畜舎(読み)ちくしゃ(英語表記)barn

翻訳|barn

精選版 日本国語大辞典 「畜舎」の意味・読み・例文・類語

ちく‐しゃ【畜舎】

〘名〙 家畜を飼養する建物
日蝕(1948)〈石上玄一郎〉五「家畜のゐない畜舎の間を歩き廻って」

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デジタル大辞泉 「畜舎」の意味・読み・例文・類語

ちく‐しゃ【畜舎】

家畜を飼育するための建物。

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改訂新版 世界大百科事典 「畜舎」の意味・わかりやすい解説

畜舎 (ちくしゃ)
barn

家畜を収容して飼育するための建物。1945年ころまでの日本において,牛馬は主として役畜として飼育されており,飼育規模はひじょうに零細であった。したがって,当時は畜舎というよりもむしろ牛小屋馬小屋などと呼ぶにふさわしいものであった。また,ウマが中心に飼われていたので厩舎(きゆうしや)とも呼ばれた。しかしながら第2次大戦後,乳,肉,卵などの生産物を得るための用畜の飼育が盛んになり,さらに1960年ころからは農業基本法や高度経済成長の影響で急速にウシ,ブタ,ニワトリなどの飼育頭羽数が増加し,規模拡大が進展した。このため一経営体でより多くの家畜を能率よく合理的に飼育するために,機械化,装置化の進んだ近代的な畜舎が用いられるようになった。

今日使用されている畜舎には,次の五つの要件が求められている。(1)作業性 家畜を能率よく飼育管理するために,畜舎は作業者の作業所要時間,移動距離および疲労などをなるべく少なくするよう考慮する。すなわち,建物を合理的に配置し,各部を使いやすい構造とし,省力的な機械の導入によって作業性の向上をはかる。(2)快適性 家畜の健康および高い生産性を維持するために,畜舎は舎内の気温,湿度,気流,放射熱,有害ガス濃度および塵埃(じんあい)などの環境条件を適正に保持するよう考慮する。すなわち,適切な採光,遮光,通風,遮風,断熱および換気を行い,飼育環境の改善をはかる。(3)経済性 健全な畜産経営を継続するために,畜舎は建築費が適正でなければならない。すなわち,償却費が利益よりも大きくなるような過剰投資をさけ,投資効果などの経済性を考慮する。(4)安全性 地震,風,雪などの自然災害を防止するため,畜舎は建築物として必要な強度をもたなければならない。(5)社会性 家畜および糞尿(ふんによう)などによって起こる騒音,悪臭および水質汚濁などの公害を防止するよう配慮しなければならない。これらの要件は相互に関連が深くまた対立する面もあり,とくに経済性は他の要求と相反する性格をもっている。たとえば,作業能率を高めるために機械化するほど,また飼育環境をよくするために環境制御を完全に行うほど,安全性を高めるために強度を増すほど,および無公害化を強めて社会性を強調するほど,いずれも建築コストが上がり,経済性は悪化する。畜産経営はあくまで利益を追求しなければならないので,実際には立地条件,経営方針および管理方式などを考慮して,どれを優先させるかを決め,その経営に即した畜舎とするのが普通である。

畜舎には分類の基準により次の種類がある。(1)収容家畜の種類による分類 牛舎豚舎鶏舎,厩舎,ヤギ舎など。(2)生産目的による分類 搾乳牛舎(牛乳),肥育牛舎(牛肉),肥育豚舎(豚肉),肉鶏舎またはブロイラー舎(鶏肉),採卵鶏舎(鶏卵),繁殖牛舎(子牛),繁殖豚舎(子豚),種鶏舎(種卵),種雄牛舎または種雄豚舎(精液),育雛(いくすう)舎または哺育・育成舎など。(3)家畜の収容方式による分類 ウシの収容方式には係留して収容するつなぎ飼い式と,ある大きさの囲いの中に放して収容する飼い方がある。囲いが小さい場合は牛房(ペン)式または追込式などといい,大きい場合を普通放飼い式という。つなぎ飼い式で飼う方式の牛舎をつなぎ飼い式牛舎,係留式牛舎,スタンチョンバーンstanchion barnまたはストールバーンstall barnといい,牛房式の場合を牛房式牛舎またはペンバーンpen barn,放飼い式を放飼い式牛舎,解放式牛舎またはルースバーンloose barnという。ブタの収容方式には小区画の囲いの中で飼う豚房式と籠またはおり状のケージという容器で飼うケージ飼育の方法がある。ニワトリの収容方式には床の上で放飼いする平面飼育式とケージやバタリーbatteryを利用して立体的に飼育する立体飼育式とがある。ウマの収容にはほとんどの場合馬房を用いており,厩舎は馬房式が普通である。(4)壁体構造による分類 畜舎の開口部を少なくし,保温性を高めた寒冷地向きの閉鎖型畜舎と,開口部を広くして通風の促進をはかった暖地向きの開放型畜舎および冬季に壁板や戸を取り付けられるようにした折衷型畜舎がある。閉鎖型は気密性がよいため,温度や湿度の調節がしやすく,とくに窓のない密閉型のウィンドレス畜舎は光線の調節も可能である。(5)屋根型による分類 畜舎の外観を印象的に示す屋根型の名称によって分類することもあり,切妻型,腰折れ型,モニター型,セミモニター型,かまぼこ型などが多く用いられている。(6)床構造による分類 平床,すのこ床,傾斜床などの畜舎がある。このほか,建築材料や建築構法による分類もある。以上のように畜舎は種々の基準で分類しうるが,畜舎の実態を明示するためには単一な分類法によらず,たとえば開放型,すのこ床,豚房式豚舎のように,分類を重複させてよぶのが普通である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「畜舎」の意味・わかりやすい解説

