家庭医学館 の解説
だんせいせいきのしくみとはたらき【男性性器のしくみとはたらき】
男性性器は、睾丸(こうがん)、陰茎(いんけい)など、からだの外から見える外性器(がいせいき)と、骨盤(こつばん)の中にある精嚢(せいのう)、前立腺(ぜんりつせん)などの内性器(ないせいき)から成り立っています。
睾丸は、精子(せいし)をつくるとともに、男性ホルモンをつくり出す男性の生殖腺(せいしょくせん)です。内性器は、精子の成熟、輸送、貯蔵にかかわる一連の器官であり、陰茎は、勃起(ぼっき)して女性の腟内(ちつない)に挿入され、精子を射出(射精)するための交接器官です。
●睾丸(こうがん)のしくみとはたらき
●副睾丸(ふくこうがん)のしくみとはたらき
●精管(せいかん)のしくみとはたらき
●陰嚢(いんのう)のしくみとはたらき
●精嚢(せいのう)のしくみとはたらき
●前立腺(ぜんりつせん)のしくみとはたらき
●陰茎(いんけい)のしくみとはたらき
●睾丸(こうがん)のしくみとはたらき
睾丸(精巣(せいそう))は左右一対、陰嚢(いんのう)の中にあり、成人では、大きさはほぼ鳩卵大(きゅうらんだい)で、容積は12~20mℓくらいです。弾力性があり、陰嚢内である程度自由に動いて、圧迫されると不快な痛みを感じます。
睾丸は、白膜(はくまく)という厚い被膜におおわれていて、その内部にはやわらかな睾丸実質(こうがんじっしつ)が入っています。
睾丸実質は、200~300個の小さな組織(小葉(しょうよう))に分かれていて、各小葉には、精細管(せいさいかん)という、精子がつくられ、集められる管(くだ)が曲がりくねって充満しています。
精細管の断面には、基底膜(きていまく)という薄い壁に沿って数層、精子になる細胞が重なり合ってならんでいます。壁に近いほうが未熟な細胞で、段階的に成熟し、精子として内腔(ないくう)に放出されます。
このような生殖細胞の間に、精細管の形を保ち、精子の成熟と放出を助けるセルトリ細胞があります。
精細管と精細管の間には、男性ホルモンをつくり出す間質(かんしつ)細胞(ライデッヒ細胞)が散在しています。ここで合成された男性ホルモンは、精索静脈(せいさくじょうみゃく)に集められ、全身に送り出されます。
●副睾丸(ふくこうがん)のしくみとはたらき
副睾丸(精巣上体(せいそうじょうたい))は、睾丸のまわりに付着している器官で、睾丸でつくられた精子を成熟させ、輸送するはたらきがあります。
副睾丸には、精管に続く副睾丸管(ふくこうがんかん)が通っています。睾丸に付着した上方から頭部、体部、尾部と呼ばれ、その先が精管となっています。
副睾丸は、結核菌(けっかくきん)などの細菌により副睾丸炎(「急性副睾丸炎(急性精巣上体炎)」)をおこすことがあり、その後遺症によって精子が通りにくくなると、不妊症の原因になります。
●精管(せいかん)のしくみとはたらき
精管は、副睾丸の尾部に続いて陰嚢内を上がり、睾丸の血管(精索動静脈(せいさくどうじょうみゃく))と一束になって精索を形成し、鼠径管(そけいかん)を上がって下腹部に入ります。
鼠径管を出た精管は、膀胱(ぼうこう)の側後面から精嚢(せいのう)のほうに向かい、太く膨らんで精管膨大部(せいかんぼうだいぶ)となります。
精管膨大部と精嚢の下端は合わさって1本の射精管となり、前立腺の中を通るところで尿道に合流します。
精管は、陰嚢の根もとをさぐると、かたいひものようなものとして触れることができます。男性避妊手術の精管結紮術(せいかんけっさつじゅつ)は、ここで精管を切断し、精子の通過を阻止する手術です。
また、精索がよじれて睾丸に流入・流出する血行が妨げられると、激痛とともに睾丸が腫(は)れてきます。これを睾丸捻転(こうがんねんてん)(精索捻転(せいさくねんてん)ともいう。(「睾丸捻転症(精巣捻転症/睾丸回転症)」))といい、思春期前期の少年に突然おこる病気です。
