵩岳に栖遁し、嘗(カツテ)歩みを山門に枉(ま)げたり」(出典:大慈恩寺三蔵法師伝承徳三年点(1099)八)
  4. まだ起こらない事について、それは実現しないだろう、また、実現させるべきではない、という否定を表わす。どんな事態になっても。ちょっとでも。
    1. [初出の実例]「御自害の事、曾(カツ)て有べからず」(出典:太平記(14C後)一六)

曾ての語誌

( 1 )「日本書紀」の古訓や訓点本などにみられるが、上代文献仮名書きの例は見当たらない。「万葉集」では「都」と「曾」の文字がカツテと読まれている。
( 2 )「都」は本来、すべての意であるが、打消の語を伴って完全否定のような用いられ方をし、「曾」は以前の意で「嘗」と通用して使われる一方、打消の語とともに用いられて「都」同様、否定の強調に使用される。
( 3 )この語は平安時代では漢文訓読に用いられ、和文では、「つゆ」が用いられる。カッテと促音に読むのは近世以後のことである。


かって【曾・嘗】

  1. 〘 副詞 〙 「かつて(曾)」の「つ」を促音に読んでできた語。〔改正増補和英語林集成(1886)〕

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

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