畜舎
ちくしゃ

家畜を収容し飼育する建物で、いろいろな付属施設と組になって、畜舎としての機能を果たす。畜舎は家畜の種類別に飼育目的に応じた構造を備えているが、一般に環境性、作業性、経済性、安全性および社会性の諸要件を満たす必要がある。畜産経営は家畜の生産性に依存するので、できるだけ各家畜に適した環境を備え、自然災害や危険から家畜を守ってその安全性を確保し、家畜の排出物の処理や騒音防止に留意して周辺環境への悪影響を防止した畜舎が望ましい。またこれらの諸管理が効率よくできる作業性を重視した構造と施設の配置されたものでなければならない。しかし、以上の諸要件を満たすためには過大な建設費を投資することになり、利益の低下を招くので、一般には家畜の生産性に大きな影響を及ぼさない許容範囲内(生産環境限界)で、経済性を考慮した畜舎が建てられる。具体的には暑熱、寒冷および有害物から家畜を守るために、日射制御、通風と遮風、換気、除塵(じょじん)と消毒に留意する。家畜の種類別に牛舎、豚舎、鶏舎などがあり、種別目的に応じて、さらに細分化する。

 牛舎は、品種、性別、発育段階および生産目的により、乳牛舎、肉牛舎、種雄牛舎、哺育(ほいく)・育成牛舎、搾乳牛舎、繁殖牛舎に区別され、それぞれ独立に建てる場合と、2種以上を一棟にまとめる場合とがある。その収容方式により、つなぎ飼い式、小さい囲いに放つ牛房式(追い込み式)、広い囲いに放す放し飼い式(解放式)牛舎の別がある。搾乳牛舎はスタンチョンストールとよばれる首かせを用いたつなぎ飼い方式が一般的で、肉牛は追い込み方式で飼われる。

 豚舎は、目的によって肥育豚舎、繁殖豚舎、繁殖・肥育豚舎に分けられ、繁殖豚舎は分娩(ぶんべん)豚舎、繁殖雄(おす)豚舎、繁殖雌(めす)豚舎に細分される。また収容方式によって豚房式とケージ式に分けられる。ブタでは多頭飼育の糞尿(ふんにょう)処理が問題になるので、ケージの床の構造、排糞場所の設定にもくふうがなされている。

 鶏舎には平面飼育鶏舎と立体飼育鶏舎があり、収容するニワトリの成長段階や飼育目的により育雛(いくすう)舎、採卵鶏舎、ブロイラー舎、種(しゅ)鶏舎に区分される。立体飼育にはケージ飼育とバタリー飼育があり、現在はほとんどケージ飼育で、採卵用、ブロイラー用ともに壁面構造によって開放式と無窓式の区別がある。後者では照明時間も人工的に完全に制御できる。給餌(きゅうじ)、給水、集糞も自動化され、1人で管理する羽数が著しく増大している。

[西田恂子]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「畜舎」の意味・わかりやすい解説

畜舎
ちくしゃ
stable; barn

家畜を飼養する建築物のこと。家畜管理の能率化と自然の気象から家畜を保護することとの2つの役割をもつ。したがって畜舎の要件は,位置,方角,通風,採光,換気,保温が良好で,給餌,掃除の管理や衛生管理に適切な設備が整っていることである。牛舎の様式が単屋式からスタンチョン式,追込み式に変遷したのも,管理の経済性を増進させると同時に,家畜の生物学的,物理学的環境の制御を向上させようとする環境の合理化を示している。

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世界大百科事典(旧版)内の畜舎の言及

【バーン】より

…粒子が標的の原子核などに衝突する確率の大きさを示す衝突断面積の単位で,記号b。原子核物理学などにおいて使われる用語。断面積は,入射する粒子に対する標的の有効な大きさを面積の次元(m2)で表したものであるから,バーンは面積の次元をもっている。一方,原子核の半径は10-14m程度であるから,その仮想的な幾何学的断面積は10-28m2程度である。これらのことから,便宜上,1b=10-28m2と定められている。…

※「畜舎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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