航路,泊地,取水路,排水路および流水路などの建設または土地の造成,海底土質の改良,土砂の採取などを目的として行われる水底土砂の掘削作業。海底油田,構造物の基礎などをつくる際に行われる水底の掘削とは異なる。浚渫によって,河川,用水路では流水の疎通がよくなり,貯水池では貯水能力が増加し,港湾では喫水の大きい船を安全に航行,停泊させることができ,さらに浚渫に伴う排土を埋立てに利用することによって土地の造成費を安くすることが可能となる(埋立て)。ただし排土の処理が困難な場合には浚渫も容易にはできず,ダムに堆積した土砂の浚渫が,貯水容量を増加させることはわかっていてもなかなか実施されないのは排土の処理に問題があるためである。
浚渫は,スコップのような形状をしたディッパーやそれを多数連結したバケット,つかみ器の形をしたグラブ,あるいは吸取型のドラグ,またはポンプを備えつけた作業船で行うことが多い。これらの作業船を浚渫船といい,掘削する土質に適合した船種,船型が選ばれる。
水路の確保,土砂の採取の必要から浚渫は昔から行われていたが,機械力が期待できなかった時代には大規模な浚渫は不可能であった。日本で機械力による西洋式の浚渫が行われたのは,1870年(明治3)における神戸港の船だまり,大阪安治川河口が初めてである。安治川河口では,オランダ製のバケット式浚渫機2台を使用して,浅くなった河口の浚渫が行われ,これを契機として,日本の主要な河川,河口でも浚渫工事が実施されるようになり,洪水防御,舟運に役だった。このような工事を河川では低水工事といい,96年の河川法制定以来,高水工事に方針が変わるまで河川では浚渫はたいせつな工事であった。大正期以降は船の大型化に伴う泊地や航路の水深の増加の必要と,臨海工業用地造成の大量の土砂の供給を行うため,ポンプ式の浚渫船が多く用いられるようになった。とくに,土砂を掘り起こすカッターを備えたポンプ船は砂質土砂に適しており,第2次世界大戦後は,大規模コンビナートの用地を,大水深の港湾修築と同時に造成することによって,経済の高度成長に大きく寄与したといわれる。
浚渫および埋立ての際の排土によって,周囲の水域に濁りのでることも多く,また重金属を含む海底土砂の除去のための浚渫では,排土の際の汚染も問題となる。このため,これらを防止するための機械および施工法の改良,監視システムの開発が行われている。
執筆者:長尾 義三
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…金やスズ石,あるいはチタン鉄鉱(イルメナイト)など,溶けにくく,比重の大きい鉱物を含むものが多く,その採掘には独特な方法が行われる。河川敷や海浜などでは浚渫(しゆんせつ)船(採金船)によるドレッジングdredgingが,丘陵地などでは高圧ジェット水による切崩しと水流を利用した分別をする方法などが行われる。鍋状の大きな皿を用いる椀掛け(わんがけ)と呼ばれる方法で,砂金や宝石などをより分ける古くからの方法も,一部の地方では今なお行われている。…
…しかし,一般に中世,近世では,河口デルタにおける新田開発のための干拓に重点が置かれ,埋立てが本格的に行われるようになったのは明治以降のことである。
[埋立ての方法]
埋立てにはその場所の条件によって種々の方法が用いられるが,もっとも一般的にはポンプ船による浚渫(しゆんせつ)を利用する。これはポンプ船によって水といっしょに吸い上げた水底の土砂を排送管で埋立地まで送り込み,水は予定埋立地のまわりに造られた仮護岸から排水するようにして土砂を沈殿させて埋立地を造成するもので,土地の造成とともに航路,泊地などの水深の確保も同時に行える。…
…しかし,自然の地形のままでは使いにくいので,高いところを掘削,切土し,その土砂を運搬し,低いところに盛土し,整地して人間が使いやすい平らな用地として整備することが必要となる。このようにして用地を得ることを土地造成といい,このうち水底の土砂の掘削を浚渫(しゆんせつ),水面・湿地帯の盛土を埋立て,また,湿地や干満差のある遠浅の海を堤防で締め切り水位を下げて土地とすることを干拓という。 土地造成は,その用途を明確にして安い費用で使いやすいように仕上げることが必要である。…
※「浚渫」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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