木綿(読み)きわた(英語表記)cotton

翻訳|cotton

精選版 日本国語大辞典 「木綿」の意味・読み・例文・類語

き‐わた【木綿】

〘名〙
パンヤ科の落葉高木。インドから台湾にかけての熱帯地方の原産。種毛繊維をとるため熱帯地方でまれに栽植されるほか、温帯でも観賞用に温室内で栽培される。高さ約三〇メートルに達する。葉は長柄を持ち、掌状複葉で三~七個の小葉からなる。各小葉は短柄があり、長楕円形で長さ約一五センチメートル。春、枝先に長さ約一〇センチメートルの橙赤色、濃紅色または白色の五弁花を多数集めてつける。果実は長楕円形で長さ約一五センチメートル。種子には綿毛がありカポックと同様に利用される。材は白色で軽く、丸木舟や茶箱などに利用され、根は強壮薬に用いられる。パンヤノキと呼ぶこともあり、また同じ科に属するカポックをさすこともある。はんしじゅ。わたのき。きわたのき。きのわた。インドわたのき。
※多聞院日記‐天正一七年(1589)正月七日「眉間寺の瘡薬名方〈略〉きわた〈きさみ・二分、あふる〉」
② 植物「わた(綿)」の古名。〔和漢三才図会(1712)〕
③ (繭から製する真綿に対して植物の綿の意で) もめんわた。綿花。
※天正本節用集(1590)「木綿 キワタ
浮世草子好色五人女(1686)三「身を木綿(キワタ)なるひとへ物にやつし」
④ 植物「どろのき(泥木)」の異名。〔日本植物名彙(1884)〕

も‐めん【木綿・

〘名〙
① ワタの種子のまわりに生じる白くて柔らかな綿繊維。弾力性・吸湿性・保温性に富み衣料などに広く用いられる。わた。きわた。木綿わた。棉花。
今堀日吉神社文書‐(永祿三年)(1560)一一月九日・保内商人中申上事書「於伊勢道、木綿・真綿保内へ取候条々」
慶長見聞集(1614)三「諸人のはかまもめん也。今の時代はあさなり」

ゆう ゆふ【木綿】

〘名〙 楮(こうぞ)の樹皮をはぎ、その繊維を蒸して水にさらし、細かにさいて糸としたもの。幣(ぬさ)として神事や祭のときに榊(さかき)にかけて垂らす。真木綿(まゆう)
※万葉(8C後)三・四四三「斎瓮(いはひへ)を 前にすゑ置きて 片手には 木綿(ゆふ)取り持ち 片手には 和栲(にきたえ)奉り」

もん‐めん【木綿】

大乗院寺社雑事記‐応仁二年(1468)一〇月一九日「布座申分は、もんめん者衣服類也。布と同篇也」

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デジタル大辞泉 「木綿」の意味・読み・例文・類語

も‐めん【木綿】

ワタの種子に付着している繊維を採取・加工したもの。弾力性・保温性・吸湿性に富み、衣料などに広く用いられる。コットン。めん。
木綿糸」の略。
木綿織り」の略。
[類語]羊毛純毛ウールカシミアモヘア綿めん純綿真綿まわたコットンジュート本絹正絹しょうけん人造絹糸シルク化学繊維

ゆう〔ゆふ〕【木綿】

コウゾの皮の繊維を蒸して水にさらし、細かく裂いて糸としたもの。主にぬさとして神事の際にサカキの枝にかける。

き‐わた【木綿】

パンヤの別名。
もめんわた。まゆから作る真綿まわたに対していう。綿花めんか

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改訂新版 世界大百科事典 「木綿」の意味・わかりやすい解説

木綿 (もめん)
cotton

木綿は綿(わた),綿花とも呼ばれ,ワタになる種子についた繊維。綿織物を指すこともある。全紡織繊維中最大量の5割弱が消費される。ワタの花が落ちると子房がふくらみ始め,6~7週間でその皮が破れると,コットンボールと呼ばれる白い柔らかい種子毛繊維があふれてくる。コットンボールはそれぞれ数粒の種子の入った3~5室に分かれており,綿繊維は種子にくっついている。繰綿機(くりわたき)にかけて繊維を種子と分離する。繰綿を終わったワタの繊維は原綿(げんめん)と呼ばれ,種子と繊維のついた実綿(じつめん)から重量で3分の1得られる。原産地はインドとアメリカで,インドでは前2000年ころからワタが栽培されていたらしい。紀元前にメソポタミアエジプトに渡り,その後ギリシア,ジャワ,中国,スペインでも綿が栽培され,ヨーロッパ諸国にも伝わった。

