洞窟や岩陰,石灰岩の割れ目などを利用した遺跡の総称。洞穴(どうけつ)遺跡ともいい,岩陰のものは岩陰遺跡と呼ぶこともある。これらには,洞窟外から骨や人工遺物が二次的に流入,堆積した例を含む場合がある。洞窟内には,人間の生活廃棄物や自然の堆積物によって多数の層序が形成され,人為や自然による攪乱(かくらん)から比較的免れやすく,層序によって文化の新旧を編年するのに便利である。また石灰岩洞窟(石灰洞)では人骨や動物遺体,あるいは骨・牙器など腐朽しやすい有機質の遺物がよく保存されるなど,考古学上の研究にとって貴重である。
住居としての洞窟の利用は,ヨーロッパの中期旧石器時代から確認できるが,とくに後期旧石器時代に盛行し,洞窟奥は呪術的な場として,その壁面に線刻や彩色画が施されたりした(洞窟美術)。日本の旧石器時代では,長崎県の福井洞穴のほかに洞窟遺跡例はまれである。やがて縄文時代初頭の草創期には,新潟県小瀬ヶ沢洞穴例など利用が頻繁となるが,早期以降には季節的あるいは短期間のキャンプ地や埋葬の場などとされ,定住的な根拠地とはならなかった。さらに弥生時代の東日本には,崖葬墓や三浦半島の毘沙門洞穴などの漁労基地例などがあり,古墳時代には和歌山県田辺市の磯間洞穴や長野県上田市の旧丸子町の鳥羽山洞穴などの埋葬例が知られている。
執筆者:小林 達雄
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岩壁が自然の侵食作用によってえぐられてできたトンネル状のほらあなの中に、人間が利用した痕跡(こんせき)をとどめる遺跡。人工的に岩壁をくりぬいたものを洞窟とよぶこともあるが、一般には前記をさす。同意語に洞穴(どうけつ)があるが、使用法に差はない。内部の温度はほぼ一定し、夏涼しく冬暖かい。また風雨降雪を避けられ、多少の湿気と暗さがあっても非常に快適な生活環境にあったため、しばしば古代人に利用された。石灰岩の洞窟は砂岩洞窟などと異なって落盤が少なく、安定しているためかよく活用された。窟内は、遺構と出土遺物の状態から、(1)入口付近は炉址(ろし)や遺物が多く、日常生活の場とされ、(2)すこし奥まった部分では大形品が出土し、貯蔵や人骨埋葬が行われ、(3)一段と深い暗い場所には壁画が描かれ、呪術(じゅじゅつ)信仰の聖場として使用されたことなどがわかる。
最古の人類である南アフリカのアウストラロピテクスから洞窟利用が始まり、後期旧石器時代になって一般化した。南フランスのドルドーニュ地方からスペインにかけては比較的濃い分布を示し、ラスコーやアルタミラなどはりっぱな壁画を多く残していることで有名である。また北アフリカのリビアからパレスチナ、イラク、マレーシア、中国、シベリアまで広く分布がみられる。とくに中国の周口店(しゅうこうてん/チョウコウティエン)は北京(ペキン)原人の発見で知られる。日本の場合は規模外形が小さいが、後期旧石器時代から縄文時代草創期に多く、以後しだいに少なくなり、断続的に歴史時代まで使われた。富山県の大境(おおざかい)洞窟、島根県の猪目(いのめ)洞窟、サルガ鼻(はな)洞窟、長崎県の泉福寺(せんぷくじ)洞穴、高知県の龍河洞(りゅうがどう)などの各遺跡がよく知られる。
[麻生 優]
『日本考古学協会洞穴調査委員会編『日本の洞穴遺跡』(1967・平凡社)』
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