債権者に対して債務を弁済した者が,一定の法律上の理由にもとづいて他の者に対し,その者が負担すべき部分の返還を請求する権利をいう。求償権は民法上いろいろの場合に生じる。たとえば,連帯債務者の一人あるいは保証人が債権者に対して弁済し,それによって他の連帯債務者あるいは主たる債務者が債務を免れた場合,弁済した連帯債務者は他の連帯債務者に対しその者の負担すべき部分につき求償権を有し(民法442条),保証人は主たる債務者に対して求償権を有する(459条以下)。また,不法行為の場合に,共同不法行為者(719条)の一人が損害賠償義務を履行すれば,他の共同不法行為者に対してその者の負担すべき部分につき求償権を有し,使用者責任の場合には,使用者が損害賠償義務を履行すれば被用者に対して求償権を有する(715条3項)。同じく,土地の工作物の設置・保存の瑕疵(かし)にもとづき責任(工作物責任)を負った工作物の占有者または所有者が損害賠償義務を履行した場合において,損害の原因につき他に責任を負うべき者があるときには,その者に求償権を有する(717条3項)。このように,民法上求償権を生じる場合はいろいろあるが,その法律上の根拠は,ことがらによって異なり,一概に論じることはできない。
執筆者:淡路 剛久
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
他人のために債務を弁済した者が、その他人に対して、返還または弁済を求めることを内容とする返還請求権をいう。たとえば、連帯債務者の1人、保証人、物上保証人などが債務を弁済した場合に、他の連帯債務者がそれによって債務を免れたとき、その分について返還を求める場合(民法442条・459条・460条・465条・351条・372条)などである。そのほか、他人の行為によって損害賠償を負う者がその他人に対して弁済を求める場合(たとえば被用者の行為によって使用者が賠償義務を負担する場合―民法715条3項、ほかに477条・717条3項、国家賠償法1条2項・2条2項・3条2項)や、債務の弁済によって不当利得を生じた場合(民法481条2項・707条2項)の返還請求などについても求償(権)の語が用いられる。なお、他人のために損害を受けた者が、その賠償を請求することを求償という場合もある(民法934条2項・947条3項)。
[川井 健]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…適用例としては,道路が圧倒的に多いが,最近では水害など河川関係も注目を集めている。なお国家賠償法は,真の損害発生原因者が他にある場合には,〈国〉は支払った賠償金をその者に請求することを認めている(求償権。1条2項,2条2項,3条2項)。…
…たとえば,保証人に対して債権譲渡の対抗要件たる通知をしても主たる債務者に通知したことにはならないし,保証人が債務の承認をしても主たる債務の時効を中断しない。
[保証人の求償権]
保証人は,債権者との関係では自分の債務(保証債務)を弁済するものであるが,主たる債務者との関係ではその者の債務を弁済する実質を有するから,保証債務を履行した場合には,主たる債務者に対してその分の返還を求める(求償する)ことができる。これを保証人の求償権という。…
※「求償権」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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