申す(読み)モウス

デジタル大辞泉 「申す」の意味・読み・例文・類語

もう・す〔まうす〕【申す】

[動サ五(四)]《「まおす」の音変化》
主として会話に用い、聞き手に対し、「言う」を改まって丁重に表現する丁寧語
㋐「言う」対象が聞き手(または尊者)の場合には、対象を敬う気持ちも残るが、現在、対象を敬う謙譲語は「申し上げる」である。「昨日、先生に―・したとおりです」
㋑単に「言う」を改まり丁重にいう場合。この場合にも、謙譲の気持ちは残るので、敬うべき人の動作には用いない。現在、「先生が申された」のような言い方は適切でないとされる。「父がこのように―・しております」「私は鈴木と―・します」「一口に日本と―・しましても」
1のへりくだる気持ちが失せて、「言う」を改まり重々しくいう。「そうは―・しておらん」
動作の対象を敬う謙譲語。
㋐「言う」の謙譲語。申し上げる。古くは、改まって言上する場合に多く用いられた。
「(帝ニ)おきなのありさま―・して」〈竹取
神仏朝廷などにお願い申し上げる。また、所望申し上げる。
「母君の御行くへを知らむと、よろづの神仏に―・して」〈玉鬘
「いけずき(=馬ノ名)を―・さばやとは思へども」〈平家・九〉
㋒その人の名前・官位などを、人々が…と申し上げる。
田邑たむらの帝と―・す帝おはしましけり」〈伊勢・七七〉
㋓「する」「なす」の謙譲語。…してさしあげる。「御助勢を―・しましょう」
「路次でお茶なりと―・さう物を」〈虎明狂・餅酒
補助動詞)動詞の連用形現代語では「お」などを冠した動詞の連用形や動作をいう名詞に付いて、謙譲の意を表す。「お送り―・します」「御相伴―・します」
「文覚が流さるる国へ迎へ―・さんずるものを」〈平家一二
[可能]もうせる
[類語](1)(2)(3㋐)申し上げる啓する奏する言う話すしゃべる語る述べる発言する口を利く口に出す口にする吐く漏らす口走る抜かすほざくうそぶく言い出すおっしゃる仰せられるのたま言上ごんじょうするしゃべくる物言う伝える告げる物語る打ち明ける明かす説明する述懐する告白する口外こうがいする他言たごんする言い出す言い掛ける言い始める言い話し込む話しかける口に上る口の端に掛かる口を開く口を切る申し述べる

ま・す【申す】

[動サ四]動詞「もうす」の音変化。または、「う」の無表記か。
「一の御子敦仁の親王と―・しけるぞ」〈栄花・月の宴〉
「世を忍ぶお身なれば一所には置き―・されず」〈浄・手習鑑

まお・す〔まをす〕【申す】

[動サ四]もうす」の古形
「たらちねの母に―・して時も過ぎ月も経ぬれば」〈・三六八八〉
「天飛ぶや鳥にもがもや都まで送り―・して飛び帰るもの」〈・八七六〉

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「申す」の意味・読み・例文・類語

もう・すまうす【申】

  1. 〘 他動詞 サ行五(四) 〙 ( 上代は「まをす」。上代末ごろから、それの変化した「まうす」の形が現われた )
  2. [ 一 ]
    1. 「言う」の謙譲語で、言う対象を敬う。申しあげる。言上する。元来は、自己に対し支配力を持つものへ、実状をうちあけて申しあげる気持が強く、公式に言上する場合や改まって申しあげる場合に多く用いられた。
      1. [初出の実例]「山城の 筒木の宮に 物麻袁須(マヲス) 吾が兄(せ)の君は 涙ぐましも」(出典古事記(712)下・歌謡)
    2. 特に、政務について奏上する。政治をとり行なう。→申し給う
      1. [初出の実例]「古へに君の三代経て仕へけり吾が大主(おほぬし)は七世申(まをさ)ね」(出典:万葉集(8C後)一九・四二五六)
    3. (神仏や朝廷など支配者に)お願い申しあげる。所望申しあげる。
      1. [初出の実例]「神祇を敬祭、天皇の息(みこ)を求(まう)して」(出典:日本書紀(720)継体元年二月)
    4. その人の名前などを人々が…と申しあげる。
      1. [初出の実例]「又こと所にかぐや姫と申人ぞおはしますらん」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
    5. 「なす」「する」の謙譲語で、その動作の対象を敬う。上位者のためにある動作をしてさしあげる。奉仕する。また、物などをさしあげる。接頭語「お」「ご」などの付いた自己の動作を表わす名詞に付くこともある。
      1. [初出の実例]「堀江より水脈(みを)引きしつつ御船さす賤男(しづを)のともは川の瀬麻宇勢(マウセ)」(出典:万葉集(8C後)一八・四〇六一)
      2. 「御むしんながらま一度お尋申たい」(出典:浄瑠璃・心中天の網島(1720)下)
    6. 主として、かしこまり改まった気持での対話や消息勅撰集などの詞書を含む)に用い、「言う」をへりくだり、あるいは丁重に表現する。申します。
      1. [初出の実例]「これかれ女のもとにまかりて物いひなどしけるに、女の、あなさむの風やと申しければ」(出典:後撰和歌集(951‐953頃)雑二・一一五七・詞書)
    7. を地の文に用いて、「言う」の改まった表現、堅い物の言いかたにする。
      1. [初出の実例]「囲碁・双六好みてあかしくらす人は〈略〉と或ひじりの申し事、耳にとどまりて、いみじく覚え侍る」(出典:徒然草(1331頃)一一一)
    8. 「…と申す」の形で数量を表わす語を受けて、順序を表わす。…番目の。…という。
      1. [初出の実例]「かくて二とせと申ける三月十四日の暁に」(出典:撰集抄(1250頃)一)
  3. [ 二 ] 補助動詞として用いる。
    1. 動詞の連用形に付いて、その動作を奉仕する意を添えたり、その動作の対象を敬う意を添えたりする。…申しあげる。
      1. [初出の実例]「天飛ぶや鳥にもがもや都まで送り摩遠志(マヲシ)て飛び帰るもの」(出典:万葉集(8C後)五・八七六)
    2. 動詞の連用形に付いて、改まった気持で丁寧に、また、堅苦しく言うのに用いる。
      1. [初出の実例]「ただいまときたてひろめ申候ほんちは」(出典:説経節・説経苅萱(1631)上)

申すの語誌

[ 二 ]の補助動詞としての用法は、中世においては、「奉る」「参らす」とともに多く用いられた。近世前期上方では、武士ことばであったが、丁寧語としての「申す」は東国方言として意識されていたらしい。幕末には衰退し、それと入れかわりに、「お…いたす」が多く用いられるようになった。


ま・す【申】

  1. 〘 自動詞 サ行四段活用 〙 ( 「もうす」の変化したもの ) もうす。もうし上げる。
    1. [初出の実例]「官に末之(マシ)たまはむ」(出典:北白川宮御所蔵文書‐貞観九年(867)二月一六日・讚岐国司解)

まお・すまをす【申】

  1. 〘 他動詞 サ行四段活用 〙もうす(申)

まを・す【申】

  1. 〘 他動詞 サ行四段活用 〙もうす(申)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

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