虚偽の風説(うわさ)を流布し、または偽計を用いて人の業務を妨害する罪(狭義の業務妨害罪。刑法233条後段)、および威力を用いて人の業務を妨害する罪(威力業務妨害罪。刑法234条)をあわせていう。ここに「人」とは、自然人のほか、法人も含まれる。また、「業務」とは、会社、NPO、政党、労働組合などの活動のように、社会生活においてある程度反覆して行う活動をいう。業務上過失における業務とは異なり、個人生活における活動(たとえば家事、自動車のドライブなど)や保護に値しない違法な活動は含まず、また、人の生命、身体に対する危険を伴う必要もない。「妨害」とは、業務が現実に阻害されたこと(結果)を必要とせず、そのおそれ(危険)があれば足りる。
公務員が執行する職務(公務)を暴行または脅迫によって妨害する場合は、刑法第95条1項によって公務執行妨害罪が成立するため、本罪の業務に公務が含まれるかが大きな問題となる。この点につき、かつては、いかなる公務も業務に当たらないとか、逆に、公務はすべて業務に含まれると解する見解があった。しかし、今日の通説・判例は、たとえば警察官の犯人逮捕などのように強制力の行使を伴う「権力的公務」は業務に含まれないが、「非権力的公務」、たとえば、国や自治体の一般事務、国公立学校の校務、国会や地方議会の会議や委員会活動などは含まれると解している。権力的公務の妨害に対しては強制力の行使によって自力で排除しうるから、本罪によって保護する必要がないと考えられたのである。これに対して、権力的公務であっても、風説の流布や偽計によってこれを妨害する場合には、公務執行妨害罪にはあたらないし、強制力の行使によって対処しえないことから、業務妨害罪を適用すべきであるという見解も有力である。
[名和鐵郎]
人の業務を妨害する罪(刑法233条,234条)。刑は3年以下の懲役または50万円以下の罰金。行為の態様は次の類型に分けられる。(1)虚偽のうわさを流したり,偽計を用いること(233条)。たとえば,同業者の商品をけなす虚偽の内容の文書を取引先に郵送することなどが,これにあたる。なお,この方法で人の経済的信用を毀損(きそん)する行為も,業務妨害と同じく処罰される(信用毀損罪,同条)。(2)威力を用いること(威力業務妨害罪。234条)。たとえば,食堂に蛇をまきちらしたり,競馬場の馬場に釘をまいたりするなどの威力を用いる場合など。これらの業務妨害のおそれのある行為が行われれば犯罪は成立し,それによって現実に業務妨害の結果が生ずることは必要でないと解されているが,〈業務を妨害した〉ことを要求する規定の明文に反するとする批判がある。〈業務〉とは,職業その他継続して従事する事務または事業をいうが,公務も含まれるかが問題となる。つまり,公務執行妨害罪の保護客体となる公務も,業務として二重に保護すべきかどうか,ということであるが,業務は,暴行・脅迫のほか,偽計・威力による妨害行為からも保護されるため,当該の公務の性質とも関係して,どの範囲まで公務を業務に含めるかが争われている。なお,業務妨害罪は,労働争議に関係して問題となることが多いが,争議行為として正当と認められる範囲内にとどまる限りにおいては,犯罪とはならない(労働組合法1条2項,刑法35条)。
執筆者:山口 厚
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