日本大百科全書(ニッポニカ) 「泡蒼鉛」の意味・わかりやすい解説
泡蒼鉛
あわそうえん
bismutite
泡蒼鉛系鉱物の一つ。蒼鉛(ビスマス(Bi))の無水炭酸塩で、Bi2[O2|CO3]の化学式が示すように、炭酸塩鉱物ではあるが、過剰の蒼鉛と酸素を含む。成因的にはBi3+(三価ビスマス)を含む溶液が空気中や坑内水中のCO2を吸収固定して生成されることもあるとされている。事実ほとんど炭酸塩を含まない鉱床からの産出も多くみられる。化学的にはビスムチルbismutyl(化学式(BiO)1+)の炭酸塩とみなすこともできるので、(BiO)2[CO3]と表現することも可能であるが、系統分類上では、ビスマス(Bi)をカルシウム(Ca)で置換したバイエル石があるので、鉱物学的にはこの式は採用されていない。自形は顕微鏡的なもの(顕微鏡で観察できる程度のサイズの結晶)で、まれであるが、正方板状をなす。繊維状結晶が放射状集合をつくり、さらにこれが皮膜をなすものも知られているが、本来の形態かどうか疑わしい。通常は土状あるいは皮膜状。やや緻密(ちみつ)塊状のものもある。
日本では気成鉱脈鉱床や花崗(かこう)岩質ペグマタイトから産する自然蒼鉛の周囲に二次的に生成されたものが多く、岐阜県中津川(なかつがわ)市恵比寿(えびす)鉱山(閉山)では比較的粗粒の石英脈中に自然蒼鉛を取り囲んでザバリツキー石、さらに泡蒼鉛の順に生成されているのがみられる。同定には色がもっともよい決め手となる。皮膜の場合は淡黄色のものが多く、厚味が増すと黄色以外の色調が入ってくる。日本ではあまり例がないが、蒼鉛の硫化物や硫塩鉱物を置き換えて仮晶を成すもののなかには、原鉱物の微粒を含むため灰色になっているものもある。酸で溶解され発泡する。名称は主成分である蒼鉛にちなむ。和名は、最初にドイツ語で記載された1805年当時の名が「酸で気体を出す蒼鉛化合物」とあったことによるといわれる。
[加藤 昭 2015年12月14日]