生物が一生の間に環境の影響によって得た形質のことで,その生物が遺伝的にそなえている形質(先天性形質)に対して後天性形質ともいう。端的な例をあげれば,トレーニングによってきたえられた筋肉とか,本来草丈の高い植物が高山に芽生えたために矮性(わいせい)化したとかである。獲得形質が遺伝するかどうかをめぐる論争の歴史は古い。ギリシア時代のヒッポクラテスやアリストテレスもこれに関連した議論をしている。下って18~19世紀のJ.B.deラマルクは彼の進化論を展開するにあたって獲得形質遺伝を肯定していて,キリンの首が長い理由を説明する際に採用した用不用説(使用する器官は発達し,不使用器官は退化する)は有名である。19世紀のC.ダーウィンやE.H.ヘッケルも肯定的立場にあった。とくにダーウィンは彼の遺伝理論パンゲン説を論ずる中でそのことを述べている。これに対して獲得形質遺伝を否定するものも19世紀末から20世紀にかけ盛んにみられ,ドイツのA.ワイスマンはその代表格である。彼は生殖質連続説を提唱,次代を構成する生殖細胞以外,すなわち体細胞が受けた環境の影響は遺伝とは無関係であることを主張した(1885)。ネズミの尾を何代もくりかえし切っても変化がないとも述べている。1903年W.L.ヨハンセンにより純系説が提出されると否定派の方が有力となっていくが,なお実験的に肯定的証拠を提出する研究者がみられた。その中でも有名なのがカンメラーP.Kammererであり,彼によるサンショウウオの色彩・斑紋変化に関する研究である(1913)。しかし,その後,これらの証拠は実験的誤りに基づくものか,他の解釈可能なものとして扱われた。1930年代後半になり,ソ連ではT.D.ルイセンコが登場し,環境を重視する考えから獲得形質遺伝を肯定,その証拠として接木雑種がとりあげられた。今日,分子レベルで遺伝情報伝達のしくみが明らかにされ,この接木雑種も含め,獲得形質の問題は分子レベルで解釈しようという動きがみられる。
執筆者:鈴木 善次
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(垂水雄二 科学ジャーナリスト / 2007年)
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