 綿は繊維の長さと細さで品質が決まり,アメリカ東部・中部で栽培されるカイトウメン(海島綿)Sea Island cottonは平均38~50mmと最も長く,最高の品質である。エジプトメンEgyptian cottonがこれに次ぎ,平均28~38mmの長さであり,ペルーメンもエジプトメンに匹敵する品質をもつ。アメリカメンは平均22~28mmで,アメリカ西部で灌漑栽培され,南アメリカ,インド,アフリカ,旧ソ連,中国などへも移植されている。在来種のインドメンは20mm以下しかなく,比較的短い繊維である。綿はセルロースからできており,たくさんのセルロース分子が集まってミクロフィブリルを形成し,さらにこれが集合して綿繊維を作っている。繊維は扁平で,ねじれたリボン状となっており,この形状は紡績のときにからみ合いをよくし,製品になったときにほつれにくくする特徴をもつ。綿糸は綿紡績法で作られ,カード糸と精梳機にかけた高級なコーマー糸がある。伸びにくいじょうぶな繊維で,染色性,吸湿性や肌ざわりもよい。欠点は縮むこととしわになりやすいことである。酸には弱いがアルカリには強い。
執筆者:

8世紀末の延暦年間(782-806)に崑崙人が三河国に漂着したとき木綿種をもたらし,栽培が行われたが,結局は失敗したという(《日本後紀》)。しかし鎌倉時代以降には日宋・日元貿易における重要輸入品とされ,15世紀室町時代には日朝貿易における朝鮮側の重要回賜品となった。16世紀の天文年間(1532-55)には日明密貿易による唐木綿の輸入が増え,朝鮮産木綿の輸入にとって代わった。木綿は肌ざわりがよくて暖かく,染色しやすく,じょうぶなこともあって,当初は武家など支配階級の奢侈的衣料とされていたが,戦国時代には兵衣・陣幕・軍旗,さらには鉄砲の火縄用など軍需物資としての性格が強くなった。庶民の間にも普及し,また船舶の藁草帆に代わる布帆として用いられるに至って,船舶の速度や輸送量などに大きな進歩をもたらした。室町・戦国時代には国内での移植・栽培にも成功した。1494年(明応3)のころ,越後上杉家領内には〈ミわた〉が現れ,16世紀には三河木綿商人が伊勢と近江を結ぶ千草街道などを通って,木綿を畿内地方に搬送・売却していた。戦国末期には関東から太平洋・瀬戸内海沿岸地方一帯に栽培が普及し,とくに大和・摂津・河内・和泉・播磨などが特産地として著名となった。17世紀初頭の俳諧書《毛吹草》によると,畿内各国をはじめ濃尾,但馬・丹波が綿の特産地とされ,18世紀には白木綿,嶋木綿,綛糸(かせいと),繰糸,生綿などの特産地が定まった。大坂は綿関係商品の一大集散市場となり,有力綿問屋が活躍した。江戸中・末期には伊勢松坂・河内・摂津産の木綿が上質とされ,関東の結城や桐生の木綿,青梅縞松坂縞,小倉織,尾張の桟留(さんとめ)縞などが有名となり,19世紀には桐生・尾張地方でマニュファクチュア生産も始まった。明治時代には綿糸は海外から輸入されるようになり,明治20年代には機械紡績業が近代化され,織布も紡績会社で行われるようになった。
綿織物 →ワタ
執筆者:

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化学辞典 第2版 「木綿」の解説

木綿
モメン
cotton

Gossypiumなどに属する植物の種子毛繊維である.これは長い綿毛(lint)と短い地毛(fuzz)の2種類よりなる.前者は紡績して綿糸をつくり,おもに衣料に用いる.後者は主としてセルロースエーテル用,キュプラ(銅アンモニア法レーヨン)用のコットンリンター([別用語参照]リンター)として,工業上重要なセルロース原料となっている.綿繊維の第一次細胞膜は7~8 nm の明確なミクロフィブリルからなる環状構造を示し,セルロースを主体成分とするが,ペクチン質,ろう質も存在する.第二次細胞膜も同様に7~8 nm のミクロフィブリルからなり,これは繊維軸に対し,約30°の傾斜角をもつらせん構造を示す.これらの構造が綿繊維にみられる自然より(コンボリューション,約100回/cm)の原因とみられている.第二次細胞膜はさらに多数の同心円状に重なった0.12~0.35 μm 程度の薄膜(ラメラ)からなっている.未漂白の綿繊維は90% 以上のセルロースを含み,エーテル,アルコールで抽出後1% 水酸化ナトリウムで10時間煮沸し,精製すると99.98% 以上のセルロースからなる標準セルロースが得られる.重合度,結晶化度ともに再生セルロースレーヨンに比べてきわめて大きい.