また、精索の静脈にうっ血(けつ)が生じ、陰嚢のつけ根にやわらかなかたまりを触れることがあります。これを精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)(「精索静脈瘤」)といい、男性不妊症の原因の1つとされています。
●陰嚢(いんのう)のしくみとはたらき
陰嚢は、睾丸、副睾丸など陰嚢内の臓器をおおう皮膚で、成人では恥毛(ちもう)が生え、メラニン色素が多いため黒ずんでいます。
陰嚢の皮膚には皮下脂肪がなく、薄くてよく伸び、その下に張った肉のような膜の収縮によって、しわができています。その表面は、寒さや緊張によって収縮し、暖かくなるとゆるみ、ラジエーターのような役割をはたしています。精子をつくるはたらきは高温で障害を受けるので、睾丸の温度を体温より低く保っているのです。
●精嚢(せいのう)のしくみとはたらき
精嚢は、膀胱の裏側に付着した一対の5cmほどの細長い臓器で、精管膨大部と合流して射精管となります。
精嚢は、精子に活動エネルギーを与え、精液の成分となる精嚢液を分泌(ぶんぴつ)するとともに、精子を貯蔵する器官と考えられています。
●前立腺(ぜんりつせん)のしくみとはたらき
前立腺は、クリの実をさかさにしたような形をした、弾力性のある臓器で、膀胱の出口(内尿道口(ないにょうどうこう))と尿道の開閉をコントロールする尿道括約筋(にょうどうかつやくきん)の間にあり、尿道を囲んでいます。成人では、クルミの実ほどの大きさです。
前立腺の裏側は、直腸(ちょくちょう)に指を入れると触れることができるので、泌尿器科(ひにょうきか)では、前立腺の状態をみるとき、肛門(こうもん)から指を入れる直腸診(ちょくちょうしん)を行ないます。
前立腺は、精子に栄養を与える前立腺液を分泌します。精液の大部分は、この前立腺液です。
前立腺は、良性の肥大(前立腺肥大症(ぜんりつせんひだいしょう)(「前立腺肥大症」))のほか、悪性腫瘍(あくせいしゅよう)(前立腺がん(「前立腺がん」))、炎症(前立腺炎(「急性前立腺炎」))などの病気がおこることがあります。この場合、いずれも大きくなった前立腺が、膀胱の出口をせばめるので、排尿困難が生じてきます。
●陰茎(いんけい)のしくみとはたらき
陰茎は、左右一対の陰茎海綿体(いんけいかいめんたい)(図「男性性器の構造」には1本しか描いてありません)と、その中を通る尿道からできています。
陰茎の大きさは、日本人では、勃起していないときで平均8cmくらいです。
陰茎海綿体は、左右それぞれ強靱(きょうじん)で弾力性のある白膜という膜に包まれています。膜の中は多数の血管が入り組んでおり、海綿のような構造になっています。
尿道の周囲は尿道海綿体におおわれていて、尿道海綿体の先端はキノコのカサのような形になっています。この部分を亀頭(きとう)といいます。
陰茎は、包皮(ほうひ)という皮膚でゆるやかにおおわれていますが、亀頭は成人では露出しているのがふつうです。
亀頭が包皮におおわれた状態を包茎(ほうけい)(「包茎」)といい、包皮をまったく反転できない状態を真性包茎(しんせいほうけい)、反転はできても平常は包皮におおわれている状態を仮性包茎といいます。
陰茎海綿体の血管に血液が充満し、陰茎が膨張してかたくなった状態が勃起(ぼっき)です。勃起は、性的な刺激が大脳皮質(だいのうひしつ)に伝わり、それが自律神経(じりつしんけい)の反射をひきおこして、陰茎動脈から多量の血液が陰茎海綿体の中に流れ込み、同時に陰茎静脈の中の弁が閉じて血液が充満することでおこります。
性的刺激が脊髄(せきずい)の副交感神経の反射をひきおこすことにより、性的絶頂感(オーガズム)をともなって射精管から精液が尿道の奥に射出されます。これが尿道を通って陰茎の先の外尿道口から放出される現象が、射精(しゃせい)です。
性的興奮がおさまると、陰茎海綿体の動脈がゆるみ、流入血液が減少します。同時に静脈の弁が開いて、充満していた血液が海綿体から流出することにより、勃起がおさまります。
勃起がうまくできない状態をインポテンス(「インポテンス(ED/勃起障害)」)といい、また、性的興奮がないのに長時間勃起が続く状態を持続勃起症といいます。