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百科事典マイペディア 「木綿」の意味・わかりやすい解説

木綿【もめん】

綿花から製したセルロース繊維。またこの繊維を紡績・紡織した綿糸綿織物をいう。
→関連項目河内木綿植物繊維

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「木綿」の解説

木綿
ゆう

植物性の繊維で織った布,またはその繊維で作られた幣帛(へいはく)。麻・苧(お)・楮(こうぞ)・科(しな)・藤・葛などが代表的な原料。幣帛や榊(さかき)につけた場合,先に垂れた部分を木綿垂(ゆうしで)とよんだ。神聖視されていたためか幣帛以外にも祭礼・葬儀に用いることが多く,木綿襷(ゆうだすき)・木綿鬘(ゆうかずら)などの衣装にも使った。

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普及版 字通 「木綿」の読み・字形・画数・意味

【木綿】もくめん

もめん。

字通「木」の項目を見る

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動植物名よみかた辞典 普及版 「木綿」の解説

木綿 (キワタ・モメン)

植物。アオイ科の一年草,園芸植物,薬用植物。ワタの別称

木綿 (パンヤ)

植物。パンヤ科の落葉高木。パンヤノキの別称

出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「木綿」の意味・わかりやすい解説

木綿
もめん

綿織物」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の木綿の言及

【織物】より

…しかし,樹皮繊維は堅く粗々しいものであったから,川にさらし,灰汁(あく)で煮,槌でたたいて繊維をほぐすという採糸の苦労があり,いつしか一般的でなくなり,やわらかく,紡ぐことのたやすいチョマやタイマが植物繊維の主要な原料となってきたのである。近代になって化合成繊維が出現するまで,天然繊維の主要なものは植物性の麻と木綿,動物性の絹と毛であった。エジプトでは亜麻と木綿,西アジアでは亜麻と羊毛,ヨーロッパでも亜麻と羊毛,インドでは木綿,中国では麻と絹と木綿,日本では麻と絹というのが,中世までの各地の民族の主として利用してきた繊維である。…

【着物】より

…たとえば白無垢(しろむく)の肌着は四位以上,それも大名は嫡男とかぎられ,熨斗目(のしめ)(腰に横縞または縦横縞のあるもの)は身分ある武士の式服であり,綸子(りんず)は一般武士には許されないなどである。地質(じしつ)の順位は綸子,羽二重(はぶたえ),竜文絹,二子(ふたこ)絹,紬(つむぎ)の順で,以下,麻および木綿となる。農民は特殊なものでないかぎり紬以上を禁じられた。…

【呉陵軒可有】より

…川柳評前句付作者。俳号木綿。号は御了簡可有(あるべし)の口ぐせを,呉服商に当てた戯号。…

【文益漸】より

…朝鮮,高麗末の文臣。朝鮮への木綿の移入者。字は日新。…

【紡績】より

…【近田 淳雄】
[中国の近代以前の紡績]
 繊維材料に手を加え,糸にし,それに撚りをかけることを意味する紡績の語は古くからあり,たとえば《漢書》には〈男子力耕,……女子紡績……〉とある。中国における材料として,絹,葛,麻,木綿,毛などがあげられよう。そのうち生糸にする技術は古くから発達したものである。…

【明】より

小作制度地主 農業経営については,大規模経営もなくはなかったが,通常は小経営であって,大土地所有者の場合も,佃農に貸しつけて小経営をやらせるのが普通であった。また明初は農家に耕地の一部に木綿または桑を植えることを義務づけ,自給自足を奨励したが,流通経済が発展するにつれ,農家もしだいにその中に組み込まれた。地域によってはもっぱら商品的作物を栽培し,食糧は他から購入するといった現象も見られ,明末には肥料を他から購入することも行われた。…

【木綿問屋】より

…近世以降,木綿織物を扱った問屋商人。木綿が日本で織り出されるようになったのは,15世紀末~16世紀中葉といわれるが,江戸時代に入って広く庶民層にまで衣料として利用されたことから,これを扱う商人たちも多くなり,問屋群が集散地に生成した。…

【ワタ(棉∥綿)】より

…昭和の初めまで苧屑類を〈わた〉と呼ぶ地方があったほどである。しかし江戸中期以降木綿綿が普及するにつれて,綿といえば木綿綿を指すようになった。化繊類の綿が著しく普及している現代では,ふたたび〈木綿の綿〉と特記する必要が生じている。…

※「木綿」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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